母との団欒
「丹恋の学校、今そんなことになってるの?」
唄と青い誓いをした日の夜、珍しく早く帰宅した真希のグラスにビールを注ぎながら殺人予告について話した丹恋は、思わぬ反応を受けてここ最近の記憶を遡った。
「……言ってませんでしたっけ?」
真希はボブカットの前髪を額に張り付かせたまま、ビールをぐびぐびと半分以上一気に流し込んでから、
「言ってないですとも。殺人予告なんて子供の悪ふざけの域を超えてるじゃない? しかも、それまでにも事件が起きてたなんて」
「確かに、何で話してなかったんだろ……あ」
理由は唄という名探偵の存在にあった。いつもスピード解決するため、真希に話す前に事件に方がついていたのだ。
「へぇ、その唄って子、嘘みたいに頭がいいのね。名字教えて? いつか保護者会か何かで親御さんに親御さんに会ったら挨拶するから」
「名字は剣持。刀剣の剣に、持ち上げるの持」
「剣持さん、ね。どこかで聞いたことがあるような、ないような」
「珍名ってほどでもないし、仕事関係で会ったりしたんじゃない?」
「それもそうね。で、あんたまさか今回も首を突っ込もうとしてるんじゃないでしょうね」
「それはないって」
それを聞いて真希はふうと息を吐いて、
「高校生になって分別がつくようになったのね」
と、胸を撫で下ろした。中学まではそうでなかったと言っているのと同義だった。
そんな猪みたいなタイプではない、と反論したくなったが、過去を振り返ると強ち間違いではない気もしてきて、丹恋は我慢した。
「そんなことより、どうにかして警察は殺人予告犯を突き止められないの?」
「全てSNS上で行われたことだし、所轄署が業務妨害罪なんかで受理して、捜査をするフェーズになってもサイバー捜査が主になるでしょうね。この場合、行き詰まったら即刻、迷宮入りになる」
真希の見解は唄とさほど変わらなかった。このまま5048が逃げ果せることになれば、今後の桜日高校には正真正銘の安寧は二度と訪れない。
真希のグラスが空になったのが目に入ったので、今度は日本酒を注いだ。
「ありがとう。物騒な事件は起きてるみたいだけど、基本は楽しくやってるのね?」
「まあね。清く正しく、楽しくやってます」
「ならいいわ。高校デビューで金髪にしてきたときはそんなにイキってどうするのって思ってたけど」
「そんな風に思ってたんかい!」
「だって世の中のブリーチしてる人は段階を踏んで金髪にしてんのよ。初手で金髪はいかないって。帰ってきたとき満足そうだったから何も言わなかっただけ」
「あーそうですか。そういうこと言う人には、ツマミになりそうな一品料理は作りません」
「うそうそ。金髪になるべく生まれてきた存在」
真希がふざけて酒臭い口でキスを迫ってきたので、逃げるようにキッチンに移動し、スライスチーズと納豆を使ったツマミを作った。アルミホイルを敷けば、トースターで完成させられる簡単な料理だ。
不思議なもので、丹恋の気持ちは軽くなっていた。何も解決していないが、真希と話すと萎んだ心がまた水を吸み始める。家にいることは少ないけれど、やはり自分にとってたった一人の母親なんだと思いがけず再認識した。
真希用に作ったツマミを齧りながら、いつかは真希にも桜日高校の友達を紹介したいと思った。
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