第90話

 咄嗟にオリビアさんが俺を受け止めてくれたおかげで、俺は転倒せずに済んだ。

「もう暫くベッドで休んで下さい。足が萎えてしまっているようですので、食事が済みましたら私が足を動かす手助けを致します。」


 足が萎えるって何事!

 もしかして俺、何日も寝込んでいたのだろうか。


 仕方がなく寝る事にしたが・・・・エレンがやってきた。

 何やら深刻そうな顔をしている。

 オリビアさんが礼をして去って行った。

 一体何なんだ。

「ヘイマンス殿、私はこれからダンジョンへ向かう事になった。」

 うん?どういう事だ。

 「ダンジョンって一人で行くのか?」

 エレンが突然言い出したから思わず聞いてしまった。。

 しかし実家にはボプさんが仕掛けていった武具の回収をしに来たはず。

 なのに・・・・もしかして既に目的の武具は無いとか・・・・あり得る。

 誰かが持ち去った、若しくは武具を得てダンジョンに向かったとか。


 可能性としてはエレンの兄弟が持ち去り、ダンジョンに向かった・・・・エレンに兄弟がいるか知らんけれど。


「弟と従弟が武具を持ち去った。目撃情報からダンジョンへ向かったのは間違いないようだ。2人を追ってこれからダンジョンへ向かう事にした。」

 予想通りの展開。

 だが俺は足が萎えてまともに動く事が出来ないんだ。

 もう少し待ってもらえれば一緒に向かう事が出来るんだが。

「そんなに急ぐのか?俺とエレンだったらあっという間に追いつくはず。俺が回復するまでの数日、待てないのか?」

 エレンは何だか神妙な表情をしている。

「これ以上ヘイマンス殿を巻き込むわけにはいかない。既に相当深入りさせてしまった。」

「何を今更言っているんだよ!もうここまで来たら最後まで・・・・」

 俺は最後まで言えなかった。何故ならエレンが俺の頭を抱き寄せ、その後俺の顔にエレンの顔が・・・・口づけを・・・・エレン?

「今までありがとう、ヘイマンス殿には感謝してもしきれない・・・・私はヘイマンス殿を・・・・生涯愛すると誓う・・・・迷惑はかけないつもりだ・・・・さようならヘリッド・ヘイマンス殿。」


 俺はエレンが何を言っているのか理解できなかった。

 いや、愛するとか単語では理解している。

 だが・・・・愛すると言いながら何故さようならなのか。


 そしてエレンは俺をフルネームで呼んだのはこれで二回目だ。

 最初に声を掛けられた時と、今回。


 俺は去り行くエレンの背を見つめながら・・・・追いかけようとあがいた結果、無様にもベッドから落ちた。

 一瞬エレンが止まったが、そのまま去ってしまった。

 俺は何とか起き上がり、歩こうとしたが脚に力が入らない。

 また転倒し、這って進もうとしたが、腕も力が入らない。

 こうして俺はエレンと別れる事になった。

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