第3話
スマホから流れるアラームの音で目が覚める。
夢ではなかったか……。
自分の部屋ではない見慣れぬ天井が視界に入ると昨日の出来事が夢ではないことを突きつけられるようだった。
ベッドから降りるといつも通りの日課を始める。
座禅を組み精神を集中させる。丹田に力を集中させては身体中に行き渡らせる。
これはDSSに通う者なら誰もが習う必修科目だ。
全ての基本となるエネルギーを一点に集中させ解放する。この鍛錬はここ数年で解明された探索者の不思議な能力の大元となる技術だ。
これをいかに早く、強力にできるかで技の威力が変わってくるといわれている。
今日はいつもより調子が良く日課をスムーズにこなすことができている。
誰か来たみたいだ。
日課をこなしていると扉の向こう側から人の気配を感じられた。
コンコンと扉を叩く音が部屋に響く。
「お食事の準備が整いました。案内いたしますので支度が終わら次第、お部屋から出てきてください」
日課を終わらせると用意された服を羽織り扉を開ける。
そこには昨日部屋まで案内してくれたメイドが立っていた。
「お待たせしました」
「こちらはどうぞ」
メイドはそう言うと先導して歩いていった。
昨日とは違う経路だぞ……。
探索者の才能。昨日の夜にマッピングを選んだ俺は今歩いている経路が食堂から部屋までの昨日の経路と違うことに気がついた。
「こちらになります」
たどり着いた先には見覚えのある扉が存在した。そして扉が開かれる。
そこは俺が召喚された時にいた広間だった。
どういうことだ?
思考を巡らせていると背中を押された。
バランスを崩し部屋と入る。後ろを振り向くとメイドが部屋の扉を閉めていた。
ガチャリと鍵がかけられる音がする。
やられた。
何かされるとは思っていたがここまで早く行動されるとは思っていなかった。
何も準備できていない状況に焦りを感じる。
ハイヒールの音を鳴らしながらアンネローゼがこちらは近づいてきた。
「あなた用済みなのよね……」
汚い笑い声を響かせながらアンネローゼは俺に言い放った。
「用済み……とは?」
「あなたって勇者じゃないじゃない?そんな人物が勇者様の近くに居座られて変なことを吹き込まれると困るのよねぇ」
「そ、そんな」
俺は絶望したような表情をあえて浮かべる。
俺のそんな顔を見たアンネローゼはさらに気分を良くしながら饒舌に話し出す。
「あなたはこれからどこかに飛ばさせてもらうわ。まぁ、楽に死ねることを願うといいわ」
「送還はできないって言ってたじゃないか!?」
「あら?本気にしてたなんて滑稽だわ。あんなの勇者様をその気にさせる嘘に決まっているじゃない」
やはり彼女の本性は下劣なものだった。
しかし送還はできるとは良い情報を聞けたな。
「あなたと話をするのもあきたわ。それじゃあもう二度と会うことはないでしょうけど」
アンネローゼがそう言い杖を振ると俺の足元に魔法陣が現れた。それは鮮烈な輝きを放つ。
俺の目の前が真っ暗に染まる前に視界に入ったのは高笑いするアンネローゼだった。
光が収まった先は森の中だった。周りの地形を把握するためにマッピングを起動する。
しかし俺のスキルレベルではまだ半径1キロの状況しか分からない。
俺のマップに表示されたのは辺り一面森が広がる光景だった。
ガサリと背後の草むらはが揺れる音がする。そこからは大きな角を額に生やした兎らしき生き物が現れた。
一角うさぎか?
ダンジョン内の低階層で出現されると言われているモンスターと姿が酷似していた。
兎は俺を視界に入れるとその角を前面に出し突進してきた。
その程度の直線的な攻撃なら!
俺は横にずれその攻撃を避けると兎に向かって蹴りを放つ。
俺の予想を遥かに超える威力を出した蹴りは一撃で兎の意識を刈り取った。
ぴくりと動かなくなった兎。そいつから淡い光が俺はと降り注ぐ。
不思議な時代に俺は思考の海に潜った。
今日の朝も思った事だがこの世界に来てから体の調子が良すぎる。才能レベルが上がってはいるがそれだけでは考えられないほどの身体能力だった。
それにダンジョンでもないのに才能の上がり具合がおかしい。
才能は通常ダンジョンに潜っている時に成長していき、レベルが上がる。
だが、今朝起きた時にはすでにレベルが上がっていたのだ。これから考えられるなこの世界はダンジョンとして認識されているのではないかと俺は考えた。
つまりこの世界にいればいるだけ俺は成長できる。そう考えると背筋がゾクゾクと震えるのを感じた。
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