窓枠のリリィ

篠崎 時博

第1話 突然現れた女の子

「あーあ、やってしまった……」


 私こと雨草あまくさ もえは、ため息をついてぼんやりと窓から外の景色を見た。

 んだ暗い夜空には、星々がちらほらと輝いていた。

 小さい星々に囲まれた強い光の星――、そう、それは多分あの子。


 そこから離れたところにある星。目立つけど、周りに小さな星々はいない。――あれはきっと私。


「はぁ……」

 星々ですらつい自分を重ねてしまう。


 今日も一人。

 明日も一人。

 その先もずっと多分――、一人。


 なんであんなことを言ってしまったのだろう。

 私は目を閉じてあの日のことを思い出す。



『――未祐みゆちゃんの絵さ、写真みたいにすごく細かいところまで描いてるよね。みんな注目するし、これは賞も取れるよね』

 壁一面かべいちめんられたみんなの風景画。この春、写生しゃせいした自然公園の絵。

 見ていたとなりで、クラスメイトの比奈ひなが言った。

『そう?私は比奈の絵の方が好きかな。色彩しきさいあざやかで、でも優しい感じがするし。細かく描けるのは、そりゃすごいとは思うけどさ—―』

『あたしの絵がなに??』


 声のした方、振り向いた先には、未祐――、クラスメイト宗口むなぐち 未祐の姿があった。

 未祐はクラスの中心的メンバーだ。

 彼女の身につけているものは、みんな欲しくなるし、彼女の言った言葉はクラス中で流行はやる。そんな存在。


『あ……』

『へぇ〜、萌ちゃんってあたしの絵好きじゃないんだ〜。きらいなんだぁ、あたしの絵』

『え、あの、いや、その……』

『サイテー』

『いや、えっと、そういうことじゃ――』

『みんなー、ちょっと聞いて〜!萌ちゃんってね、あたしの絵、嫌いだってー、好きじゃないんだって〜』


『うわ〜。人が一生懸命いっしょうけんめい描いたもの、そんな風に言うんだ』

『萌ちゃん、ひどい……』

『ってか、ヒガミじゃね?』

『絵、大して上手くないのに、よく言えるよね』

 口々に私を悪く言う声が聞こえた。


「違う、そうじゃなくて、私は――」

 そう言おうとして、やめた。

 どうせ無駄むだだと思ったから。


 私はいつも余計よけいなひと言を言ってしまう。

 だから、嫌われたり、何となく距離を置かれてしまう。それは薄々うすうす気づいていた。


『ごめん……』

『もう、いいよ。萌ちゃんでそういうところあるよねー』

『比奈ちゃんもそう思うよね?』

『う、うん……』



 比奈はあれ以来、私に声をかけて来なくなった。

 それどころか、クラスのみんなが私に対してよそよそしい態度を取るようになった。

 こうして、一人の孤独こどくな学校生活が始まった。


 ――あの時はその場で、「うん、すごいね。きっと賞を取れるね」って、きっとそう言うべきだったのだ。


 ため息をついて、窓のカーテンを閉める。

 時計は9時を回っていた。


 そろそろ寝ないと。そう思って布団に入って目を閉じる。

 家の中は静かだ。時計のチクタクという音だけがやけにひびいて聞こえる。


 お母さんはまだ帰って来ない。

 きっと今日も残業ざんぎょうなんだろう。


(お母さん、私がこんなんだと心配するよね……)


「学校、行きたくないな……」

 うずくまってギュッと目を閉じたその時だった。


「よいしょっと」

 暗い部屋のおくから声が聞こえた。


(え、何、声……?)


 ちょうど壁を向くように横を向いていたので、声がした後ろの方で何が起きたのか分からない。


「ふぅ〜。ここであってるはずなんだけど――」

 

 声は大人のものではないのは確か。それも女の子の声だった。

 

だれ泥棒どろぼう??私、玄関げんかんのドアも窓もかぎを閉めたよね??)


「よし、探すか……!」


(え、探す??え、ええ?ちょっと待って!)


「この泥棒ーーー!」

「うわああああああーーー!」


 私と向こうが叫んだのはほぼ同時だった。


 ベットから起きて、とっさに電気をつける。

 

 視界に入ったのは、尻餅しりもちをついてびっくりした顔をした――自分と同じくらいの女の子だった。


「あなた、誰??」

 

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