ママは奉仕して殲滅する(1)
「……! 貴様、まさか……!」
「ええ。そのまさか」
今から俺は、シャロンの耳をほじる。
ほじってほじって、ほじりまくる。
相手が人間ならば、これは通用しない。
なぜなら大多数の人間族は、耳垢がベチョベチョしているからだ。
飴耳というやつである。
東の方の国だと、たまにカサカサした粉耳タイプもいるらしい。
だが俺達のいる地域では、圧倒的な少数派だ。
なので普通の人間には、耳を掃除する習慣などない。
たまに布で穴の周りを拭くくらいだ。
対する亜人は、粉耳タイプが多数派。
エルフもハーフエルフもそうだし、オークや獣人やハーピーだって、皆カサカサしているのだ。
よって俺達亜人には、耳の中に棒状の衛生用品を差し入れ、掃除する文化がある。
人間でないからこそわかる、共通体験。
それがお前達の命取りとなる。
耳を掃除される気持ちよさを知っているからこそ、今から始まる行為を見ずにはいられまい。
「正気か……? 純血の人間族は、耳垢がネチョネチョしているのだぞ。耳に棒を入れたり、しないのだぞ!?」
「その通り。この娘はきっと、ただの一度も耳を掃除したことがない」
亜人軍にどよめきが広がる。
「人生初の耳掃除だと?」
「無理だ。絶対怖がる」
「痛がるに決まってる」
と俺をあざ笑う。
「やってみなきゃわからないでしょう?」
俺はシャロンの頭を撫でると、耳元で囁く。
「お母さんに全部任せて」
平素はあれほどの狂気を感じさせるシャロンも、今は黙って頷いている。
「いい? 絶対に頭を動かしちゃ駄目」
俺も初めてエリナにこれをされた時は、恐怖におののいたものだ。
こんなとこにそんなものを入れるなんて変態なんじゃないの、と男らしさを喪失して喚いたりもした。
だが、されてみてわかる。
これはいい。
とてもいい。
戻ってこれなくなる。
施術者の腕さえよければ、神経を持った体で生まれてきたことに感謝したくなる。
俺はミスリル耳かきに息を吹きかけると、さっとハンカチで拭く。
それが済むと、畳んだハンカチをシャロンの肩に置く。
漆黒の法衣に、白い布がよく映える。
「な、何が始まるんですの……?」
両の拳をぎゅっと握りしめてこわばるシャロンには、小動物的な可愛らしさがある。
痛みを感じさせるわけにはいかない。
失敗は許されない。
「心配ないよ。亜人の親子なら、皆やってることだから」
「……わかりました。ママを信頼します。でも無理そうなら途中で、リタイアしていいですか……?」
「いいよ」
その時は俺の失態だ。
子供に苦痛を与えるママなど、ママではない。
それはただの生物学的な親であり、卵を産み落としてはい終わりな生き物と何ら変わらない。
まあ俺はシャロンの生物学的な親ですらないんだけど。
普段のシャロンは卵で生まれてきたんじゃね? って言いたくなるぐらい人間性に欠けてるけど。
ええい、雑念を振り払わねば。
指先に神経を集中させる。
細心の注意を払いながら、シャロンの耳たぶに耳かきを当てる。
匙の腹部分を、ぴたりとくっつけただけだ。
「ぁ」
一瞬、シャロンの肩が跳ねた。
問題はない。
ただの条件反射だ。
とはいえ初体験においては、この感覚はかなりの衝撃だ。
必要以上に緊張していなければいいのだが。
少し身を屈めて、シャロンの表情をうかがう。
固く目をつむっていて、リラックスしているとは言い難い。
「お母さんの指だと思って、力抜いてみて」
「……硬いし、冷たいですわ。こんなのママの指じゃないもん」
ちょっと温め足りなかったか?
俺はもう一度耳かきの先端に、はあっと息を吹きかける。
呼気が水滴となり、匙の部分に貯まる。
ハンカチでそれを拭き取ると、再びシャロンの耳たぶに乗せる。
「……ん」
オーケー。今度は受け入れてくれたようだ。
シャロンは目を開けて、視線を泳がせている。だが拒否反応は見せない。
ただただ戸惑っているだけだ。
今はまだそれでいい。
ほんの準備段階でしかないのだから。
ここからが本番だ。
けど、穴には入れてやらない。
それはまだ早い。
少女の未熟な体は、少しずつ慣らしてやらねばならない。
「声は出してもいいからね……」
俺はシャロンの耳たぶを起点に、耳かきでカーブを描いていく。
引っかくというより単になぞる感覚で、外耳の溝を匙が走る。
カリカリカリカリ。
と、ハーフエルフの聴力でなければ聞き取れないだろう、小さな音が鳴った。
皮脂と汚れが削り取られる音に他ならない。
この複雑極まりない形状をした耳介の溝は、隠れた大物スポットなのだ。
外気に晒され、意識しなければ洗う機会もほとんどなく、放っておけばどんどん薄汚れていく。
誰かが綺麗にしてあげなきゃだよな?
そう、お母さんがな。
ひだの裏にまで耳かきを潜り込ませて、コリコリと沈殿物をさらう。
さらいながら元来たルートを辿って、滑走する。
「あっ。あぁー……」
シャロンは何が始まったのかわからないという顔で、呆けた声を出していた。
明らかに痛がっている声ではない。
むしろその逆、初めて味わう快楽に身を委ねる、官能的な声色だ。
俺は耳かきをくるりと回転させると、シャロンの耳から離した。
ハンカチに拭き取る前に、まずは戦果の確認だ。
匙を顔に近付け、まじまじと眺める。
ほら、やっぱり。
いたいけな少女に溜まっていたとは思えない、脂っぽい皮膚片がごっそりと取れている。
「いっぱい出てきたよ」
「え……?」
俺は黄色い塊の乗った耳かきを、シャロンの目の前に持っていく。
本人に、収穫品を見せつけてやるのだ。
綺麗好きな女の子であれば、目を背けたくなるような現実だろう。
汚いから近付けないで、と嫌がるか。
そんなのがまだ残ってるなんて考えられない、早く取ってとねだってくるか。
さあ、シャロンはどっちだ?
「……なんですの、これ」
貴方の耳に溜まってた垢だよ、と教えてやる。
コウノトリを信じている子供に、犬猫の交尾を見せつけるかのような所業。
その背徳的な行いに、嗜虐的な快感を感じる。
「嘘。こんなのがわたくしの耳に……?」
かあっと頬を染めるシャロンは、なんだかどこにでもいる十三歳の女神官さんのようだ。
羊水とか胎盤とか言わない人みたいだ。
年齢相応に恥じらいを見せ、もじもじと身じろぐ姿には愛おしさすら覚える。
なんで今日の俺がこんなにサディスティックなのかって?
寝てる間に、人のスカートに頭突っ込んできたからだぞ。
あれはマナー違反だろ。
おしおきしなきゃだろ。
まだまだ許してあげないんだから、と俺は耳元でこしょこしょ囁く。
「お耳はね。穴の奥だとこういうのが、もーっと詰まってるの」
「もっと……?」
絶句といった様子である。無理もないだろう。
思春期の少女にとって不潔とは究極の悪徳であり、許されざる禁忌だ。
下唇を噛んで恥じ入るシャロンは、すっかり日頃の過激さを失っている。
無力で大人しく、されるがままのお人形さんだ。
俺は耳かきを、穴の入り口に軽く差し込む。
ほんの少し、触れるだけ。
それ以上先には進まず、ちょんちょんと壁をノックしてご挨拶。
何をしようとしているのか。何が狙いなのか。今ので十分に伝わったはずだ。
「……やだ、怖い。変なの入れないで、ママ……」
駄目。許さない。
お前は今から、少しの間だけ天国に行くんだ。
現役の神官なら、生きたまま神様に会えるなんてたまらない体験なはずだろう?
「痛くしないから」
産毛のような耳毛をかきわけて、さわさわと先端を挿入させていく。
レオンの耳とは、全然違う。
あいつは既に少年から青年に向かいつつある体をしていて、耳穴もそれなりに広い。
それに比べてシャロンの穴ときたら、狭くて小さくてきつきつだ。
しかも十三年間の人生で一度も中に掃除用具を入れたことがないのだから、ちょっとしたダンジョンのようになっている。
洞窟のいたるところに、黄色いスライムが貼り付いている。
いやスライムは言いすぎか。「湿ったクッキー」が一番しっくりくる。
……思ったほど粘性じゃない。
風呂上がりの粉耳が、ちょうどこんな感じではないだろうか。
たまに飴耳体質の人でも、子供時代はそんなに水分を含んでいないケースがあると聞く。
あるいはシャロンは、遠い先祖に亜人や東方の民族がいるのかもしれない。
まあ、そんなのはどうでもいいんだけど。
俺の目の前にある耳はどうやらお掃除しやすそうな環境で、手元には耳かきがある。
なら何をすべきか?
決まってる。耳を可愛がってやるのだ。
「わかる? 今、入ってるよ」
口頭で説明しながら、探索を開始する。
何が起きているのか全くわからないのは不安だろう、と思っての配慮だ。
「あ、う」
耳道に入ってすぐ、まずは右に曲がる。壁に耳かきを引っかけて、上下に擦る。
狙いは側面だ。この位置取りが大事なのだ。
耳かきの極意は奥ではなく、横を攻めることにある。
そもそも入り口付近ほど垢が溜まりやすく、念入りに掃除するべきなのだ。
先へ進むのは、もっと後になってからだ。
「ん、ん」
俺はシャロンの中に入った棒を、壁のへりに押し付けて、くいくいと揺らす。
穴のくぼみにこびりついた不純物達を、小刻みな振動で引っぺがすのだ。
「中で、ざりって音、する」
シャロンにとっては、初めて聞く音だろう。
それはシャロン自身が生み出した音であり、シャロンそのものが削ぎ取られる音なのだ。
もういいだろう。
俺は耳道の壁面に押し当てた匙を、ずずずずず、と出口に向かって持ち上げる。
掻きながら這い出る動きだ。
「……んっ。そ、そこ、痒いとこに当たってる……。当たってます……。なにこれ……!? なんなんですの……!? 知らない、わたくしこんなの知らない、知らないのに……!」
ふあぁー。
と溶け落ちそうな声を出して、シャロンは身悶えている。
膝と膝をこすり合わせて、尿意でも我慢しているかのような動きだ。
そのあまりの痴態に、犬耳の獣人が声を上げる。
「初めての少女を相手に、的確に快感を与えているだと……!? 考えられん。あの女、何者だというのだ!?」
ただの兼業主婦だよ、と答える。
ただし夫と息子、二人の耳を十五年近く手入れしてきた、ベテラン主婦だがな。
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