【四話】「スクール水着で肉を喰らい、学ランが見下ろす」
午前六時、朝食時の庄司家はまさに
皆が絶口し、お手伝いさんの作った和食を揃って黙食している。
庄司家に生まれた者たちはこの食事に対して不満は一つもなく──嫁、婿として来た者らもこの生活には慣れ親しんでいた。
食事は寡黙たれ、口を慎められなければ身内なれど斬る。
彼女、彼の警護係である
片時も離れず傍にいる彼女は食事時であろうと後ろに立って、食べ終わるのを待っている。いつも窮屈そうに正座で俯いているが、今日はそんな彼女がいないの。
「じぃじ、酒呑童子様はいらっしゃらないのですか?」
食事も終わり、食器が運び出されると霞命は不思議そうに問く。
「なぁに、今日はアイツの飯の日ってだけだ。食ったらいつも通りお前の警護に付けさせる。それに……」
一瞬口を籠らせ、「んな、糞と一緒に飯なんて食えねぇよ」と十六夜は口を大きく開けて笑いだした。
父の言葉を聞き、永進丸も「お下品」と言いながら微笑を浮かべた。
しかして祖父の態度は年頃の
※
学ランに着替え、学校に行く前にと衆能江に会いに行くことにした。
彼女がいるという場所は普段使われていない小部屋、霞命ですら一度や二度しか入ったことのない部屋の前に立派な制服を着た背の高い警備員が一人立っていた。
見かけると共に足を急がせ部屋の前に立とうとするが警備員はそれを塞ぎ、鋭い眸で見下ろしてくる。
「霞命様、これ以上先は許可なくば進む事は許されておりません」
「僕は酒呑童子様の警護対象です、僕を殺せば彼女だってタダでは済まないはずですので危害などは加えられませんよ」
「ですが、それでも通すことは……」
大人であろうとも屈しない瞳を澄まさせながらも、諦めた様に踵を返そうとした瞬間──霞命は回し蹴りを叩きこんできた。
されど、一撃は警備員の腰を横切るだけに止まり──突然の事に肝を冷やし唖然としながらも我に返り叱ろうとした途端、警備員は腰に付けていた鍵が取られた事に気付く。
取り返そうとした時にはもう既に鍵は開けられていて、入り込むと霞命はすぐさま内鍵を掛け、奥にある襖へと足を運び、勢いよく開けた。
そこに衆能江はいた。
霞命は言葉を発さず、沈黙として彼女の食事姿を見下ろす。
いつもの着物ではない──夏のプール授業で
まるで泥遊びした無邪気な子供の様に、辺りや水着、体を汚している。
白い四肢、赤い唇、紺のスクール水着──その全てが赤で、鉄の匂いが空気を汚くしていた。
床や壁に満遍なく敷かれたブルーシートの上に腹をかっ
原形を留めていない生き物だったモノは見たところ、どうも解りやすく慣れ親しんだ形が少し残っている。
犬や猫でもない、熊にしては小さく、猿のような、しかし、あぁ、やはり……ヒ
「ちょっと、勝手に入ってこないでよ」
衆能江はムッとした表情で叱りながらも爪や骨ごと噛み砕き、持っていた指を一気に飲み込んでいった。
霞命は生き物の常識的行動ながら残酷な場面に会っても、顔色を変えず話を続けた。
「お食事中、留守にしていたのでどうしたものかと」
「ン……? あぁ、私は普通の人間みたいに毎日食べなくても持つの。二週間に一回こうやって食えば良いからさ。今日がその日だったのよ」
いつも通りの口調で淡々と話しながらも、頭部から目玉を抉り取り口元へと運んだ。
舌の上で少し弄びながら、噛んで飲み込むと今度は申し訳なさそうに話しだす。
「霞命さ……ちょっと外で待っててくれない? 飯食うの見られてると何か恥ずかしくて……ほら、排泄中とか性行為とか他人に見られるの嫌っしょ? そんな感じ」
小さい子に言い聞かせるように喋ると、霞命は一つ頷きその場を後にして行った。
それでも、彼の表情は変わらず。
※
──久しぶりの飯は、細みで食いごたえはあんましだった。
定期的に一人送られてくるという死刑囚や無期懲役囚とやらを始めて食べ、全身を消毒して着替えると私たちは車で学校へと向かった。
そこでの会話は殆ど無かった、あんな食事姿を見てしまったのだから無理も無しだけど。
警護に就いて二週間経ったけど、彼から信頼が置かれているという事以外何も変化がない。
他に分かった事は、庄司霞命は基本的に無表情で感情が表に出ない、故に友達と話している姿など殆ど見かけない。但しコミュ障というわけでもなく授業のグループ活動では率先して話している。
そして休み時間には、
しかし、そんな中でも女童たちはそんな美しい姿をよく一瞥しているようだが。
だがその間、学校の教員などからバレずに私は彼の動向を見学せねばならないのだ。
自由人である者にとってはこそこそ逃げるような真似は苦行そのもの、そろそろ──脱走の為の第一段階を実行する他ない。
それにはまず、警護対象である庄司霞命を引き込まなければ。
※
霞命が上がるまで風呂場の前で待機するのも仕事の一環、お手伝いさんが目の前をそそくさと通り過ぎて行くのを見ながらも、辺りに人がいなくなったのを確認し左右をちらり見る。
では参るか──気持ちを固め、風呂場の扉を開けて中へと入って行く。
少し広めの洗面所を見渡し綺麗に畳まれた霞命の服を確認すると、私は着物を無造作に脱ぎ捨て始めた。
下着である窮屈なさらしも褌も全て脱ぎ、久方ぶりの風呂へと足を運んで行った。
「霞命、入るね~」
甘い口調で堂々と入って来た私を、白髪を濡らした
年相応の反応を見せるかと思いきや、無言のまま視線を反対方向へと回し体を洗いだした。
冷めた反応も計算内だったので、私は何も言わぬままズカズカと進んで行き彼の背へと体を密着させた。
押しつぶす様に乳房を小さな背に乗せながら、出したシャンプーを手に馴染ませていく。
「んじゃ……髪洗っていくよ~」
私は、霞命の純潔を壊しにやって来たのだ。
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