第35話
ややあって。
「──じゃあ、行くよみんなっ! NTR出発!」
俺と再会した時は『う゛ぇ゛~゛』と年甲斐もなく泣いていた式上先輩もすっかり立ち直り、彼女の合図で俺たちは一斉に公園から飛び出した。
一時的に俺が仮眠を取って夢を見ることで、そこから微量の精気を吸ってムチ子も少し回復し、万全とは言えないがとりあえず動けるようにはなったので一安心だ。
インが前衛でガジェットを駆使した斥候。
次に先輩がラジコンやドローンで周囲の索敵。
そしてムチ子は精気を吸って復活した翼で空を飛び、全体の状況を把握しながらそれぞれのメンバーのカバー。
最後に残った俺は、もちろん主に戦闘を担当する。
フライパンで暴れまわるだけでは厳しい部分もあるだろうが、そこにNTRのメンバーの力が合わされば無敵だ。
「おらぁぁぁぁぁっぁぁ!!!!」
道行く敵をバッサバッサと薙ぎ倒し、ウサギがインに課せた難題を全員で乗り越えていく。
肉体に触れたら強制的にこちらが絶頂してイキ死ぬ怪物を、式上先輩特製のスーパーラジコンカーで撹乱しつつ俺の催眠術で眠らせることで倒し。
リベンジということで再び俺を狙い、仲間を連れて舞い降りてきたあの変態天使たちを全員フライパンで天界へ吹っ飛ばして帰宅させ。
次々と襲い掛かってくる強敵たちを撃破していき──ついに俺たちは学園への一路を切り拓くことが出来たのだった。
「いくぞ!」
全員で学園の中へ突入していき、一心不乱に前へ突き進む。
そこでは外以上に多くの敵たちが待ち構えており、だがそれでもそれら全てを倒して俺たちは進む。
賞金に目が眩んで事の真意を測ることなく、式上先輩を裏切った科学部の部員たちを。
天使たちと同じくリベンジマッチを目論んでパワーアップして再び挑んできた元クラスメイトの青城を。
大勢の痴女や種付けおじさん、催眠術師や白ハゲマッチョ、果ては巨根生意気ショタやら時間停止能力持ち目隠れ竿役やら触手モンスター服だけ溶かすスライム下品なゴブリン諸々すべてを、先輩のガジェットと俺のフライパンで亡き者として、着々とゴールへと近づいていった。
──そんな俺たちの前に現れた最後の敵は。
「い、行かせないぞ! 生放送の題名は【死亡確定の無理ゲー】なんだ! お前ら全員ここで死んでもらうからなぁッ!」
旧約聖書にでも載ってそうな、いかにも『悪魔』といった風貌へ様変わりしたウサギ悪魔本人だった。
とても分かりやすい。この生放送の締めくくりは、全ての事の発端であるウサギというラスボスを撃破すること、という事なのだろう。
「……いくぞ。イン、先輩、ムチ子!」
俺の声に三人が頷く。
これから挑むラストバトルには、NTRの総力を結集して立ち向かわなければ勝機はないだろう。
だが、俺たち四人が力を合わせれば、そこに不可能は存在しない。
そうだ、NTRならできる。
「うおおォォーッ!!」
俺たちの戦いは──これからだ。
★
まだ、少し眠い。
後頭部をボリボリと指でかきながら、机に立てかけられている時計を一瞥する。
今は早朝の七時半前後だ。流石に二度寝をする時間ではない。
昨晩寝た時間が夜中の三時過ぎだったせいか、嗽や洗顔まで終わらせても、未だ眠気が取れてくれないのが、少し悩ましいところではある。
鉛のように重い寝ぼけまなこに力を入れ、なんとか眦を決して寝起き気分を切り替え、俺は制服に着替えてから洗面所を出た。
向かう先は二階。俺の部屋の隣だ。
「もしもーし。起きてますかー」
軽くドアをノックしたが、返事はない。
ハァ、と軽くため息を吐いた。
いつもの事というか、最近は毎日行っている
変わらぬ調子で部屋のドアを開けたが、これで彼女がもし普通に起きていたら、俺はきっと声を上げて驚くことだろう。
それほどまでに、この行為が日常的になっていた。
「スピー……ぐぅぐぅ……」
「いまどき鼻提灯ふくらませて寝る人なんているのかよ……」
ベッドの上で漫画のキャラのように分かりやすく眠ってますよアピールしている
部屋で起こそうとしても無駄なのだ。もし起きたとしても彼女は二度寝するか、ノソノソと亀の如きスロースピードで階段を降りてくるため、時間の短縮と無駄の排除という点も兼ねて、こうして運ぶのが一番手っ取り早い。
「ほい、コップ。ちゃんと嗽してくださいね」
「んぅー……?」
洗面台の前に立たせてコップを持たせたものの、少女は未だにポケーっとしている。
面倒くさいなこの人。
もう最終手段を使ってしまおう。
「早くしてください、このロリちんまい幼女センパイ」
「ロリちんまい幼女じゃないのですがっ!?」
起きた。
どういう条件反射なんだこれ。
「あれ? ……ぁ、後輩くん。おはよぉ」
「おはようございます、式上先輩。早くしないと置いてきますよ」
「わわっ、まってぇ。ガラガラ……」
俺に急かされて急いで水を口に含み、音を立てて嗽をするその姿は、まさに年長者に世話をされる子供そのものだ。
「
「ちょっ、口に含んだまま喋らないで! はねるっ!」
そんな一幕があって、ようやく俺の一日がスタートするのだった。
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