第2話 リリィ

「あなた、だれ?――警察けいさつ呼ぶよ!」


 いくら同じくらいのとしの子だって、勝手に家の中に入るのは犯罪だ。


 私は部屋のすみに置いてあった丸めてあるポスターを、バットのように持って身構みがまえた。


「えっと、そのあやしいものでは――」

 しどろもどろで女の子が言う。

 女の子の格好かっこうは、花の刺繍ししゅうほどこされた白いブラウスにオレンジ色のスカート。かみ栗色くりいろ。ハーフアップで、後ろを黄色いリボンで結んでいる。

 まるでどこかのお嬢様じょうさまみたいな格好だった。


「どこからどう見ても怪しいじゃない!ひとんちに勝手に入って、一体何する気!!」

 私はポスターの先を女の子に突きつけた。


「探し物を――」

「探し物?」

 聞き返すと女の子はコクコクとうなづいた。

「お金、とか言うんじゃないでしょうね?」


 お母さんがいない間、家を守るのは私の役目。

 私のうちは裕福ゆうふくではないし、どちらかといえばお金がない。

 スマホで家計簿かけいぼをつけているお母さんが「今月もきびしいなぁ」とぼやいているのを私は知っている。


「お金じゃない!」

「じゃあ、アクセサリーとか金目かねめのものね。期待しても無駄むだだから。うちにはそんなものないし」

「お金になるような、そんなものじゃないの……!」

「……じゃあ、何?」

御神木ごしんぼく

「……ゴシンボク??」

「そう、御神木を探しに来たの!」

 

 ゴシンボク――、「御神木」とは、神社なんかにまつられてる木のことだ。聞くところによれば、樹齢じゅれい1000年をえてたりする、長く生きている木だったはず。

 

「なんでそんなものを――」

「これを、作り直さないとと思って……」

 女の子が見せたのは木で出来た窓枠まどわくだった。

 窓枠といっても、ガラスははめ込まれていない。

 まるで絵を飾る額縁がくぶちみたいに、枠の中に手を入れたら簡単にすり抜けてしまう。


「おばあちゃんの形見かたみなの」

 窓枠を大事そうにかかえて女の子は言った。

「あなた、一体――」

「……私はリリィ。トーリィランドからこの窓枠を使って来たの」

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