第7話 邪な魔法陣
「一体どうしたというんだ、これは!」
警備隊中央署へ戻るなり、マヘリアはそう叫んだ。
アンデッドが出現した通報が鳴り止まず、魔導課の手配にてんやわんやしていた。
「そちらは一体だから、通常の警備小隊でいい!」
「西街区にアンデッド出現の通報が――」
怒号に近い声が飛び交う中、ジョステアは平然と近くの椅子に座った。
落ち着かず、フレデリックは彼に近付いた。
マヘリアの元にも数人の隊員が駆け寄った。指示を待つように無言で整列している。
「南に出現したアンデッドが裏返る可能性有り! 魔導課を急行させてください」
「それはワタシが行く!」
マヘリアが悲鳴に近い声のオペレーターへ答えた。
「工業地区で昨晩奪取されたガスの捜索は、いかがいたしましょうか?」
「放っておけ! 今はアンデッドが先だ!」
年配の警備隊員が怒鳴った。
「B3、トルデス公園の駆除へ向かってください」
『こちらB3、了解』
「F2は次の現場を指示するまで、そこで待機」
『おいおい、こっちはもう四件も回ったんだぞ。隊長はまだ戻らんのか』
「戻ってるよ」
『うわ』
「いいから、オペレーターに従え」
『りょ、了解』
「ワタシたちも出るぞ。駐車場へ出ていろ」
マヘリアは並んだ隊員たちに言った。
敬礼の後に、隊員たちがドアを出て行った。
「何故、死体はあちこちに出現してるんだ。しかも確実にアンデッド化してるし――」
マヘリアが防具を付けながら、近付いてきた。
「サンデ村の連中が送っていたじゃないか」
ジョステアがつまらなさそうに言った。
「ホーキンスさんが移動魔法でマーキングに使った野菜、あれが売られて散ったとか?」
「それでは場所の特定は不可能だな――」
マヘリアは細い顎へ手をやり、何かを考えている。
「とにかくワタシたちは王国を守る警備隊として、こいつらを駆除する」
「オレも手伝おうか?」
「いや。お前はデイに連絡して指示を貰え。この原因を探って元を絶たないことには、息切れするのはこっちだ」
「ジッチャンとシーラだろ。二人を見つければ解決だ」
「何を根拠に?」
思わず、フレデリックは反論してしまった。
「なんにせよ、デイと話せ」
「おう」
ジョステアが取調室に向かった。昨日の通信器が繋いだままで置いてあるらしい。
続こうとしたフレデリックを、マヘリアが呼び止めた。
「マーリン。君は学校へ戻るんだ」
「何でです?」
「学校から連絡があったらしい」
マヘリアが紙を手渡した。
式典有り。すぐに戻れ――と書いてある。
「僕はまだやることがあるんだ」
「ワタシに言われてもな――」
フレデリックは紙を握りつぶした。
「僕は僕だ。祖父を讃える式になんて参加するもんか」
そう言い捨てて、大股で歩み去った。
止まっていたジョステアを追い越す。彼の視線がついてくるが、無視をして取調室へと入った。
「ワタシは言ったからな」
ドアが閉まる前に、マヘリアの声が滑り込んで聞こえた。
部屋は無機質にフレデリックを迎えた。事務的な対応に似て、逆に余計な思考を紛らわすことができる。それでも常に付きまとう自分不在の評価を持て余していた。
一つ大きくため息をつくと、全てを振り払うように作業へ没頭した。通信器の接続を確認し、スイッチを入れていく。最後にモニターを点けると、ジョステアが入ってきた。
ジョステアはつかつかと向かいの席に座った。じっとフレデリックを見ている。
横目で感じる視線に耐え切れず、フレデリックが切り出した。
「何か言いたいことでもあるの?」
「フレディ、お前――」
ジョステアが、前に乗り出してきた。
「シーラに気があるのか?」
「え――そっち? っていうか、どういうこと?」
式典へ行かないことを訊かれると思って、構えていたから声が上擦ってしまった。
「シーラがこの事件に関わってると知っていながら、それでも信じてるのはどうしてだ?」
「あの娘は、普通の女の子だよ」
「そこは全く問題じゃない。たとえオレだけに見えなくても、アンデッドだろうとな」
「それは問題にしようよ……」
「あいつがオレたちを――いや、お前をこの事件に巻き込んだんだぞ」
「え――?」
フレデリックは訊き返した。その説を否定したわけではなく、ジョステアが確信を持って言ったことに驚いたのだ。
「さっき村から送ってた死体、随分と傷んでた」
「墓から掘り出された死体だからでしょ」
「最初に送り込まれた死体があれだったら、ジッチャンだって分からなかった。照合にだって時間が掛かってた。オレたちが村へ行くこともなかった」
「村は僕たちが行くことを想定してた――?」
「罠だったんだよ。村長が言ってたろ。オレたちを『学生』だって」
確かに『学生の身で死ぬことを悔やめ』と言っていた。
「普通、思うか? 村の調査に学生が来るだなんて」
「それは……僕らの見た目からそう思ったのかもしれない」
「あいつは『トベルの邪魔をして』とも言ってた」
フレデリックは頷いた。
「オレたちはジッチャンの邪魔をしていない。寧ろジッチャンに助けられたくらいだ。だから、あいつに告げ口したのはジッチャンじゃない」ジョステアが答えに確信を持ったまま続けた。「じゃあ、誰なんだ?」
フレデリックの頭の中に、シーラが墓場で言っていたことが思い浮かんだ。
ある男の望みと執念を叶えようとしている――
<ある男>とは、トベル・ホーキンスのことで間違いない。
あなたはその夢を啄(ついば)もうとしている――
つまりシーラにとってフレデリックは<邪魔者>なのだ。
サンデ村にトベルを邪魔していると、嘘の情報を流したのはシーラだ――ということになる。
結論が出ると、予測していたこととはいえ結構堪えるものだ。
それでも何かと理由をつけ、結論を否定し、意地でも信じることはできた。
それをしなかったのは、ジョステアに焦りが見えたからだ。
「シーラには気を許しちゃダメなんだ」
ジョステアの焦燥を帯びた言葉に、フレデリックは逆に冷静になっていく。
「どうしたの、コーディくん? 君らしくない」
「シーラの狙いはお前だ。お前は当事者なんだ。油断してたらダメだ」
「コーディくん――」
「本気で事件を追う気なら、そこを分かってからじゃないと先へ進んじゃいけない」
ジョステアが本気で心配しているのが伝わった。
昨日から世界観が変わるような出来事に関わり、昂っていた気持ちがようやく鎮まっていくようであった。
フレデリックは静かに息を吐き、頷いた。これは自分への確認だ。
――大丈夫だ。
顔を上げて、ジョステアを見た。
「分かったよ。自分の立場が少し理解できた。先入観を捨てて考えるようにするよ」
ジョステアがにいっと笑い返してきた。
シーラと会った時のことをジョステアへ報告することにした。
「学校へはとても行く気にはならず、一人で土手にいる時だった。シーラさんと会ったのは」
「ふうん」
ジョステアは頭の後ろで両手を組んで、背もたれにもたれかかっている。傍目には興味がなさそうな態度だが、そうではないことは二日を共にして分かっている。本気で飽きているなら無反応なのだ。
「少し話してみて、僕の気持ちを分かってくれる人だと感じた。あんなに本音を吐き出したのは生まれて初めてだった」
「ふむ――」
「だからだよ。今度は僕が守ってあげたい――そう思ったんだ」
フレデリックがシーラを特別視している理由だ。
「それも一種の魔法かもしれませんよ」
声はモニターから聞こえた。
落ち着いた雰囲気のデイが正面を向いて座っていた。
「おう、先生。無事だったか。オレ今、安心」
「心配してくれてたんですね。ありがとう」
口元に苦笑を浮かべながら、デイは続けた。
「マーリンくんとの会話を聞いていましたが、君は時々意表を衝いて賢くなりますね」
ジョステアのことだ。
「そんな褒めるなよ。照れるぜ」
ジョステアは笑った。
そこまで褒めてはいない気がしたが、フレデリックは話を元に戻した。
「僕がシーラさんに魔法を掛けられていた?」
「というよりも魔法を使われていた――というべきかな。言葉巧みに対象者の心情や感情を引き出し、その時に対象者が掛けて欲しい言葉を会話から導き出し、効果的に使うのです」
「それ、魔法か?」
「いいえ。通常の生活で普通の人でも使える、ありきたりの会話術です」
「からかってるんですか?」
デイは真面目に言っていたが、会話の流れから思わずフレデリックはそう訊いてしまった。
「考えてみてください。一般の人が使えることを、法力を持つ魔導師が使ったらどうなるかを」
「すごいことになるんだな」
ジョステアの安易だが的確な総評に、デイだけではなく、フレデリックも苦笑を浮かべてしまった。
「このことから、君たちが戦うべき相手が予測できます」
「そうなんですか?」
「豊富な知識と操心術で、誰かの野望に手を貸すように見せながら、実はその陰で自分の望みを叶えるべく暗躍している――そんな人です」
「シーラさんが?」
「とは限りません。今見えている混乱が氷山の一角、単なる序章に過ぎないように思えるのです」
「やっぱりすごいことになるんだ」
「ホーキンスさん絡みのアンデッド事件は、おとりってことですか?」
「そういう言い方もできますが、それ自体が<誰かの野望>である以上、止めなければならないのも確かです」
これを見てください――と、デイはモニターの向こうで、紙を一枚広げてみせた。
地図だ。数箇所に赤い点が書き込まれている。
「これはマヘリア殿に送ってもらったアンデッドの出現ポイントです」
「円を描いてるな」
「これに君たちが遭遇した箇所も加えるとこうなります」
デイは二カ所、フレキシスコ山と共同墓地を付け加えた。
「うん、円だな」
「魔法陣ですね」
ジョステアの言っていることも正しいが、フレデリックが補足した。
「これが何の魔法陣か分かれば、次のポイントで術者を捕らえることが出来ます」
「でも、まだ何通りも考えられますよね」
魔法陣の幾何学模様は複雑過ぎて、一本違っただけで別の魔法が発動したりする。最後まで描かないと、何の魔法かを読み取るのは至難の業だ。
「先生。この魔法陣とアンデッドの出現が、なんで繋がってるんだ?」
「マーキングになっているんですよ」
デイが答えた。
「やっぱり野菜じゃなかったか」
「普通は野菜だと思うでしょうね。初めは確かに野菜を目印として、移動魔法を使ったのだから、そう思ってしまうのもしょうがありません。しかし分散した一本、二本の野菜ではマーキングにはなりません」
「捜査の目を分散させるためか」
「確かに僕らは出現ポイントの特定を初めから諦めてしまいましたね」
「でもよ。それが何で魔法陣なんだ?」
フレデリックは気付いた。
なぜデイが、二人がアンデッドと遭遇した場所も加えたか――を。
「そうか……ホーキンスさんだよ、コーディくん」
そう――デイが頷いた。
「トベル・ホーキンス殿が歩いた道筋が、魔法陣になっているんです」
「それだけじゃ、アンデッドにはならないよな」
「あくまで私の仮定なのですが、魔界の門が開いたから、死体がアンデッド化しているのです」
さらりとデイは最悪の仮定を口にした。
「結界に守られている王国内で門は発生しません」
「自然発生は――ですよね。意図的には開けます、簡単ではありませんが」
「仮にそれができたとしても、都合良くマーキングのポイントで開くなんて――」
フレデリックは答えに閃いた。
しかし、それは残酷で悲惨な答えだ。
「どうした?」
心配げなジョステアへ、フレデリックは顔を向けた。
「コーディくん。僕らはそれを目の当たりにしてるじゃないか……」
「ん――?」
一瞬考えこみ、ジョステアも思い至ったようだ。
「ジッチャンか――」
「ホーキンスさんの身体に魔界の門が開きつつある――」
「私の推理もそうです。彼のもとへ死体を送り、魔界の門が死体をアンデッド化させている。つまり、彼自身がマーキングであり、門なのです」
「しかもそれ自体が魔法陣を隠すカモフラージュなんですね」
真相に一歩近付いた気がした。
それを更にジョステアの一言が加速させる。
「でもよ。そんな細々と送ったところで、マヘリアたちにやられちゃうだろうに」
フレデリックとデイはモニター越しに顔を見合わせた。同じことを考えたに違いない。
確かに死体を送ってアンデッド化に頼った所で限界がある。もっと大量に、そして一気に呼び込まない限り、王国は揺るがない。
だからこその魔法陣だ。
「結界を無視し、強制的に移動させる呪文がありましたね」
デイが言った。
「しかも集団で送ることが可能な魔法です。サンデ村の狙いは、既にアンデッド化した村人たちを王国内に呼び込むことなんだ」
「その魔法陣に、これは合致していますね。マーリンくん、分かりますか?」
「ええ――。あと、三点で完成しますね」
デイは頷くと、その三点を地図に丸で示した。
ジョステアがモニターを覗き込む。
「浄水場と、市営病院――それと王国宮殿」
「彼らの狙いは宮殿ですね」
「すぐにマヘリアさんに連絡を――」
フレデリックをデイは止めた。
「警備隊はアンデッド騒動が優先です。騒動を放ってまで彼らは動けないでしょう」
確かにその通りであった。確証さえ掴めば、また別だが――。
「オレたちで何とかしよう」
ジョステアから唐突に声が上がった。
「僕らで――?」
フレデリックは不安げな声を上げたが、それしか手がないことも分かっていた。
「浄水場は間に合わないでしょう。市営病院へ向かって、ホーキンス殿を止めてください」
ジョステアは立ち上がった。
「マヘリア殿には、私から報告しておきます」
「よし、いこうぜ、フレディ」
やるしかないですね――と、フレデリックも、椅子から腰を上げた。
「いいですか。人間の身体に門を開くなんて、前例がありません。この推理が正しければ、ホーキンス殿にどんな影響が出ているか分かりません。法力の上昇や身体能力の向上だけならまだしも、予測不能な事態が起こるかもしれません。無茶をせず、無理と分かったら、援軍を呼んでください」
「オレ今、承知」
「マーリンくん」
デイがフレデリックに顔を向けた。閉じられた瞼の向こうで、フレデリックを見ている。
「コーディくんが言ったように、君がこの事件の中核です。引き締めて掛かってください」
フレデリックが強く頷くと、通信は切れた。
再びモニターは黒い画面に戻っていた。
それから、二人は馬車で市営病院へ向かっていた。
石畳で舗装された道を、ガタガタと馬車は進む。山道に比べて勾配も少なく、カーブもないため、乗り心地は音ほど酷くない。
「マヘリアさんが馬車を手配しててくれて助かったよ」
「馬車自体はさっきのやつだけどな」
ジョステアが指差したのは天井だ。といっても一部しか残っていない。右側はドアさえなかった。振動でいつ崩壊してもおかしくない。
「でも、おかげで早く移動できる。上手くいけば、ホーキンスさんより先にたどり着けるよ」
「あの呪文で行けば?」
『あの呪文』とは、サンデ村の人たちが使っていた移動魔法のことだ。
「あれは大陸系の呪文だから、それなりの代償が必要なんだ。人を移動させるなんて――」
フレデリックは説明しながら、眉を顰めた。
「そうだよ。いくらアンデッドとはいえ、集団移動させるんだ。どんな代償をホーキンスさんは払ってるんだ……」
「考えたくもないな」
ただでは済まないはず。しかも魔界の門を同時に開きつつあるなんて――。
トベルは命を賭して臨んでいるのだ。
シーラが守ろうとしているのはトベルだ。となれば、シーラとは雌雄を決することになる。考えたくはないのに考えなければいけないことで頭がぐらぐらした。
壊れたドアから街を見る。
昼の太陽は真上を過ぎた辺りだが、道には人の姿が全く見えなかった。
遠くでサイレンの音がひっきりなしに鳴っている。
「それにしても誰もいないね」
「アンデッドが暴れてるからな。その代わり早く着くぞ」
中央署を出る時、マヘリアの代理から、馬車を用意したことを告げられた。ついでに状況を訊いたが、アンデッドによる被害はゼロだという。建築物に多少損害が出ているらしいが、逆に言えばそれだけだ。
マヘリアが、国内においては優秀だ、と自負するだけのことはある。
フレディ――ジョステアが声をかけてきた。
「ん?」
「お前、じいちゃんが嫌いなのか?」
「――え、誰の?」
余りに唐突すぎて、頭が回っていない。
「お前のじいちゃんだよ。パラスティ・マーリン」
「どうして?」
「<パラスティの日>を嫌がってるようだからさ」
見抜かれていたことに閉口した。
「予行練習に出るのが嫌で、サボっててシーラに会ったんだよな」
気にも留められなかったと油断していた。
気を抜いた時に質問してくるなんて、やはりジョステアは侮れない。
「本当に君には驚かされるよ」
ため息と共に言うと、ジョステアはにいっと笑った。
「嫌いじゃないよ、おじいちゃんのパラスティ・マーリンは。会ったことはないけどね」
「ふむ。オレもじいちゃんには会ったことないな」
「嫌なのは、偉大な魔導師と比べられる、凡才な魔導師見習いの僕自身さ」
「ひがみかよ、実のじいちゃんへの」
「違うよ――」
即答で否定したが、ジョステアの評価は言い得ているように思えてきた。
「いや……。そうなのかな?」
心の底に沈殿してきた鬱屈の正体が自分の祖父へのひがみだとすると、今までの自分が馬鹿らしくなってくる。
「たかが大魔導師と比べられただけで、早々と敗北宣言なんてだらしねえな」
「勝てる道理はないよ」
その比較で言えば当然の答えだ。
「天下一の魔導師を目指すオレの相棒だろ。しっかりしろよ」
「僕はおじいちゃんの代わり――なんだね」
ジョステアが不愉快そうに眉を顰め、凝視しながら言った。
「お前、自分を嫌いなのか?」
「そんなこと――ないよ」
自分を顧みたため、一瞬言葉が止まったが、実際に嫌ったことはないと思ったからこそ、否定した。
「自分を好きなやつが、自分を誰かの代わりだなんて言わんぞ」
――もっともだ。僕の言っていることは、やはりひがみに過ぎないんだ。
「あのな、フレディ。たとえオレが大魔導師に勝てたとしても、お前にまで勝てるとは言えないんだぞ」
ジョステアの言葉が上手く頭に浸透してこない。
「どういうこと?」
「お――病院だ」
フレデリックが、通りの奥に病院を見つけた。
民間の中で一番大きい四階建ての総合病院だ。
さすがにアンデッド注意報が出ているため、庭にも出歩いている人はいないが、混乱は起きていないようだ。
「馬のおっちゃん、この辺でいいよ」
「馬でもないし、おっちゃんでもないぞ」
御者代わりの警官はそう答えると、場所を停めた。
病院からはまだ五百メートルも離れた場所だ。
「本当にここで良いのか?」
「危険だからな」
それにはフレデリックも同意であった。
二人で馬車を降りた。
誰もいない道路をUターンしていく馬車を見送ると、どちらともなく病院へ走り出した。
「これからはオレたちの時代だ。大魔導師パラスティ・マーリンじゃない」
ジョステアがさっきの続きを言った。
フレデリックが見ると、先折れの三角帽の下で、ジョステアは嬉しそうな横顔を浮かべていた。
「お前が高みにいて、オレが追いかけ追い抜く。そうしたら、またお前が追い抜き、オレはまた追いかける。そうすることで、誰も追いつけない高みへ二人で行くんだ」
「目指すは天下一?」
そう――ジョステアがフレデリックの方を向いた。
「オレ今、最高!」
びっくり――声が道に響いた。
「声がでかいよ。ホーキンスさんに気付かれる」
「大丈夫だって」
「どこから、その自信が――」
「だって、あそこにいるぜ」
「え――?」
ジョステアの指差す方――
病院の外壁に、シーラとトベルが立っていた。
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