モノローグ②
あいつが止めた秒針
第一の事件は失敗に終わった。
犯行は5048の計画によるものだと自身で暴露するつもりだった。それを、探偵気取りの生徒に先を取られたのが不快だった。手間が省けたと切り替えて、今は無理矢理に溜飲を下げている。
春川大吾が苛烈な〝いじめ〟を受けていることは以前から把握していた。だからこそ、復讐計画を授ける対象に選んだ。
春川は本名を晒さずにSNSで学校で起きた出来事を投稿していた。投稿された画像を注視しているときに、偶然窓だったか金属だったかに反射しているのを偶然見つけたことで、瓜二つの双子がいることを知った。画像を注視したのは、春川の趣味嗜好を研究するためだ。身分を明かさずに信頼を得るには、相手が一番求めている存在になるしかない。そのためには相手の嗜好や思考はトレースしなければならない。
そして、釣り糸を垂らし、かかるまで焦らず待つ。長短あれど、十日以内には食いつく。そして、顔の見えない相手に依存させてから、計画を打ち明ける。
今回は双子を利用したが、余計なミスが生じることとなった。
春川はローファーを交換するのを忘れていた。春川の履いていたぼろいローファーと、双子の片割れの履いていた真新しいローファー。気づかれていたら、すぐにでもトリックが暴かれただろう。
共犯がいると、このような些末なことすら気にしなければいけない。自分で手を下せない以上、やはり共犯を計画に組み込むのは避けた方がいい。
復讐を実行した生徒が特定されることは自身の計画に影響がないが、探偵に暴かれるのは癪に障った。
5048はホワイトボードを見る。
――計画を練り直すか。
模造紙を剥がし、まっさらなものを貼る。
計画の途中で悟られることがあれば、目的は果たせない。
――あいつを殺す。時間を取り返す。
〝あいつ〟の顔を浮かべたとき、いつも目を瞑ってしまう。
トイレに入っていたとき、上から水をかけられるのを。給食を頭から被せられるのを。拳を振り下ろされるのを。
思い出して、反射的に目を瞑ってしまう。
時計の針は小学六年生で止まったまま。学校に行くのが怖くなって、小学校の卒業証書は未だにもらえていない。父の転勤で他県に引っ越したおかげで中学校の卒業証書は受け取った。それでも、自分は小学生のままのように思えて、身体が心を置いていった。辛くても、乗り越えて前に進もうとした。
しかし、心は容易く折れた。
この高校で、あいつの姿を目にしたときから。
だから、決めた。
今さら、あの紙切れを受け取りに小学校に行くことでは意味がない。心を身体に近づけるには、時間を取り戻すには、あいつを殺さなければいけない。あいつと自分を引き合わせたこの学校も罰を受ける必要がある。
模造紙に怒りをぶつける。怒りは活力。
模造紙には第二の犯罪計画が書き上がっていた。
スマホが年季の入った学習机の上で震えた。斜めに載っていたせいで、余計に振動音が増した。
通知を見て、思わずにやりとする。
待っていた。
天は味方をしてくれるようだ。
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