第22話




 時刻は夜。場所は俺の家で俺の部屋。

 四人で過ごすには聊か狭い部屋のベッドの上で、俺は三人の人間に囲まれていた。

 右腕を抱いているのはイン。左肩に纏わりついているのはムチ子。

 そして胡坐をかいている俺の膝の上には、この中で一番体重が軽くて体の小さい式上先輩が乗っていた。

 まさに四面楚歌。後ろは壁で、左右と前をNLSのメンバーに塞がれた俺は、まるで身動きが取れなくなっていた。


「……ぁ、あの、みんな……」


 耐えきれずに俺が弱々しい声を漏らすと、正面に跨って先輩が首を傾げた。


「何だい?」

「ほ、本当にこれ、やる意味あるんです……?」


 このについて異議申し立てをすると、正面の先輩ではなく右腕に抱きついて、膨らみかけの柔らかい胸を押し付けている親友が口を開いた。


「コウが勝利宣言をしたせいで、それをよく思わない悪魔たちが力ずくでこの世界に干渉してきた」

「うぐっ」

「えっちなイベントは前より多くなったし、それらは逃げればいいけど、前よりも強力な淫夢を見せてくるようになったサキュバスたちに対しては、コウが夢の中で抗って自ら覚醒して起きるしか手立てがない」


 そうなのだ。俺が調子に乗って悪魔にデカい口を聞いた影響で、思い通りに事が進まないことに憤慨した悪魔たちが余計な茶々を入れ始めてきやがったのだ。

 以前俺にハツジョーくんを送った要領で、やつらはこの世界の住人──特にサキュバスに対してパワーアップするようなアイテムを渡した。

 そして強くなったサキュバスたちはムチ子が弱っていることを知るや否や、この街を拠点にしようと次々と流れ込んできたのだ。


 力が増したサキュバスの淫夢はあまりにも絶大な魔力が込められており、それを見せられている間は外から肉体に何をされても起きることが出来ない。

 奴らの夢ワールドから脱して現実へと帰還するためには、サキュバスたちが仕掛けてくる誘惑に俺自身が打ち勝たなくてはいけない。


 しかし夢の世界はある程度サキュバスが自由に弄れて、おまけに夢を見せられている状態の俺は脳を直接魔力で攻撃されているため、普段の状態よりも意志と心が弱っているときた。


 というわけで、俺に目の前の性欲に対しての耐性を付ける、ないし耐性を必要以上に強くするために、NTRの三人はとんでもない作戦を立案した。



 ……女子三人で俺を誘惑し、数時間の間それを耐久させる、という作戦を。


「後輩君。これはどうしても必要な処置なんだよ。女の子にすり寄られて体を擦りつけられる誘惑に耐えられるようになれば、君はきっと淫魔に打ち勝つことが出来る。

 逆に言えば……これに耐えられるようにならないと君は夢の中で誘惑に負けて死んでしまう」


 いや、分かってはいるんですけどもね。

 なんというか、抜きゲーみたいな世界に抗うためとはいえ、逆にエロゲみたいなシチュになってるのは本末転倒な気がしてならないというか、あの、その……。


「今はムチ子くんの呪いも付与されてて性欲MAXだろう? いまの性欲マシマシ状態で誘惑に耐えられるようになれば、呪いがなくなった後のキミは無敵だよ」


 そうか……? そうかなぁ……。


「コウ、がんばって。コウならできるって……信じてる……ふふっ」


 ちょっと笑ってんじゃねーかテメェ!? 面白半分で参加してるだろインお前オイッ!!


「アンタはいいから大人しくしてなさいってば……」

「おい耳元で囁かないで」

 

 お前にいたっては本物のサキュバスなんだからもう少し手加減して……。


「いいこと? アンタはこれから二時間、絶対に動いちゃダメ。動いていいのは……誘惑に負けてアタシたちの身体を触るときだけよ」

「と、トイレとか……!」

「さっき済ませてきたでしょ。緊急用に尿瓶とティッシュも用意したから心配しないで」


 尿瓶とか勘弁してくれ。介護じゃないんだぞ。


「うっさいわね、介護みたいなものでしょ。……ほらロリっ子、さっさと始めちゃって」

「ロリじゃないですけど! ……コホン」

「あ、あの、先輩やっぱり考え直しませんか」

「だーめ。じゃあ後輩君──始めるよ」


 その一言が開始の合図となり。

 右のインと左のムチ子が俺の頬にそっとキスをして、二時間の性欲我慢耐久特訓が開始された。



 彼女らの体から香る甘い匂いが鼻孔を通って脳を刺激し、更にマシュマロのように柔らかく反発する寝間着越しの乳房を腕に押し付けられ、心臓は俺の下半身へ次々と血液を充填させていく。

 我慢は強いられているが、興奮は制限されていない。


 インに耳を甘噛みされ、魔力を操作して少し大きくした胸の果実をムチ子に押し付けられ、正面から式上先輩に顔を近づけられる。

 先輩はキスはしない。誘惑を我慢させる、という目標の通り、彼女は唇が接触する直前で止まってしまう。

 誘惑に負けてキスをしたらゲームオーバーということなのだろう。


 どいつもこいつも体のあちこちを触ったり、唇以外にキスをしたり舐めたり甘噛みしたりするのに、確実に俺の性器だけには触れないことで、完璧な生殺しの状況が成立してしまっている。

 太ももの内側やへその下を撫でられるが、それは快感に直結せず、脳内の悪魔が俺に『触れ』『襲え』『我慢をやめろ』と甘美な言葉をささやいてくる。



 ギリギリR18なことはしてこないこの状況を、あと二時間。

 もしかしたら俺は死ぬかもしれない。



「ねぇ、コウ」


 ふと、隣に座っているインが声をかけてくる。

 歯を食いしばって我慢をしている俺は返事を返せないが、構わず彼女は言葉をつづけた。


「これが終わったら……ちゃんと自分で性欲処理してね」


 耳元で囁く透き通るような声に肩をビクつかせるが、少女はそれを見ても止めようとはしない。


「溜めすぎたらダメ。それだと夢の中で暴走しちゃうから、我慢できたらご褒美があるって考えて」


 ご褒美とは。今まさに地獄を体験しているのだが、これが終わったら何が与えられるというのか。


「私たちがコウのオカズになってあげる。命令してくれたら、目の前でスカートをたくし上げてパンツを見せるし、えっちな衣装だって着るし、おっぱいや太もも、お尻だって好きに触っていい」


 え、いいの?



 ──いや待てッ!!

 インのこれは耐久作戦中の囁き攻撃だ! 本気にしちゃダメだ! 俺は負けねぇぞッ!!



 ……あれ。でも今のって、耐久作戦が終わった後の話だよな? てことはご褒美は本気にしていいのか?

 わ、分かんなくなってきた。

 これが先輩の立案した性欲耐久作戦の威力だっていうのか……!?

 強敵だ、ここまで判断能力が揺さぶられるなんてッ!


 うおおおぉぉわああぁぁぁっ!! 負けねぇええぇぇぇっ!!


「セックスはダメだけど、それ以外のことなら三人で何でもしてあげる。コウが頑張れるように、私たちが性欲処理係になってあげる」


 やめろーっ!! ヤメロォォーッ!!!


「……だから、私たち以外で射精をしちゃダメだよ」


 囁くなぁぁぁ゛ぁぁァァ゛ァァッ゛ッ!!!!




「我慢できたら、私たちが気持ちよくしてあげるから──




 

 ──だからがんばってね、親友」


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