第3話 白い少女の足跡
王国の中で一番の繁華街が、今歩いている東街区だ。
王宮のある中心部にはお堅い省庁がまとまり、東西南北に四分割した十キロメートル圏内には商業の活発な繁華街があった。
特に東街区は、市民の生活に最も強く結びついている魔導府があるため最も賑やかであった。人が集まるから店も集まり、その店を目当てにまた人が集まるのだ。
買い物籠を持ったおばあちゃんや、剣を下げた騎士、小さい子供連れの母親、肌を完全に隠したローブの魔導師。
普通の人も、力を持つ者も、皆が一様に暮らしている街だ。
人波を縫うように、フレデリックはジョステアと歩いている。
三本ある商店街通りの一つだ。
石畳が靴に心地よい。
「あんな魔法があるなんて知らなかった」
フレデリックは少し興奮気味に言った。
「ああ、あれね。凄いけど、何をするのか知らないんだ」
ジョステアは飄々と言った。
串焼きの香ばしい芳香を過ぎれば、焼きカステラの甘い匂いに変わる。
果実を砕いてジュースにして売る店からも、芳醇な香りが感じられた。
「僕らが作った似顔絵を、王国内外の人の顔と照合して特定する魔法だって、マヘリアさんが説明してくれたじゃない」
「そうなのか?」
「似顔絵も魔法で描いてたよね」
「それは覚えてる。記憶をピンポイントで読み取って、自動筆記で描くんだっけ」
そういえば、ジョステアはそこまでは起きていたが、後は寝ていた。
「デイ先生は、警備隊には魔法を使える隊員は少ないって言ってたのにね」
店先のテーブルで果実酒を愉しむ商人たちの笑い声が、かなり離れたのに聞こえてくる。
「警備隊は役立たずっていう町の噂も当てにならないな」
「他人の評価なんて気にしてもしょうがないさ」
そうだね――少しの間を置いて、フレデリックはそう答えた。
自分のことを言っているようで、自嘲的に自分を傷つけてしまった。
フレデリックは浮かれすぎていた心を押さえつけた。
商店街を抜けると、遊歩道は植樹に導かれる。真っ直ぐな道は、三階建ての大きな建物へ繋がっていた。
魔導府だ。
市民の生活に密着し、王国で唯一、市民の出入り自由な庁舎が魔導府だ。
出生届や死亡届で国民の管理をしたり、王国への入出管理から、税金の課税や徴収、病院の運営、教育の勧奨、環境の保全と維持――わがままな市民に大忙しの官庁であった。
フレデリックとジョステアがここを尋ねた理由。それは、シーラとその叔父さんが本当に国外から来たのかを確かめるためだ。
民生課の入出国管理部――ここなら、それが分かる。
警備隊代理人の証を持つジョステアは、捜査への協力を依頼することができる。だからかもしれない。二人が用件を述べると、一般人がめったに使用することのない応接室へ通された。
それほど大きくはない。二人掛けのソファがガラステーブルを挟んで向かい合って、それで一杯だ。窮屈さは否めないが、ソファの後ろの壁が大きな窓で、午後一番の陽光が差し込んで激しく明るかった。
フレデリックは落ち着かないから、逆に窓を背にしたソファへと座った。
ジョステアは窓際に立って、外の景色を見ている。といっても、窓の外は植樹の重なりしか見えない。記憶が正しければ、その人工の林の向こうには川が流れているはずだ。
こつんこつんとノックの音が響いて、ドアが開いた。
低い物腰の男性が一人、ひょいひょいと入ってきた。
燕尾服のようなスーツを着て、小脇にファイルを抱えている。
ドアを閉めると、フレデリックの横まで歩いてきた。大きく外へ跳ねた前髪が歩く度に揺れている。
「君たちが警備隊の手伝いだという、クシュリナーダ校の特能科かい」
男性は銀縁の丸いメガネの奥で目を細めた。
「ジョスとフレディだ。よろしく」
フレデリックの挨拶を遮り、ジョステアが窓際からそう言った。
「コーディくん……」
「ふふ。民生課のショーン・ロレンスだ」
鼻に抜けるような笑い声を上げてから、男性職員――ショーンは名乗った。
こけた頬は、顔色の悪さから、病的なものを感じてしまう。
早速ですけど――ジョステアが自己紹介後動こうとしないから、フレデリックが切り出した。
「入国者リストが必要だとか」
ショーンの物腰は徹頭徹尾低めだ。
フレデリックは頷いた。
「何日分かな?」
「最低一週間」
「え?」
フレデリックだけではなく、ショーンまで声を上げた。
即答したのはジョステアであった。
「僕が会ったのは今日だよ」
「だからといって今日入国したとは限らないだろ。お前も言ってたじゃないか。旅をしてきた様子がなかったって。もしかしたら、もっと前からいた――とは考えられないか?」
「なるほど……」
ジョステアの意見は理にかなっている。シーラは確かに今日到着したとは言っていない。フレキシスコ山へいた理由も『国境をそこから越えてきた』でなければ、別の事由と考えられる。
「そうなると、一週間というのも具体的じゃないよね」
「いや。一週間でいい。それで見つからなければ他の手を考える」
フレデリックが理由を訊こうとする前に、ショーンが言った。
「王国へ来る人は一日七、八十人。多い時は百人を超える。一週間なら五百人をチェックしなきゃいけないんんだよ」
「そういうこと」
ジョステアが言った。彼は分かって言っているのだ。それに比べ、フレデリックは何も知っていないのだと思い知らされた。そこは表に出さないようショーンに答えた。
「すいませんが、一週間でお願いします」
「分かった。もうちょっと待っててね」
ショーンが部屋を出て行った。手の書類がフレデリックには気になった。もしかして一日分のリストを持ってきたのかもしれなかった。
「もう、用意してくれてたのかな」
「ん?」
「僕たち、何か悪いことしたかも――」
ジョステアが窓際を離れ、正面のソファにどかっと座った。腕を組んだまま大きな黒目がフレデリックをじっと見てくる。
「どうしたの?」
「お前、どうして朝に河原にいたんだ?」
「え? いや――……」
フレデリックは言いよどんだ。ただのサボりだからだ。朝に家を出た時から、学校へは向かっていない。土手の斜面に寝転がって、空を見上げていた。
橋を逃げてくるシーラに会ったのは、そんな時だった。
「今日、明日は授業がないからね。行っても意味がないよ」
「授業がない――……?」
ジョステアが考え込んだ。そのヒントから答えを導き出そうとしているようだ。
「あ、『パラスティの日』か」
正解してしまった。
フレデリックは視線を逸らした。
パラスティの日とは、偉大な魔導師を祝う日のことだ。元々民間でのみの行事だったが、街中の祭りで死亡事故があった次の年、国が引き継ぐ形で正式に定めたのだ。
国のお祭りになって今年で十年となる。
式典は学校で行なわれるのだ。
生徒だけではなく、教育省や魔導委員会の面々も集まる。
王国内の魔法を使う者にとって、大事な祝祭なのだ。
去年までは我慢して出席したが、自分の祖父を奉る式典なんて小恥ずかしい。それだけならまだしも、大魔導師の孫として毎年晒されるのだ。
――もう御免だ。
この一言に尽きる。
「今日は予行練習だよ」
「パラスティ・マーリンが魔人クルヴァスと相打ちになって王国を救った日だっけ。いやあ、オレ今、失態」
「君もパラスティ・マーリンが好きなの?」
「いや」
ジョステアは迷い無くそう答えた。
魔導師を目指す者は例外無く、フレデリックの祖父パラスティ・マーリンに憧れている。会う人、会う人、全てにそう言われる。お偉いさんの中にもファンがいる。
だから否定されるのが初めてであった。
「違うの? じゃあ、何で僕を知ってたの?」
式典での晒し者以外でも、フレデリックは大魔導師の孫として露出が大きい。その方面とは別のベクトルをジョステアに感じ、そう訊いた。
「ああ。それはな――」
今度はノックなしでショーンが入ってきた。重そうにファイルの束を抱えている。
「お待たせ」
ショーンはそれをガラステーブルに置いた。
さっき彼が抱えていたようなファイルが、七冊ある。
「これが、ここ一週間の入国者リストだよ、マーリンくん」
ジョステアはショーンを見上げた。怪訝そうな表情でじっと見ている。ファイルには目もくれない。
「じゃあ……僕が調べるね」
「お前しか、シーラを見てないからな」
「叔父さんの方は、君も見てるでしょ」
返事はなかった。
「何かな?」
ジョステアの視線に耐えかね、ショーンが訊いた。
「どうやって入国してきた奴をチェックしてるんだ?」
ショーンは微笑んで、説明を始めた。
「門のゲートに魔法が仕掛けてあって、顔や背丈、年齢、性別などを読み取るんだ。それをここの魔導府まで送って、登録してある情報と照らし合わせる。王国の住人なら通った時間のみが記録される。登録情報にない場合は、ゲートの管理人に連絡が行くのだ。管理人は該当者を呼び止めて、入国の手続きを取るんだ」
フレデリックはファイルを見ながら、初耳に感心した。そのシステムによって入国の許可された者のリストが、このファイルなのだ。
顔写真と、名前、出身国、その目的が書かれている。複数回訪れている人は、履歴も残っている。
一冊目――今日の分にはいなかった。
「ということはだ。そのシステムを信じれば、この国の人以外はゲートを通り抜けられないってことだな」
「信じていいんじゃないかな。この魔法は正確だし――」
「魔法だからこそ、魔法で誤魔化せると思うぞ」
「へえ……」
ショーンがジョステアを初めてきちんと見た。ためつすがめつの視線には、職員という公務員の域を越えた色が感じられた。
「その紋章は魔封のコーディ家だね。ふふ、実におもしろい。こんなに聡明だとは思わなかったよ」
「オレ今、自慢気」
――何だろう……。
フレデリックは空気に落ち着かない不安定さを感じた。例えるなら、魔法を打ち合う中を駆け抜けている――そんな切迫感だ。
「じゃあ、もし門を通らずに入国するとしたら――だ」
ジョステアがまずその空気から脱した。我関せずの姿勢が、金縛りにも似た緊張感を解いてくれた。
それを誤摩化すように、フレデリックが彼の問いに答えた。
「王国は結界で守られているから、物理的には無理なはずだよ」
「それも魔法でなら可能だと思う」
「え?」
「お前だって言ってただろ。物理的には――って」
「言ったけど……」
「移動魔法には色々あってだな。結界を通る方法はあるんだよ」
フレデリックはその可能性を見落としていたかもしれない。魔法が生活と結びつく魔法大国でありながら、魔法の全てが知られているわけでもない。
未知の魔法の可能性はかなりある。知らないものを知る感覚に、フレデリックはロマンを感じ、期待を込めてジョステアに訊いた。
「例えば?」
「色々だよ」
ジョステアは胸を張ってそう言った。
「そこまでは分かんないんだね」
「しょうがない。先生に訊いてみるか」
素直に非を認めるジョステアに、フレデリックは苦笑を浮かべた。
「ワタシも一つ知ってるよ」
ショーンが笑みを浮かべたまま話しかけてきた。
「何ですか?」
「光属性なんだけど、自らを光の粒子と変える魔法。それなら結界は光としか認識しないので通り抜けられる」
「ああ。目的地で元に戻る奴だな」
「そんな魔法があるんだ……」
フレデリックは二人より劣っている無知に、恥ずかしさを禁じえなかった。
これで優秀だと言われることがおこがましい。
「条件としては、目的地に自分が見つけられるマーキングをしておかなければならないんだよな」
「そうだね。よくご存知で。ふふ」
「よし! そうと決まれば次行くぞ、フレディ」
言葉と同時にジョステアは立ち上がっていた。
「まだ全部見てないよ」
三日目のファイルが半分という所だ。
「良いのかい?」
「どっちにしろ、まともな方法じゃ入ってきてないさ。なら記録に残ってもないだろ。違う方面から攻めた方が捕まえやすい」
なぜそう言い切れるのか、不思議だった。
「どうする気?」
「結界を通り抜けた歪みを調べる」
「だったらワタシの知り合いに、そういった情報に詳しい人がいるよ」
ショーンが提案してきた。
「大丈夫だ。その方面ならこっちも詳しい」
ジョステアは言い切ると、ショーンの横を抜け、そのままドアから出て行った。
残されたフレデリックが慌てた。
「ちょっと、コーディくん――」
フレデリックはショーンに一礼をすると、ジョステアを追って廊下へ出た。
「ふふ。実におもしろい」
廊下の端で、ジョステアが待っていたから、フレデリックは確かめられなかったが、閉まる直前、ドアの向こうから、そう聞こえた気がした。
魔導数理研究所――それが次の目的地だ。
魔導府と同じ東街区だが、王宮から遠ざかった外れの方にある。商店街の喧噪からも離れたブロックで、民家が立ち並んでいる。その更に裏、寂れた感じがする通りに看板はあった。
「ここが歪みを調べる所?」
薄汚れたコンクリート壁の三階建てを見上げ、フレデリックは思わずそう言ってしまった。
一階はシャッターが閉まり、二階も入居者がないらしく、三階の窓の位置に研究所の看板があるだけであった。
ジョステアは頷くと、横のドアから中へ入った。フレデリックも続く。
薄暗い、急角度の階段がフレデリックを迎えた。屋上へのドアが一番奥に見える。
ガラスの覗き窓が陽光を取り入れて眩しいのに、じめっと薄暗かった。
「実はデイ先生から指示があったんだ」
前を上りながらジョステアが言った。
「僕が似顔絵に協力してた時、通信したんだね」
「恐らく例の二人は正規なルートでは入国していないでしょう」
ジョステアは、声のトーンを柔らかめにした。
「デイ先生のマネ?」
「移動魔法を使ったはずです。結界には引っ掛からずとも、その強引さは時空に歪みとして出ます。それを調べてください――……で、ここに来たんだ」
物マネはともかく、ジョステアが確信を持って、ここへ来た理由が分かった気がした。
三階まで上がっていくと、ノックもなしでジョステアはドアを開けた。
「え――」
フレデリックは驚愕しつつも、ジョステアと共に中へ入った。
入って右側は、カウンターとパーテーションで区切られている。機械の作動音のみが聞こえてくる。奥のドアには『所長室』のプレートが掛けられている。残った空間は打ち合わせスペースらしい。
ジョステアは勝手に、本棚の前に置かれたソファへ向かっている。
カウンターから出てきた男性とすれ違う。
「オレ今、退屈」
そう言って、ソファへ転がった。
「なんて挨拶――」
「いつものことさ」
男性はジョステアに一瞥だけして、フレデリックの方へ歩み寄ってきた。
「ゲイドラ・ロメオだ」
男性は名乗ると、握手を求めてきた。
顔の下半分が髭だ。伸びたのか、伸ばしたのか分からないが、縁なしのメガネと相まって研究員っぽい印象がある。そのくせ握手は力強く、目も真っ直ぐ見てくる所は、研究員というよりスポーツチームのコーチのようだ。
「君がフレデリック・マーリンだな」
「はじめまして。僕のことを?」
自分が関与していない所から名前が出てくると警戒してしまう。
「デイ先生から聞いてる」
なるほど連絡が来ていたようだ。
「王国上空の結界に、歪みが出た時の情報を君に渡せってさ」
「僕に?」
「ほら。ジョステアはあれだろ」
ロメオは親指で後ろを指した。
覗き込むと、ジョステアがソファの上で寝ている。組んだ腕を枕にして足を投げ出す様は、とても行儀が良いとは言えない。
「いつも特能科がくる時は、頭を使うのは他の誰かの役目なんだ」
「それで、今日は僕か……」
特別待遇ではない状況が珍しく、戸惑ってしまうが、急に言われても困ってしまう。
「何を考えろというの?」
「それを考えるんだろ」
ロメオが差し出したファイルを、フレデリックは受け取った。
ジョステアへ一瞥を投げたが、寝ている相手に睨んでも効果はない。
ため息一つで諦めると、カウンターに資料を広げた。
唯一のテーブルはジョステアが寝ているからだ。
資料へ目を移す。グラフや地図に数値や説明が記されている。グラフは横軸が日時、縦軸がその大きさだ。吹き出しで場所も分かる。
「こんなに歪みが――?」
「最近、多くなってるね」
ロメオはグラフの説明を口頭で追加してくれた。
「15のラインで紅い線が引かれてるだろ」
フレデリックはグラフ上でそこを見た。
「そこより下は気にしなくていい」
「何故です」
「小石が通り過ぎても反応しているからね、その数値なら鳥や小動物だと言える」
「もし魔法で鳥に化けていた場合、結界は無意味ってことですか?」
「結界は法力に反応している。変化の魔法で化けていたら、法力が放出されているだろ」
「この数値で収まるはずがないんですね」
ロメオは頷いた。
「そこで、ラインを超えた五つのポイントだ」
ロメオは資料をめくった。各ポイントを示した、五枚の地図がそこにはあった。
「どれも規定内で騒ぐ程じゃない。警備会議で報告しても警戒レベルは1だろうからね」
ロメオがまだ何かを話しているが、フレデリックは独自の着目を始めていた。
今朝のフレキシスコ山には五点ある。
今日の昼にも四点記録された場所がある。
これらは、歪みが認識されてから十数秒持続している。
一秒くらいの短さで反応しているのを除外すると、もう一カ所、二日前の歪みが同様の数値を示していた。
「きっとここから始まってるんだ」
「なんだって?」
ロメオは聞き返したが、特に答えを求めたわけではなさそうだった。それ以上の追及はなかった。
「ありがとうございました」
フレデリックは言うと、ジョステアを起こした。彼は跳ね起きると、大きく伸びをした。
「この五枚の地図は――」
「持っていっていいよ」
ロメオの了承を得て、フレデリックは地図を持って、研究所を後にした。
ジョステアが研究所で発した言葉は、『オレ今、退屈』と、部屋を出る時の『じゃ』だけであった。
二日前に歪みがあった場所は、北街区。住宅が密集している地域にあった。
生鮮を扱っている店。その屋上だ。
生鮮店は近隣諸国の名産を取り扱っている。見慣れない海の幸や山岳野菜が数多く店頭に並んでいた。
店主を伴い、めったに行くことのない屋上へ上がると、円形の窪みを中央に見つけた。
「ビンゴだな、フレディ」
修理費を換算して青い顔の店主に反し、明るい顔でジョステアが言った。
フレデリックは頷いた。
「魔法で一度バラバラになって、光のように一瞬で移動し、元の身体に戻る。戻る時に、術者の持っている法力が強く反映される――」
「マヘリアの言ってた通りなら、こいつ強いぞ」
窪みは五メートル近い大きさがあるが、大きさでレベルを計ったわけではない。二日経って尚残る法力の幽かな波動から頷いているのだ。
魔導府を出たジョステアは、マヘリアに連絡を取った。その時に、移動魔法について調べてもらったのだ。シーラたちがそれを使ったとは限らないが、ここの様子からすると――
「この魔法で正解かもしれないね」
「でもよ。この術はマーキングが必要なんだろ」
ジョステアにつられて、フレデリックも周りを見回してみた。
それらしきものはない。
「回収したとか?」
「それが出来るくらいなら、移動魔法なんかいらないだろ」
「ごもっとも……」
ジョステアが昇降口へ移動を始めた。
「次に行こうぜ」
「手掛かりを探さなくても?」
「それはマヘリアに任せようぜ」
呆然とする店主を横目に、フレデリックも歩き出した。
ジョステアはもう階段を降りていっている。
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