第34話



 なんやかんやあってムチ子はそのままの状態で行動することになり、極力彼女を走らせないため俺がムチ子を背負って行動することになった。


 催眠おじさん大量発生の時なんか、インと先輩とムチ子の三人を抱えて逃げてたくらいだし、いまさらムチ子一人を背負ったくらいで逃走の足が緩まることはない。


 健脚で追手から逃げつつ、奇襲に近い形で各地の敵を各個撃破していくと、次第に学園の付近まで近づくことが出来た。

 そして、その学園近くのコンビニの裏手で見つけたのが──


「ご゛う゛は゛い゛ぐう゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ん゛っ゛!!!」


 グズグズに泣きじゃくって抱きついてきた合法ロリと。


「どう……して……」


 目に見えて動揺している、額に脂汗を浮かばせた無表情っ娘であった。 



 ……


 …………


 ………………



 とりあえず人気の無さそうな公園に移動して、丸いドーム型の遊具の中に身を隠した俺たち……だったが。



「馬鹿コウ。バカ。ばか。しね」

「いっへへへててて!?」



 インの『大人しく待っていろ』という言いつけを破ってこの世界に飛び込んできたせいで本人の逆鱗に触れてしまったらしく、俺は彼女に思いっきり頬を引っ張られていた。

 彼女はこの世界にきてからすぐに式上先輩を保護し、彼女が所持していた逃走用ガジェット一式が詰め込まれているバッグを背負って立ち回っていたらしい。


 どうやら覚悟を決めたインの能力は凄まじかったようで、彼女が本気を出して保護していたおかげか、式上先輩は傷一つ負っていない。あったとしてもインが来る前に負っていた軽傷程度だ。


 式上先輩を無事に守り、さぁ次はムチ子だ──といったところで彼女らの前に現れたのが俺だったわけで。

 わざわざ自分を追って命の危険があるゲームへ再び飛び込んできた俺に、インはぷんすか状態だ。

 ほっぺをつねる手は離してくれたものの、眉を顰めて俺を睨みつけている。


「何で追ってきたの、馬鹿なの」

「いてて……ぃ、いや何でって、お前ひとりじゃ不安だからに決まってんだろ」

「は? コウは私のこと信じてくれないの?」

「信じる信じない以前の問題だろうが。相手はあの悪魔どもだぞ?」

「……問題なんてないよ、なにも」

 

 視線を逸らすイン。どうやら自分の力不足は実感していたらしい。これは明らかに強がりだ。

 式上先輩一人ならなんとかなったかもしれないが、そこに負傷したムチ子も加わるとなれば厳しい部分もあったのだろう。


 加えて驚くことに、なんとインは自分がウサギ悪魔に利用されていることも自覚していた。


「だって、こうでもしないとそもそもNTRの二人を助けるチャンスを得られない。……それに勘違いしないでほしいんだけど、私別にコウの為だけにこんなことしてるワケじゃないよ」


 お、ツンデレかな?


「私は式上先輩とムチ子を助けるためにこのゲームに参加した。それだけなら何とかなったかもしれないのに、コウがわざわざ介入してきたから算段が崩れた。どう責任取ってくれるの?」

「言っとくが俺は謝らねぇぞ。断言するけどお前ひとりじゃぜっっったいに失敗してたね。インが思ってる以上にこのゲームは無理ゲーになってるんだから」

「はぁ? 放課後はひとりでウジウジしながら悲劇の主人公に浸ってた中二病にナニができるって?」

「うるさ! は? おまえうるさ……。女の体で自分がしてたこと思い出して独り言ブツブツ呟きながら一人で赤面してたヤツがよ」

「なんだって?」

「やんのかコラ」


 取っ組み合いが始まった。

 せっかく助けに来てやったのにこの態度じゃこっちだってムカっ腹が立つってものだろう。


「この馬鹿コウっ」

「いてっ! テメぇッ、ついに殺してやる!」

「んぎゃっ……!」


 ボカスカ。ぺちぺち。


「あわわ……後輩君たちがケンカしてるの初めて見るよぉ……!」

「いやアレ戯れてるだけでしょ。ロリっ子も見てないで早くとめなさいよ」

「ロリっ子じゃありませんが!?」

「……こいつらめんどくさい……」 


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