第4話 トーリィランド

 なんだろう。目がぐるぐるする……。


 気がつくと、知らない部屋の中にいた。


「大丈夫??」

 ふらつく私の体をリリィが支えながら言った。

「ちょっと……、ったかも」

「えっ!ちょっと休んでて!」

 そう言うとリリィは私をベッドにすわらせた。


 そのまま横になってまわりを見る。 

 着いた先は、どうやらリリィの部屋のようだった。

 かべはクリーム色、カーテンはうすいピンク色。

 勉強机があって、文字は読めないけど、教科書みたいな本も置いてある。

 ベッドのわきには手作りのくまやうさぎのぬいぐるみがあった。

 

(なんだか私たちの世界とそんなに変わらないなぁ……)


 そう思っていると、リリィがお茶を持ってやってきた。

「気分はどう?」

「少し良くなったかな」

 めまいはだんだんと落ち着いてきていた。

 

「よかった〜。別の世界に移動するって結構けっこう体力使うんだよね〜」

 困った顔でリリィは言った。

 

「それ、先に言ってよ……」

「ごめん、ごめん。――そうだ!落ち着いたらさ、ちょっと外に出ようよ」

「外……?」


 ふと、窓の方を見る。ちょうど日がさしている。

 

(あれ?私の世界では夜だったのに……)


 そう思った私に気づいたのか、リリィが言った。

「確か向こうでは夜だったよね?こっちの世界は今は昼なの」

「そうなんだ……」


「あーあ。砂糖さとう混ぜるスプーン忘れちゃった」

 持ってきたティーセットを見てリリィは言った。


「ママ〜!ティースプーン!!」

 リリィがドアに向かって叫ぶと、ティーカップの上にパッとスプーンが現れて、ボチャンと音を立ててカップの中に落ちた。


「ママ、ざつぅ〜」

 リリィはプクーと顔をふくらませた。


 今のはきっと物を瞬間しゅんかん移動させる魔法だろう。

 やっぱり私たちとは世界が違うのだと気付かされる。


「お母さん、今家にいるの……?」

「うん、今は丁度ガーデニング中だよー。魔法植物を育てるのに夢中になっててさ〜」

「へぇ……」

「えーと……」

 少し考えてからリリィは聞いた。

「そういえば、名前なんて言うの?」

「ごめん、言ってなかった。私、もえ雨草あまくさ 萌」

「モエ?モエって言うの?可愛かわいい名前……!」

「え、いや、ははは」


 名前をめられるなんてなんだか不思議だ。

 最近じゃ自分の名前を悪意あくいを込めて言われることが多い気がしてたし。


「ねぇ、モエって呼んでいい?」

「……いいよ」

「ほんと!?モエ、あたしのこともリリィでいいからね!」

 リリィは笑顔で私の手をにぎった。


(こういう子はどこに行っても何を言っても、きっと好かれるんだろうな……)


 友達ができたようでうれしい反面、心の片隅かたすみでそんなふうに思ってしまう。


「あ、モエ。紅茶、冷めないうちに飲んで」

 そう言うとリリィは、カップを私の目の前に差し出した。

「変わった……色だね」

「そうでしょ?」


 カップの中のお茶の色はブルースカイ。そういう色のお茶は私の世界でももちろんあることは知ってるけど。


「これはね、空中花くうちゅうばなの花びらを混ぜたお茶なの」

「空中花??」

「そう、アリドニスって花。育てるのは大変なんだよねー」


(アリドニス?聞いたことない……)


「ちょっとこれ見て」

 不思議そうな顔をした私にリリィは図鑑ずかんのようなものを見せてくれた。


「これがアリドニス」

 絵に描かれているのは、根っこすらも宙に浮いている、はすのような花だった。

「育てるのが大変って、水をいっぱいやらなくちゃいけないってこと?虫がつきやすいってこと?」

「どっちも違うよ。アリドニスは水じゃなくて、マルーティの歌声が必要なの」

「マ、マルーティ??」

「花の妖精だよ。アリドニスのみつが好きなの」

「はあ……」

「でもミルターアにやられるとすぐにダメになる」

 リリィは困り顔で話すけど、出てくる言葉は私にはさっぱりでちんぷんかんぷんだ。

 まだ、外国には行ったことはないけれど、きっとこういうのに近いかもしれない。


「少し、元気になった?ちょっと外に行こうよ!」


 カップのお茶がまだ残っていたが、リリィは早くはやくとせき立てるので、そのまま玄関に向かった。


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