第2話 謝炎光〜出会い〜
チュン...チュン
窓の外から小鳥のさえずりが聞こえる。
「よし」
鏡の前で身だしなみをチェックし外へ、ちなみに朝ご飯は、昨日残ったシチェーとパンを食べた。
「おはようございまーす」
今日マガラ村は、普段より活気に溢れている、道沿いには屋台が並び、早朝にもかかわらず多くの人々が往来している、その中にはマガラの人だけでは無く、近くの村、都市からの人も多く見受けられる。
「おや、おはようエリス」
声の方を見るとマガラ村の村長ジーバンさんが片手で手招きしていた。
「おはようございます、ジーバンさん、凄い人の数ですね、あの人達は感謝祭の参加者なんですか?」
ジーバンさんに感謝祭について教えてもらった、マガラの感謝祭はかなり有名らしく特に祭りの最後に上げる(謝炎光)はその美しさから一生のうちに一度は見るべき重要文化的景観とまで言われていると、
「はぇ〜そんなに凄い祭なんですね〜私も参加したかったなー」
エリスは祭の間、村の周りを巡回しなければならなくなり、祭に参加することは出来ないのだ
「それは、残念だがエリス、その代わりに謝炎光が綺麗に見える穴場を君にだけ教えよう、巡回の途中にでもその場所から観てみるといい」
村長の粋な計らいにエリスは笑顔で頷きこっそり穴場を教えてもらった、
そして祭りが始まった
エリスは、村の中から聞こえてくる歓声や笑い声などを聞きながら村周辺の巡回をしていた、
「そろそろかな」
先程までの歓声は静まり辺りは静寂に包まれる、
目的地の穴場まで小走りで進む、その場所は草木が生い茂る斜面を登って行かなければならない為エリスの髪や服には落ち葉や草の種が引っ付くが気にせずしばらく進むと開けた場所に出る、ここから村が一望出来る、ここが村長の言っていた穴場だ。草の種や落ち葉を払い、謝炎光の始まりを待つ
しばらく村を観ていると光がポツ..ポツと灯り始める、その光はやがて村全体を照らすほどになり一つ一つの光が天に向かって伸びる。
「わぁー綺麗」
エリスはこの場所を教えてくれた村長に感謝しながら村全体を見渡す、そしてサザール霊峰に目を向けた時、ある一点に目が釘付けになる、霊峰の中腹付近に何故か一つだけ謝炎光のような光の柱が登っているのだ。
「あの光は、何だろ」
冒険者があの場所で焚き火をしているだろうか?
たしか、霊峰に入るには村長の許可が必要なはず
村長のところに行こう、エルサは村に向かって走り出した。
エリスが村に着くと祭りの参加者も霊峰の光を観ていた、あの光は何だ、冒険者だろう、もしかしたらフルマ様かも、いろいろな憶測が飛び交いちょっとしたパニックになっていた
「ジーバンさーん」
エリスはジーバン村長に今日、霊峰への入山者はいるのか聞いたところ、入山者はおらず、そもそも夜間は入山を規制している事を告げられた。
それを聞いたエリスは自分が確認をしに行く事を村長に伝えた、最初は反対されたものの、万が一遭難者だった場合、あるいは乾燥による山火事の前触れ
かもしれないと伝えると、渋々首を縦に振り、霊峰の地図を持ってきてくれた。
「よーし準備万端」
霊峰へ入山する準備が整い村の入り口へ向かうと村の人達と祭りの参加者が集まっていた。
「エリスちゃん、気をつけて行くんだよ!危ないと思ったらすぐに帰ってくるんだよ!」
村の人達が自分の心配をしてくれていることに嬉しくなると同時に、必ず解決してここに戻ってくると心に決めた
「はい、必ず戻ってきます、では行ってきます」
そしてエリスはサザール霊峰へと向かった
霊峰までの道のりはアップダウンはあるものの、そう険しくは無く、小走り30分程で到着した、エリスは夜間に霊峰へ来るのは、初めてだった。昼間とは違い神秘的とは少し違う不気味な気配で覆われている。
「あの場所に行くには、この山道を真っ直ぐ行って
分かれ道を左に行けばいいのか、よーし頑ば.!!」
地図を見ながら進んでいると、突如前方から強い魔力と殺気を感じ、近くの茂みに飛び込み息を殺し、周囲を警戒する。すると前方20メートルの距離に
巨大な影が動く、目を凝らすとその正体に気づく、
(グレートホーン!?何でこの霊峰にいるの、この地方にはいないはずなのに)
本来この霊峰にいるはずのないモンスターがいる、
それだけで問題なのだが、グレートホーンはかなり手強いモンスターで、その巨大な角から強力な衝撃波を放ち攻撃をしてくる、実力者であろうとも一対一で勝利するのは難しいと言われるほどなのだ
(見つからない様に、慎重に行こう)
地図を折り畳みサイドポーチの中へ入れる。
体勢を低くし音を立てないようにゆっくりと進んで行く、グレートホーンとの距離が離れ、安心した時
近くの草むらから1匹のトニーラビットが飛び出した、その瞬間、後方のグレートホーンがいた場所から凄まじい殺気が襲う。
(まずい、ここから離れないと!)
現在地から離れる為に走ろうとした瞬間、浮遊感が襲い、すぐさま全身に激痛が走った。
「っあがぁっ!」
グレートホーンの衝撃波喰らったエリスは吹き飛ばされ、巨木に背中から叩きつけられてしまう、肺の空気が一気に抜ける。朦朧とする意識の中、グレートホーンの狙いが自分では無く、トニーラビットであることに気づき、激痛が走る身体を何とか動かし、その場を離れる。
「ゴホ ゴホ ゴボェ」ビチャビチャ
何とか歩いていたが、強く咽せ込み、吐血してしまう、その場に座り込み呼吸を整える、腹部を抑えると突き刺すような痛みが襲う、内臓をやられたのだろう、木にもたれかかり休憩をし現状を考える。
(このまま、ここに居ても私の血の匂いに誘われたモンスターによって殺されてしまう、かといって戻るとグレートホーンがいる、このまま進むか、地図は
...良かった無事だ。よーし頑張るぞ、絶対帰るぞ)
自分を鼓舞し地図を見ながら進む、地図は自分の血によって見えない場所があるものの目的地までのルートは、はっきり記されていた。
幸い目的地付近までの道中、モンスターに会うことは無かった、そして光の発現場所を探していると、
強い血の匂いが辺りに充満する。
(血の匂い?私の血の匂いじゃない、私以外の誰か..
あの奥から匂いがする)
エリスは腰の剣を抜き警戒しながら近づいて行く、
そして一本の木を挟み動きを止める、この木の向こう側に血の匂いの発生源がある、呼吸を整える。
(落ち着け、呼吸を整えろ、よし!)
木の陰から勢いよく飛び出し剣を構える
「...!!!」
エリスの目に飛び込んできたものは、人だったもの
それは首から上が無くなっており、身体中モンスターに喰い千切られていた、余りの惨状にエリスは動けずにいた、だがあることに気づく
その遺体は、何かを守る様に地面に蹲っているのだ
両手で何かを隠している、そして近くには焚き火をした後があり、霊峰の光はこの場所からだったと気づく、
(私がもっと早く着いていれば、この人は無事だったのかもしれない)
エリスが後悔の念に駆られていると
ガサ..ガサ
「...えっ!!」
目の前の遺体がぎこちなくも立ち上がったのだ。
そしてエリスの方向を向き、その手には何かを抱えている。月明かりに照らされそれが顕になる。
「!...赤..ちゃん」
首の無い遺体は乳児を抱えていた。こちらに一歩ずつよろめきながらも近づいて来る。不思議とエリスは恐怖心を抱かなかった。
エリスの目の前に来ると、手を伸ばしエリスへ乳児を差し出す、まるで、この子を助けて下さいと懇願している様にエリスは感じた。
(!....分かりました)
エリスは乳児を抱き抱えた、首元には目元を覆う仮面の様なものが下がっていた。
ザーーー
突如目の前にいる首の無い遺体が光の粒子となり身体が消えて行く、まるで我が子が救われたことに満足しているかの様にゆっくり、穏やかに消えていく
「この子は!私が責任を持って育てます。だから安心して下さい!」
エリスは叫んだ、言葉にして伝えたかった、ボロボロになりながらも我が子を守った目の前の母親に対して
(アリガトウ)
ありがとう、そう聞こえた気がした。エリスは乳児を抱え片道を戻ろうとする、すると目の前に真っ赤な羽毛に包まれた小鳥が降りてきた、その小鳥は飛ぶことはせずにピョンピョンと跳ねながら道を進み
距離が開くと、こちらを見つめる、ついて来いとこ言っている様だった。
(ついて行ってみよう)
赤毛の小鳥について行く、気がつくと霊峰から下山していた。
「ありがとう、小鳥さん」
エリスが礼を言うと、肩に乗りチッチュと一鳴きした。
エリスが中々帰ってこないと村人達が心配していた所に全身血まみれ、腕の中には乳児、肩には鳥
を乗せたエリスが戻った時には村中大騒ぎになった
そしてベッドで治癒魔法をかけて貰いながら、出来事をジーバン村長に説明する
「....ということがありました」
ジーバンは最初は信じられなかったが、エリスの怪我、謎の乳児、赤毛の鳥 説明を受け事実だと確信した。
「それで、エリスこの赤子は、」
「この子の母親になります」
ジーバンの質問にエリスは即答だった、私がこの子の母親になる、これはエリスの中で決まったことなのだろう。
「分かった、だが君だけに背負わせるわけにはいかないね、私たちも全力で手助けするよ」
ジーバンの言葉にエリスは目頭が熱くなった
「ありがとう..ございます」
そしてエリスは眠りについた
この慈愛に満ちた世界で〜私は立派な騎士になる!〜 @yamamoto2989
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