第3話 不思議な窓枠

「……トーリィランド?」


 聞いたことない名前に私は思わず聞き返した。


「そう、私が住む国。トーリィランドも含めて私が住む世界では、ここと違って魔法まほうが存在するの」


(魔法……?)


「あなた、魔法使まほうつかいなの……?」

「ううん。でも、トーリィランドは魔法道具があるから誰でも魔法が使えるよ」

 

「この窓枠……」

 リリィは窓枠のふちをなぞる。

「これをかべに付けてねんじれば、どんなところでも移動できるの」

「どんなところも……?」


 猫型ねこがたロボットが出してくれる不思議なドアみたいなものを、私はなんとなく想像した。


「死んじゃったおばあちゃんからもらったものなの」

「確か、形見かたみって言ってたね」

「……うん。でも、もう随分ずいぶん古くなって、そろそろ直さなきゃいけない」

「向こうには魔法道具が存在するんでしょ?自由に移動できるような道具って他にないの?買ってもらわないの?」

「あるけど……、トーリィランド内くらいしか移動できないや。別世界をまたぐほど移動できる道具はこれの他には聞いたことないな」

「そう……」


「ん?でも、なんでここ?」

 この世界はリリィも知っているように魔法はない。

「そう!それで、さっき言った御神木ごしんぼくなの!」

 目を開いてリリィは言った。

「この窓枠は、ニホンにある御神木を使っているって聞いたの。だから、御神木で作り直さないと意味がないのよ」

「はぁ……」


「思い切って、移動してみたのはいいけど――」

「たどり着いたのは私の家だったってわけね」

 

「――残念だけど、御神木っていうのは日本にはいくつもあるの。その木に使われれてるのはスギ?それともマツ?その窓枠にどんな種類の木が使われてるかは分かってる?分からないとなると、正直見つけるのすごく大変だよ?」

「そう、なんだ……」

 リリィは泣きそうな顔をした。


(あ、しまった。また私、悲しませちゃった……)


 いくら気をつけようと思っても、そう上手くはいかない。

 いつも失敗する自分がなんだか嫌になる。


「ごめん……。その、言いすぎた」

「ううん……。頑張がんばって、見つけてみるね……」

 リリィはそう言うと、服のそででゴシゴシと顔をぬぐった。


(あーあ、ついに、泣かせてしまった……)

 

「あの、えっと――、そっちの世界ってどんな感じなのかな?」

 何となく気まずくなったので、思わずそう尋ねると、

「気になる?」

 リリィはパァッと顔を明るくして言った。


「じゃあ、連れてってあげる!!」

「え?」


 有無うむを言わさずリリィは私の手をつかむと、窓枠を壁にくっ付けて何やら唱え始めた。


「窓よ導け、我らの望むその場所へ!」


 窓枠が光ったかと思うと、すごいいきおいで体が吸い込まれていった。


「わああああああ!」

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