『封じられた部屋』
名無しの報告者XXX ▋: ^ )
――本文
「友人の誘いで曰く付きの廃墟に行ってみようって話になって……」
同じ高校の同級生である、加藤さん、古谷さん、小林さんは、███県 ███市にある放置された廃墟を訪れることになった。3人はその廃墟の中で、肝試しをしようと言う話になったのだという。
廃墟は雑木林を抜けた藪の中に建っている、木造二階建ての廃屋で、建物外部は長期間の放置と老朽による風化が目立つ。ネット上の噂によると、その廃屋は夜になると人の唸り声や何かを叩く音が聞こえるのだという。
廃墟に行こうと誘ったのは、小林さんからだった。
「当時、小林は███とか█████みたいな心霊ドキュメンタリー動画を見るのにハマってて、廃墟で動画を撮ろうって言い出したのも、それに影響されてだと思うんです」
廃墟の場所は、小林さんが地元周辺にある心霊スポットを調べていたところ、たまたまその場所がヒットしたのだという。学校の帰り道、3人は夜にまた廃墟の前で落ち合う約束をし、それぞれ家へ帰った。
日が暮れ、約束通り廃墟の場所へと集まった3人。
そこで3人は身の毛のよだつような恐怖体験をする事になる。
「その日は梅雨明けでジメジメした蒸し暑い日でした。僕はスマホを持って廃墟の様子を撮影しました。最初はみんな遊び半分でした。まさか、あんなものを見るなんて思わなかったから……」
加藤さんがスマホに撮った動画には、明らかに奇妙なものが映し出されていた。それがなんなのかを説明する事はおそらく無理だろう。だが、それは撮影された動画に写っており、この世に科学では証明する事ができない異常なものが存在することの証である。
「あの後、小林が、学校に来なくなっちゃって……先生から話を聞いたんですけど、なんか部屋にずっと引きこもっちゃってるみたいで、別に体調が悪いとかではないみたいなんですけど」
廃墟での体験の後、小林さんは学校に来なくなり、不登校の日々が続いていた。小林さんは本来、欠席も少なく、学校でも活発な存在だったと言う。仲の良い佐藤さんでも彼が長期間、学校を休むことは今までなかったと語る。
「何度か見舞いに家に行ったんですけど、会ってくれなくて」
両親の話によると、小林さんに病気などの異常はなく、ただ部屋の中で、"あいつがくる"、"怖い"、"助けて"などの言葉を繰り返し唱えており、何かを警戒しているような酷く怯えた様子だったという。
「それから何日かして、先生が小林が行方不明になったって知らせてきました。」
加藤さん曰く、小林さんが失踪したのは、突然の出来事だった。両親が静けさに気づき、部屋を見るとそこにはもう小林さんの姿はなかったのだという。小林さんの一家はマンションに住んでおり、部屋は4階に位置している、例え小林さんが自室の窓から外へ出たとしてもマンションから地面までは数十メートルあり、生きていたとしても無傷では済まされないだろう。また、玄関には靴も残されており、玄関を使って外へ出たとも考えにくい。警察により、小林さんの行方について佐藤さん、古谷さんに聞き取りが行われたがもちろん二人は知るはずもなく、小林さんのこの蒸発とも呼べる謎の失踪事件について知るものは誰もいない。
今も、警察の必死の捜索が続けられているが、小林さんの行方は2023年現在も分かっていない……。
――これより先に加藤さんのスマホに記録された映像の書き起こしを載せる。
時刻は午後20時過ぎ。
「あれじゃね?」の言葉とスマホのカメラに映る手、その指さす方向には廃墟が建っている。撮影しているのは加藤。
「どうするよ本当に行く?」と古谷が小林と加藤を見ながら言う。
「ここまで来たんだ行くしかないだろ」と小林。
3人は懐中電灯を照らし玄関から廃屋の中へと入っていく。
廃屋の中を散策する3人、カメラはホコリと蜘蛛の巣まみれの、朽ち果てた家具が散乱している屋内の様子を映し出す。部屋の荒れた様子から廃墟になってかなりの年数が経過している事を窺わせる。
「こっちに階段あった」と古谷
2階に上がっていく、3人
廃屋の二階にその部屋はあった。
三人は現在、ドアと向かい合うように立っている。
ドアの奥からドン…、ドン…とまるで壁を叩くような鈍い音が微かに聞こえてくる。
ドン…ドン…また音が微かに聞こえる。
「なんかここから音しない?」小林がドアを見ながら言った。
「確かに」と古谷
「どうするよ、中入ってみる?」と小林
「マジかよ!?」と驚いた声を漏らす加藤、「やめた方がいいって」と古谷、二人は小林を止めようとする。
古谷はドアノブに手を置くと恐る恐るドアノブを引いた。ドアは呆気なく開くと、小林が懐中電灯で部屋を照らす。
その部屋には家具のようなものは一切置かれておらず、窓には一面に新聞紙のようなものが隙間なく貼られていた。
「なんだこれ、日本語?」
加藤は窓に近づいていくと、窓に貼られた焼けて茶色くなっている古い新聞紙をカメラは映す。
アップで映される新聞紙、そこに書かれている記事は日本語と中国語を合わせたような解読不能な未知の言語で書かれており、読むことができない。
古谷と加藤が部屋の中を詮索していると急に小林が一点だけを見つめ、お構いなく先へ行ってしまった。
「どうした、小林?」加藤が声をかけるが小林の耳には届いていないようだ。
小林の向かった方向に進んでいく二人、古谷が懐中電灯を向けると、殺風景な部屋の隣に引き戸があった。その前に小林が二人に立っている。小林は二人に背中を向け何かをやっていた。
その引き戸には何か長方形の紙が無数に貼られていた。
カメラはその引き戸に貼られたものをアップにする。
引き戸に貼られていた無数の紙は"お札"だった。お札は引き戸の端を覆うように何枚も無数に貼られており、窓に貼られいた新聞と同じように未知の言語で書かれていた。
まるでそのお札の張り方はここを開けるなと警告しているようだった。
――ドン!…ドン!…
音はどうやらこの奥で聞こえているようだ。
「おい、小林?何やってんの」
カメラはまるで何かに取り憑かれたようにお札を破っている小林の姿を映す。
古谷の言葉を無視し小林は無心でお札を破っている。
「おい小林!、しっかりしろよおかしいぞお前」
古谷が小林の肩を掴み辞めさせようとするが、抵抗し、小林はお札を剥がし続けている。
「おかしいってこれ、どうなってんだよマジで」
小林の顔が映る、その目は虚でただひたすら引き戸のお札を剥がしている。
ついに小林が引き戸を開け始める。
ドン…、ドン…、音はいよいよ目前で聞こえてくる。
「俺さっき何を…」と小林が正常に戻る。
「これ見てみろよ……」古谷が懐中電灯で真っ暗な部屋を照らすと灰色の剥き出しのコンクリートの壁が見えた。その部屋には窓のようなものは一切なく、コンクリートの壁には爪で引っかいたような跡が無数に刻まれている。
その傷だらけのコンクリート壁に囲まれた空間は、3人がいる廃屋と同一のものとは思えない、明らかにそこだけ別の場所と繋がっているような異様な光景だった。
そして、カメラはその奥の動く影を捉える。
ドン!…ドン…!、とあの鈍い音が部屋に響く。それはしきりに壁に硬い何かを打ち付けてるような音だった。
古谷はゆっくりとそれのいる方向に懐中電灯を当てる。
カメラはそこにいる"人"のようなものを映し出した。
懐中電灯に照らされたそれは、青白い肌の色をしており、頭に被っている布製の頭陀袋以外、衣類は身につけていなかった。身長は2メートル近くあり、肋骨が浮き出すほど全身が痩せ細っている。
それは、ボロボロの爪の生えた細長い両手を壁に起き、ドン!…ドン!…ドン!…と何度も繰り返し壁に頭を打ち付けていた。
頭陀袋の額の部分は血で赤く濡れており、その血は壁にもこびり付いていた。それは思いっきり上半身を後ろに返すと勢いよく壁に向かって頭を打ち付けている。
呆然としている3人。
それは動きを止めると、三人のいる方向へ頭を向けた。
顔はわからないが、頭を覆っている血まみれの頭陀袋がカメラの方向を見ている。
「おい、やばくねぇか……」と加藤の声。それのいる方向に懐中電灯を向け、固まっている小林と古谷の後ろ姿。
すると突然、"うおぉぉぉぉぉぉぉぉ"とけたたましい叫び声を上げ、それは3人の方向へ走り出し始めた。
「やばい!やばい!やばい!」
加藤が言うと3人は全速力で走り出す。
カメラが後ろに向くとそれが咆哮を上げながら追いかけてくる様子が映し出される。
「加藤!早くドア開けろ!」
古谷が声を荒げる。
加藤は先に部屋を出ると古谷が次に部屋を出た。
「小林、早く早く!!!!」
廊下を駆け抜け、玄関の引き戸を開けると全速力で廃屋の外に出る3人
画面が大きく乱れ、カメラの映像はここで途切れる
後に問題の廃墟を確認したところ、動画にあったような部屋を確認することはできなかった。2階のどの部屋を確認しても動画に残されているような新聞紙に窓を塞がれた部屋は見当たらず、お札が貼られた引き戸も発見することはできなかった。そもそも、引き戸の奥にあったコンクリート壁で覆われた空間は、あの廃墟の間取りとしてあまりにも不自然な位置にあることがわかった。
解読不能な文字で書かれた新聞紙で窓を塞がれた部屋、そして大量のお札の貼られた引き戸とその先にいた”あの存在”は一体なんだったのだろうか?
また、あの引き戸に貼られたお札を剥がしてしまったことで、あの部屋から出れないように"封じていた"ものを解き放ってしまった可能性はないのだろうか?……
『封じられた部屋』 名無しの報告者XXX ▋: ^ ) @user_nwo12n12knu
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