第6話 ずっとあなたを見てきた

「一色友美、これがお前の次の標的だ。」


「はっ!承知致しました。」



大河内大介、これが僕に与えられた名前だ。

本当の名前は分からない。親が誰なのかもどこで生まれたのかも。僕にはボスしかいない。


◇◇27年前◇◇


「オギャーオギャー」


「誰だ!うるさいな。」

ボスは苛立っていた。


「そ、それがボス…。」

困った顔で言った。

「赤ん坊が捨てられています。」


「なんだと?連れてこい」


「はっ!」


「こちらに」


「なんだ、小さくて今にも死にそうではないか。捨てておけ」


「オギャーオギャー」


「はっ!」


「オギャーオギャーオギャーオギャー」


「いやちょっとまて

気が変わった。後継者を育てることにする。」


「よろしいので?」


「もう歳だ、引退も近い。」


「仰せのままに。」



◇◇26年前◇◇


「ボス!もう歩けるようになりましたぜ!」


「そうか、赤ん坊とやらは自然と歩けるようになるのだな。」

顔には出さないが心では喜んでいた。


「これからの成長が楽しみですね。」


「ああ。」



◇◇17年前◇◇


「大きくなったな、大介。」


「ボスはどうしてボスなの?」

大介は聞いた。


「それはな、どうして大介は大介なのか聞いているのと同じことだ。」


「そんなの決まってる!ボスが大介って決めたから!ボスが決めたことは全部ボスの思い通りになるんだ!」


「大介…それは」

ボスは言いかけた。


「ボス、少しお時間いいですか」


「ああ、なんだ?」




「後継者教育はいつから始めるおつもりで?」


「そうだったな、すっかり忘れていた。」


「ボス…お言葉ですがボスは大介と出会ってから優しくなりました。優しすぎるほどです。

これじゃあ…」


「ああ、分かっている、分かっているんだ。

だが、あの子を私たちのようには育てたくないのだ。」

ボスは悲しい顔をして言った。


「ボス…」


◇◇15年前◇◇


「大介…」

ボスは悲しそうな声で言った。


「ボス、分かってるよ?」

大介は言った。

「僕がボスの後継者になるよ。」


「大介何を言って…」

ボスは焦った。自分のように過ちを犯して欲しくは無かったからだ。もう自分は取り返しがつかない。ならせめて大介は…と思っていた。


「ボスが僕を育ててくれたんだもん

だから頑張るよ、お父さん」


「全くどこで覚えたんだ…」

そう言いながら綺麗なブラウンの瞳から涙が零れ落ちた。




◇◇

それからというもの、大介は沢山努力をした。戦略、戦術、柔道、剣道、空手、ボクシング、戦うのに必要なもの全て完璧にこなした。


◇◇11年前◇◇


「大介、これがお前に任せる最後の任務だ。

これが終わったらわたしは引退だ。

それまで生きていられるか。」


「はっ! ボス…」


「悲しむのは任務完了してからだ。

まずは一色友美、こいつを見張れ。」


「殺しですか?」


「上が許可を出してからだ。」


「承知致しました。全てはボスのために。」



◇◇


(一色友美はあいつか?)


「ちょっと!やめてください。」

(なんだ?)


「いいじゃ〜ん。俺らと遊ぼうよ?」

「ほら、お金ないんでしょ?」

(ボスが出した半グレか。やり方が素人だ。)


「ちょ、やめ…」


「悪者はキーーーック!」


「うわっ!」

「うおっ!ぐっ!」


「逃げるわよ!走って!」


「うん。」



「あはははははは!!」

大介は生まれて初めて盛大にわらった。

(面白い、面白いな。一色友美

こいつの周りにはこんなにも面白い奴がいたとは)

大介ははじめての感情だった。

今までボスに抱いていた感情とは違う何か。それが分かるのはまだ先のことになりそうだ。



◇◇10年前◇◇


(ついに今日から本格的に標的と接触を図るのか。)

「全てはボスのために。」



「えーっと君は大河内くんだっけ?」


「はい。」

(こいつが担任の先生か。)


「大河内くんね、ってIQ400???!

そんな数字が??!存在するなんて…」


「そんなにすごいのですか?」


「ええ。もう1人の転校生とは大違いね。」


(もう1人?ああ、あの問題児のことか)

(害にならないといいが)


「それじゃあ、学校案内するわね。」

担任の先生は言った。


ガラガラガラ

「失礼します。先生はいますか?」


「あら、一色さんじゃない。

あ!ちょうど良かったわ、転校生の学校案内頼める?」


「あ、はい。わかりました。」

友美は快く承諾した。

「あなたが大河内くん?」


「ああ」


「噂で聞いたわよ、IQ400 すごいじゃない」


「大したことは無い」


「冷静なのね」


(失敗したか、)


「大河内くん面白いわね。」


「面白い?はじめて言われた。」


「あら、ほんと。じゃあわたしが大河内くんのはじめての人だね!」


ドキッ

(なんだ今のは)


「これからよろしくね大河内くん」


「こちらこそよろしく。」


「一色友美!友美でいいわよ」


「と、友美」

(顔は冷静を保っているがバレていないだろうか

この胸の違和感、なんなんだ…)


ずっとあなたを見てきてたのに、

喋っただけでこんなにも心臓の鼓動が早くなるなんて…



これからも喋れるといいな

これは良くないことだと分かっていても

そう思ってしまった。

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