第4話 調教その2(アプローチと駆け引き)
〔今までの恋人の人数は?〕
「んーと、…えへへ、秘密っ!かな?」
〔好きなタイプは?〕
「包容力があって、優しくて、気持ちをストレートに伝えてくれる人っ!!」
〔今、彼氏いる?〕
「今、見てくれてる視聴者さん全員を恋人だと思ってるよっ♡」
登録者数500万人記念の質問コーナーでの、リンの回答を見てため息を吐く。
純粋に見てた時は、俺もこのリンのタイプに近づきたくて頑張ってたなぁ…。
でも、今までの恋人の数とか今の彼氏についてとかよく考えたら上手いこと誤魔化されていたわけで…。
今朝も、リンの今までの動画を漁る。
今日はどれがいいだろうか…。
恋愛初心者な恋愛マスターに、教える恋愛スキルは―。
∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴
今日もコール音が2回ほど鳴ったあたりでがちゃっと通話が繋がる音がした。
今日も深呼吸の音は聞こえるけれど、昨日のような衝撃音は聞こえてこない。
今日は、昨日よりは落ち着いてるみたいだな…?
「もしもし、リン?」
『は、はい!もしもし…悠斗、くん…』
まだぎこちなくはあるが、彼女が自発的に俺の名前を呼んでくれるようになった。
確実な進歩に俺は嬉しくなる。
俺の手柄とまでは行かないが、それでもリンに貢献出来ている気がする。
「昨日、通話したあとなんかあったか?」
いきなり指導に入るのも味気ないのでちょっとした雑談を挟んでみる。
すると、スマホの向こうから少し間があって返事が返ってきた。
『あ、あの…なんか、ってほどでもないのですが…。なんだか悠斗くんの声が耳から離れなくて、困りました…』
何だこの、天然すけこましは。
全く何かを教える必要なんてないくらいになにかのツボを刺激してくるというかなんというか…。
推し贔屓をなしにしても、一言一言が可愛すぎないか?
「そ、そっか…。ま、まあもう夜だし、本題にハイルカー」
動揺が声に出ている気がする。
だって推しに声が耳から離れないとか言われたんだぞ?
こちとら、お前の声聞いて寝落ちしてるっつーの!
『はい!よろしくお願いします!』
なんて心中は知らずにリンは元気に返事をする。
従順すぎて困る…。
段々と良心が痛んでくるんだよな…。
「今日は、アプローチと駆け引きについて。恋愛においては有無を言わさず、アプローチが必要になってくる。何もしなきゃ、動くものも動かないからな」
俺の講義にほうほうと相槌を打ちながら、リンは納得している。
全部、リンの動画からの受け売りなんだが…。
そんな真面目に聞かれるとこっちが恥ずかしくなってくる。
「ただ、しっぽを振りすぎると相手に舐められる。相手が余裕を感じないように、適度に引くのも大切だ。まだあなたのものじゃないですよって教えてあげることで、男は手に入れたいと感じるようになるからな」
まあ、リンから少しアプローチされたら大概の男はしっぽを振って食いつくだろうけど。
あくまでも講義として続ける。
『恋愛って難しいですよね…。私、男心ってよくわからないです…』
分からなくても、あれができるんだからもう天性の才能と言うしかないよな。
その顔面でその声で、その天然は最強だ。
でもそれでに気づかれて、俺が不必要になってしまったら困るのであえて教えない。
「だから、こうして俺が教えてるんだろ?」
俺が言うと、リンははい!と元気よく返事をした。
本当はこんな知識がなくたって、大丈夫だけれど俺はそこまで親切じゃない。
まだリンと繋がっていたい。
『あの…私。悠斗くんのそういう、なんだかんだ言って私に色々教えてくれる優しいところが好きです』
「俺の方が何千倍もリンのこと好きだから。ずっと、好きだったんだし。俺の好きの方がでかいし、強い」
『で、でも…あの。明日は、用事があるので通話は…』
「ダメだぞ?一日でも欠かしたらなまるからな。何時でもいいから通話は絶対にする。配信は明後日なんだし。じゃあ、もう遅いから切るぞ。また明日な」
全てを矢継ぎ早にまくし立てて、俺は通話を切った。
な、なんなんだ、今の言葉は…。
好きって言ったよな?
自分の平静が保てそうにないから、リンの言葉の更に上を行くような愛の告白をしてしまったけれど。
今更になってめちゃめちゃ恥ずかしくなってきた。
ていうか、さっきのリンは何を考えてたんだ?
毎回、俺の教えに沿って何かしら発言を残して通話を切るようになっていた。
だから今回もアプローチと駆け引きのつもりなんだろう。
好きと言った方がアプローチで、明日は通話できないと言った方が駆け引き。
だとしたって、刺激が強すぎる。
アプローチじゃなくて、告白だしっ!
ていうか、推しが俺の名前を呼んで俺のためだけに好きって言った…。
このままじゃリンがただの推しではなくなってしまう。
本当に異性として好きになってしまう…。
そんなこと、したって叶わないと知っているのに。
元々好きだったけれど、今は何か違う。
何も知らないリンを守りたいと。
何の経験もないリンを他の誰にも取られたくないとそう思うようになってきてしまっている。
「反則だろ、色々と…」
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