第6話 配信本番とその後

【配信は1時間後!絶対に見に行くよって人はいいねとRT、リプよろしくねっ!】


〔楽しみだぁ。質問読んでもらえるといいな〕


〔700万人おめ!重大発表楽しみにしてる〜〕


〔あと1時間かぁ。やること全部終わらせて早く臨戦態勢入らないとw〕


リンのTwitterは、今日も賑わっていた。

今日は、配信本番の金曜日。

何故か俺まで緊張して風呂とか課題とかやることを全部終わらせてしまった…。


リンのYouTubeチャンネルにはもう待機勢が何人もいて、本当に有名人と関わってしまったんだと自覚する。

でも、今日で特別な関係も終わり。

明日からはまたYouTuberリンとその視聴者の俺という関係に戻るんだ。


∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴


「はーい、皆さんこんばんは!YouTuberのリンでーす!」


配信が始まった。

コメント欄に挨拶の言葉が溢れる。


「みんな、集まってくれてありがとー!この度は登録者数700万人ありがとねー!」


こちらに向かって手を振るリン。

昨日までこの人と直接通話していたんだと思うと、変な感じがした。


「えっと…。今日はね、質問コーナーもやるんだけど…!その前に、重大発表の方してもいいですか?」


恐る恐ると言った感じでリンが視聴者に呼びかける。

視聴者は、OKの意をコメントで表す。


「ありがとう!えっと、発表というか謝罪、かな?」


〔謝罪?〕


〔謝るの?〕


視聴者の率直な疑問にリンは頷いた。

俺も食い入るように画面を見つめる。


「私…ずっと、恋愛テクニックをお伝えするYouTuberとして活動してたんだけど…。全く、恋愛経験はありません!」


深呼吸の後に、リンはそう言った。

じゅ、重大発表って…これ…?


「皆さんを騙すようなことになって本当にごめんなさい。色んなことやってて、たまたま恋愛テクニックを使った動画の時に再生数が伸びて。この活動形態に可能性を感じたって言うか…。でも、私を信じてくれてた人達には本当にどう謝ったらいいか…」


リンは俯きながら、謝罪を口にした。

俺は、リンのその行動に開いた口が塞がらなかった。


〔恋愛経験ないのにあの動画のクオリティはすげー〕


〔別に恋愛経験ない人がそういう動画やっても良くない?〕


〔謝る必要ないっしょ!逆に応援したくなるんだがww〕


〔落ち込んでるリンちゃん可愛すぎ〕


意外にも、コメント欄は暖かかった。

リンの視聴者しかいないということもあるのかもしれないけれど、否定的な意見はゼロに近い。

俺もその反応たちに胸を撫で下ろす。


「み、みんな…ありがとう…!それでね、もう一つ…。今までは男の人自体苦手だったんだけど…。私、好きな人ができたの」


コメントが最大にざわついた。


〔ええ!?まじ!?〕


〔さっきの話聞いてたら応援したすぎるんだけど〕


〔誰…!?〕


リンはコメントに目を通しながら、照れたように頬を赤く染める。

その相手は、誰なのか俺も気になる。

最近芽生えてしまった俺の淡い恋心を砕いてくれるような相手ならいいのにと、強く思う。


「あのね、活動者さんとかじゃないんだ…。だから、名前とかは出せないんだけど。本当に短い間だったけど私の先生みたいな存在の人。つっけんどんで口調はたまにきついけど、優しい人」


画面を真っ直ぐに見たリンの目が俺に向けられているような錯覚に陥る。

そんなはずないのに俺なんじゃないかとそう思ってしまう。

リンは俺の事を想いながら今、語っているんじゃないかと。


「届いてる…のかな…」


〔LINEとか?〕


〔電話とかは??〕


不安そうなリンを見て、視聴者が提案する。

俯いたリンは、意を決したようにスマホに手を伸ばした。

そして、気合いを入れるように深呼吸をした。


彼女がスマホをスワイプして、耳に当てる。

俺は自分のスマホを握りしめ、画面を食い入るように見つめた。

そして、手の中のスマホが震える―。


∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴


電話の相手が誰だったのか。

それは言うまでもなくわかるだろう。

その後のふたりがどうなったのか。


それは、今日開設されるカップルチャンネル、“ リン悠チャンネル”で追追説明していこうと思っている。

今は、今日の初配信に向けてリンの家に行くところだ。

俺は、1回服装を整えてリンの家のチャイムを押した。


「はーい!いらっしゃい、悠斗くんっ」


相変わらず語尾が跳ねているリンは、俺を笑顔で出迎えた。

やわらかそうな栗色のツインテールが揺れる。

俺は、先程直したばかりの服装がおかしくないかもう心配になり始めていた。


「はぁ、緊張してきた…」


「何言ってるの!私の先生ともあろう人が配信なんかで緊張してちゃダメだよっ!」


「いや…、あの…、俺、配信は見てきた側の人だからさ」


「うふふ、これからは配信側だよっ♪」


そうして、俺とリンの配信生活は始まった。

1週間前までは、ただの視聴者だったんだけどな。

異性慣れしてない推しを調教したら、1週間後にカップルチャンネルを始めることになるらしいぜ?

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推しがモテキャラなのに全然異性慣れしてなかったので、推しの動画を見て恋愛スキル高めた俺が推しを調教したいと思います(電話で) 月村 あかり @akari--tsukimira

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