第1話
どういうことだよ!?
俺は困惑を隠さずにいると突如隣から大きな叫び声が聞こえた。
「異世界召喚来たーーー!!!」
声のした方を見るとそこには制服に身を包んだ四人の男女がいた。
その中の一人が立ち上がり、両腕を天に伸ばし涙を浮かべていた。
「この国をお救いください」
そう言いながら豪華なドレスに身を包んだ美女がこちらへ近づいてきた。
あまりの美貌に言葉が出なかった。それは俺だけではなく周りの人達も動かないでいるようだった。
一番初めに動き出したのは大声を上げた少年だった。美女の手を握ると興奮した様子で喋り始めた。
「僕たちが勇者ってことですよね!?何か特別な能力があるんですか?魔王とかいるんですか?」
少年の態度に若干引いた様子を見せていた。
「その通りでございます。私たちの国は今、魔王の脅威に脅かされています。この状況をお救い出来るのは勇者様しかいません!」
美女の目から涙がこぼれ落ちる。それを見た少年は覚悟を決めたような顔つきになる。
なんだか芝居くさいな……。
探索者として観察力を磨いている俺の目にはそう映った。
その説明で納得できたのは少年だけであり、他の少女は反論をしていた。
「私たちを元いた場所に返してください」
「申し訳ありません。魔王が暴れ回ったことにより送還方法が失伝してしまいました」
申し訳なさそうに美女は言うが、普通ならば送還方法より先に召喚方法の方を失伝させるのではないだろうか?
俺の中では疑念が膨らむばかりだった。
「しかし、魔王が送還方法を知っているかもしれません。倒すことさえできれば何か方法が見つかると思います」
美女は一筋の希望を彼女たちに提示する。
ここまで言われてしまえば逆らえるはずもなく、彼女たちは大人しくなった。
「事情は分かりました。私達はただの学生です。戦える能力など持ち合わせてはおりません」
リーダー格であろう少女がそう告げるが、美女は待ってましたと言わんばかりに話し出した。
「ステータスと唱えて頂ければ勇者様達のステータスを確認することができます」
「勇者様は特殊なスキルを所持されていると伝承で残されています。確認してみてください」
それを伝えられた瞬間、少年が興奮した様子でステータスと唱えた。それを見た少女達も続いてステータスと唱え始めた。
俺は心の中でステータスと唱える。幸いにも口に出さなくても確認できたようで目の前には半透明なウィンドウが現れた。
名前:松下龍空
年齢:20
属性:無
職業:探索者
何だこれは?
俺の知っているステータス画面ではなかった。探索者になると取得できるステータスはスキルツリーのようなものであり、その人物の才能により内容は変わるというものだ。
だが目の前に出たステータス画面はそれには当てはまらなかった。
「皆様には複数の属性と職業に勇者と出ておられると思います」
「出てました!!」
美女の説明の通り他4名は勇者であり、3種以上の属性を持っているみたいだった。
俺は手を挙げると美女が反応した。
「どうなされましたか?」
「俺の属性は無属性で職業も勇者ではなかった」
俺がそう告げると美女は一瞬だが侮蔑の目をこちらに向けた。
「そ、そんな……。確かに伝承によると呼ばれる人数は4名だったはず……」
美女はその場にへたりこんでしまった。
最後の方の言葉は小さすぎたため聞き取ることが出来なかった。
「大丈夫ですか!?」
近くにいた少年がを差し出すと美女はその手を取り、立ち上がった。
「安心しな!勇者であるこの俺が世界を救ってやるからあんたはここで震えているといい!」
勇者ではなかった俺をバカにするように笑いながら少年は指をこちらに向けてきた。
この先どうなるんだ……。
急に飛ばされてしまった異世界で前途多難だなんて……。
最悪を想定しながらこれからのことを考えると憂鬱な気分になった。
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