証明方法

「ねえ、これって詰んでる?」


 唄の両肩を半泣きで揺さぶると、唄は丹恋の腕を掴み押し返した。


「近すぎます。まあ、どうにかしてみせますよ。トリックを使えば、どこかにほつれが生じるはずですからね」

「本物の探偵みたいね。めそめそしてた唄ちゃんはどこに行っちゃったのかしら?」

「めそめそなんてしたことないですよ」


 唄は口笛を吹いて誤魔化すと、通学鞄からノートとシャープペンを取り出した。通学鞄は小さく、教科書とノートを入れたらいつもパンパンになる。みんな、体操服は別の袋で持ってこなければいけないくらいだ。


「二名の犯人がどんな手筈で入れ替わったのか、整理してみましょう」


 唄はノートを横向きにして、日付を二十四日から二十六日まで上部に書いた。


「なんで、二十四日まで?」

「丹恋さんが犯人だとして、双子で、同じ時間帯に学校に向かいたいと思いますか?」


 丹恋は犯人の気持ちになってみた。

 双子であることを知られるのを避けなければいけない。だから、登校するときには時間をずらす必要がある。でも、時間をずらしても警備員はずっと校門に立っているから、ずらすだけじゃ駄目だ。出入りする校門を変えるのはどうだろう? それも、普段と違う校門から出入りしたら怪しまれる可能性が高いか。


「そういうことです。

 つまり、双子の片方は窃盗の起きた二十五日よりも前に学校に来て、一晩過ごした可能性が高い。そして、二十五日にもう一人が登校し双子が学校に揃う。そして、目的を果たし、片方だけ学校を出る。残された一人は二十六日に学校を出る。こんな流れだったんでしょう。

 二十五日の夜に教師達が手分けして校舎に残る生徒の有無を確認したと言っていましたね。単に忍び込み問題用紙を盗もうとする生徒であれば、急に見回りを始めた教師達に見つかっていたはずですが、入れ替わりの必要がある犯人は見回りを予知していなくてもはじめから身を隠していたので、教師達が発見できなくても不思議ではありません」

「窃盗の起きた日だけじゃなく、前後一日も慎重に動かなきゃいけなかったってことね」


 神野先生が感心した様子で何度も頷いた。


「カメラ映像を探したら、登校してるのに下校してない生徒が二十四日にはいるはずじゃない? 二十六日にはその逆の生徒がいる。違う?」

「そうですね。ですが、数百人の人間が出入りする中からさがすのはAIを使わない限り不可能ですよ。マスクをしている生徒も少なくありませんしね。現実的ではありません」

「じゃあ、どうしたらいいの?」

「今はまだ……わかりません」


 申し訳無さそうに俯く唄を見て、丹恋は我に返った。焦りから唄を責めるような真似をするなんて自分が自分で情けない。


「ごめん、ちょっと外の空気を吸ってくる」


 丹恋が椅子から腰を浮かしたとき、見知らぬ男子生徒が保健室に入ってきた。暑くなったのか、ブレザーを脱いで肘に掛けている。


「下痢止めってもらえたりします?」


 室内履き――入学時にスペアを含めて二つ買わされる――を見るに、学年は二年だ。長い前髪が目元までかかっていて前が見づらそうだった。

 神野先生が棚の下にある抽斗の一つから瓶入りの薬を取り出し、三粒をオブラートに包んで男子生徒に手渡した。

 リアルにオブラートに包むところは初めて見たな、と丹恋が思っていたとき、横を見ると、チワワがドーベルマンにマウントを取っている場面を目撃したような顔になっている。

 耳打ちして訊いてみる。


「唄、もしかして!」

「はい。これで、いけるかもしれません。遠山先生に頼んで、各クラスの出席番号一番の生徒の顔写真を提供してもらうことはできますか?」

「任せて! 写真を持ってどこに行けばいい?」

「ひとまず正門で落ち合いましょう」


 どうやら校外に出陣するらしい。

 丹恋は威勢良く返事をすると、腹痛男子生徒の痛々しいものを見るような視線をものともせず、遠山先生の元へ走った。

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