【梨佳子】

 この場所はどこだろう。

 思った私は、忙しなく視線を移動させた。

 沿道や道路標識から情報を収集する。

 夜間の走行とあってか、現在地を決定付けるヒントはみつからない。それでも私は、僅かな情報源から、この付近が横浜と川崎との市境か、もしくは川崎市に入ったあたりでないかと推測する。

 時刻は二十時半になろうとしていた。しかし私は、どのくらいの時間、自分が運転をしていたのかという部分には考えが及ばなかった。

 無我夢中に家を飛び出した記憶は新しい。が、果たしてあれは、何時のことだったろうか。

 私は周囲に目を配りながら、車を停車させられる場所を探していた。心臓の高鳴りは、目の前の現実を冷静視できるくらいには落ち着きを取り戻している。それでも、カラカラに乾いた喉だけはどうにもいかず、喉の奥が、必要に水分を欲していた。

 しばらく走行を続けた後で、私は目に止まったコンビニの駐車場に車を停車させた。入り口から一番遠く、薄暗い場所に降り立った私は、車のドアに凭れかかり、天を仰いだ。

 晩秋の夜空に冷やされた空気が、露出した肌に沁み渡っていく。

 私は覚束ない足取りと、覚醒してくる意識のギャップを感じながら店の中へ進み、冷たい紅茶のペットボトルを手に取った。

 会計を済ませ、再び運転席に収まると、蓋を開けた紅茶を呷るようにひと飲みした。

 潤いを取り戻した喉を、大量の息が抜けていく。

 一度目に吐き出した息は、この上なく生き返ったことを実感させた。けれど、すぐ後に続いた息は、精神疲労を痛感するに十分な溜息だった。

 項垂れた私はハンドルに身を預け、瞑目する。

 こんこんと湧きあがるジレンマに顔を歪めると、額をハンドルの縁に擦りつけた。

 もう逃げ場はない。現実逃避の終着点。

 私にはもう、行く宛てのない道を前進することは許されない。どうしたって私は、あの場所へと戻らなくてはならないのだから。

 夫と息子が待つ、あの部屋に――。

 そこで私は、事の顛末を説明することを強いられるだろう。

 こうなってしまった以上、私に逃れる術はない。

 一分の一の確率で、銃弾に打ち抜かれるロシアンルーレット。結局のところ、私がとった行動は、避けられない現実をわずかながらに延命しただけのこと。逃避行はタイムスリップにはあらず。誤った過去を変えるチャンスが巡ってくることはない。


 それにしても……夫があのタイミングで帰宅してきたことは、誤算だった。よりによって、あんな場面を目撃されてしまうとは。

 思えば、篤斗が何の連絡も寄越さず帰宅すること自体、珍しいのだが、遡ってみれば、夕刻入った電話にも、私は満足な返事をしていなかった。ただ一方通行にメールを返しただけ。

 もしかすると、あの連絡が早期帰宅を知らせるものだったのかもしれない。忘れ物でもあったのか、別の理由からなのか。

 そこで一旦、思考回路を遮断する。詮索を続けるのは、陰鬱さが増していくようで息がつまる。

 私は気分転換とばかりに、ドリンクホルダーのペットボトルへ手を伸ばした。ゴクリと喉を鳴らし、喉の閉塞感を洗い流す。

 一息ついたところで、肩を竦ませた。徐々に車内の冷え込みが強くなっているようだ。思った私はエンジンを始動させ、ヒーターのスイッチを入れた。

 と、そこで正面の壁に貼られている注意書きに目が止まる。

『夜間はエンジンを停止させてください』

 近隣の皆さまのご迷惑になりますので――とまでを読み上げてしまうと、このままエンジンをかけっぱなしにすることは憚れた。

 店側にしても、紅茶一本を買った程度で長々と駐車されては迷惑だろうし、この場所にしても、客の出入りに影響はないように思えるが、かえってそれが不審に映るかもしれない。

 もう少しだけ留まっていたい思いはある。が、ここぞとばかりに、余計な良心がしゃしゃりでる。

 仕方なく私は、ギアをバックの位置へと動かした。


 やはり篤斗は、昨晩のことを引き摺っているのだろうか。

 自宅に帰路をとりながら、私は夫のとった行動の裏に思慮を潜らせた。

 物事に対する異質なこだわりようから、何でもきっちりこなす完璧屋のイメージがある一方で、篤斗はよく忘れ物をする『うっかり屋』でもある。その度に私が届けるようなケースもあれば、本人が合間をみて帰宅してくることもある。

 偶然のバッティング。そう考えれば、夫の帰宅に疑惑の目を向ける必要もない。だけど、どこか腑に落ちない自分もいる。

 元来、閃きや直感を原動力とする篤斗は、時に私の予測もつかないような行動にでることがある。傍目にはギャンブルさながらに映るような行為でさえ、当人は、八割型は吉とでる、と肯定するのだが、よもや今回のケースもそうであるというのか。

 だとすれば、篤斗はなんらかの疑いを私に向けているはずだ。

 ここ数日の出来事を鑑みれば、ない話ではない。

 それでも、篤斗が事の真相に辿り着くことだけはないと言い切れる。いかに創造性に富んだ思考回路をもっていようとも、妻が息子に憑りついた元カレの悪霊と戦っている構図を思い浮かべるなど、できるはずがない。

 だとすれば、より現実的な何か、になるのだが……。

 私は思念を打ち払うようにかぶりを振った。

 残された時間を考えれば、ここで篤斗が現実をどう捉えているかに縛られ続けるのは、得策ではない。

 篤斗が私にどんな嫌疑をかけていようが、私には、私なりの筋書きを演じる以外、手立てはない。たとえそれが嘘で塗り固めた物語であっても、だ。

 見慣れた景色に目を向けながら、私は実感する。差し迫った現実が、かえって肝を据わらせたようだ。

 申し訳ないが、昨晩に引き続き、私は夫の優しさを利用させてもらうことにする。嘘を吐くことへの負い目や罪悪感は、全てが終わってから清算すればいい。


 ほどなくして、玄関に戻った私を出迎えたのは、拍子抜けするような沈黙だった。

 訝しんだ私は部屋の奥に意識を向けてみるが、人が動く気配はない。そう思った矢先に、リビング脇の部屋から夫の姿が現れた。

「遥希は今、寝かせつけたところだから」

 夫の視線を躱しながら、うん、と頷く。

 まるで何事も無かったかのようなやりとり。

 だが私がダイニングの椅子に腰を下ろしたところで、篤斗が言った。

「遥希は、目に涙を溜めたまま眠ったんだぞ。寝る寸前まで、泣いてたんだ」

 その声は、怒りに震えていた。

 乱暴に椅子を引き、私を威圧するように腕組みをした。

 私は夫のスイッチが入ったことを実感する。

 気持ちの準備はできていたが、それでも空気を震わす憤怒のオーラが、私の身を竦ませる。体が覚えているのか、病んだ記憶がそうさせるのか、ないとわかっていても、暴力の雨を想起してしまう。

 篤斗が先を続けた。

「悪いけどあまり時間がない。だから手短に、俺が納得いくように説明してくれ。昨日のこともそう。さっきのこともそう。何がどうなったらあんなことになるのか。俺にわかるように説明してくれよ」

 無理に怒りを押し鎮めた口調は、いつ噴火しても不思議でない危うさを孕んでいた。しかし時間がない、と告げられたことは救いだった。

 風向きが、多少であるが追い風に変わったかもしれない。

「ごめんなさい」

 私は頭を下げた後、そこで初めて篤斗に目を合わせた。

 もう一度、重ねるように視線で謝罪する。

 篤斗の目は、寸分の狂いもなく、私の目を捉えていた。

 ただでさえ睡眠時間を削られてしまうこの時期に、昨晩の出来事も重なってか、夫の表情には疲労が色濃く刻まれていた。けれど、もうどこにも逃がさない、といった鋭い眼光は、真っ直ぐに私を射抜いてくる。

「悪いのは、全部私なの」

 予め用意しておいた台詞に、悔悟の念をたっぷりと塗り込んでから告げる。

「昨日も今日も、悪いのは私。全部、私が悪いのよ」

 次いでテーブルの上に塞ぎ込む。

 篤斗から視線を逸らしたい狙いが半分と、少しでも時間を引き延ばしたい狙いが半分。私に大袈裟な仕草を取らせていた。

「――梨佳子」

 篤斗の手が、私の腕を掴んだ。顏を上げろと言わんばかりに腕を揺すぶられる。

「俺は謝ってくれなんて頼んでない。もう一度言うぞ。何故あんなことが起きたのか、俺が納得できるように説明してくれっていってんだ」

 矢継ぎ早に告げられた声に、余裕は感じられない。篤斗の焦りが、手に取るように伝わってきた。

 私は限界まで間を焦らしてから、顔をあげる。そして言った。

「……実はね。最近、遥希が少しだけ生意気になってきたの。私の言うことを全然聞いてくれない時があって」

 これは先日、千尋が私に打ち明けた台詞だ。月菜ちゃんが生意気になってきたことを理由に、手をあげてしまったことを悔やんだ、彼女の告白を拝借する。

「昨日の晩も、苛々が溜まってたのかもしれない。だから私、かっとなっちゃって、気づいたら手が出ちゃってた」

「手が出ちゃったって……あれは、そんなレベルじゃなかっただろ」

「でも本当にそうなの。お願い、私を信じてよ! 私だってあんな真似がしたかったわけじゃない。だけど突然、あんな場面に遭遇したら……気が動転して、自分を上手くコントロールすることができなかったの。だって篤斗が、大怪我する可能性だってあったんだよ」

 信じて、と感情的に訴えられた篤斗に、冷淡な態度を取れないことは百も承知。その上で虚偽の脚色を重ねる。

「遥希を叩いたのだって、昨日がはじめてなの。力の加減もできないのかって怒られるかもしれないけど、ほんとよ。嘘じゃないの」

 悲壮感を目で訴えると、自然と涙が滲み出していた。

 篤斗が唇を噛んだ。目が葛藤に揺らいでいる。疑心に喘ぐように声を吐き出した。

「だったら、さっき俺が見たのはなんだったんだよ。あれもかっとなったって言うのか?」

 恐る恐る頷いた私の頬を、涙の粒がしたたり落ちる。

「さっきは昨日のこともあって、また私の言うことをきかない遥希に腹がたったの」

 ごめんね、篤斗。心の中で懺悔する。

「でもね。さっき家を飛び出してから、私、自分がしたことを振りかえって怖くなった。自分があんなことをしたなんて、信じられなかった。もし篤斗が帰ってきてくれなかったらって、想像したら、凄く恐ろしい気持ちになったの。もしかしたら、私の中に、凶暴な悪魔が棲みついているんじゃないかって……」

 篤斗は口元を固く引き結んでいた。その様子から、心の天秤が揺れ動いているのが窺える。

「私、怖いの。今、自分が凄く怖いの――」

 篤斗の手を取った。テーブルが邪魔をしなければ、助けて欲しい、と懇願し、抱きついていただろう。

 篤斗は困惑したように、私の目を見返していた。

「……わかったよ」

 理解とも、諦めともとれる、抑揚のない声だった。

「わかったけど、これで済ませられる問題じゃないから。もう一度、あとでじっくり話を聞くよ。今は会社に戻らなくちゃならないし、あと二日は、どうしたって時間を作れっこないからな」

 そう言った篤斗が、時計を気にする素振りを見せた。

「だから約束してくれ。この先、遥希がどんな悪さをしたって、あんな叱り方だけはするなよ。これ以上、手をあげるのだけは、我慢してくれよな」

 うん、と頷いた私は、「約束する」と言い添えた。

 天秤は、私に向かって傾いたのだ。


 そして夫は会社に戻っていった。だが家を出る直前に、神妙な面持ちを浮かべた篤斗が、前振りもなくこう言った。

「虐待してるわけじゃないよな」

 瞬間、私の鼓動が跳ね上がった。心が激しく波立ったが、夫に悟られないように平静を装った後、首を振って否定した。

「虐待なんて、するはずないじゃない」

 二人の視線が交差する。真実を覗き見されるような間に、尚も心が波立った。

「そうだよな。疑って悪かった。ゴメンな」

 答えた篤斗の目線が、左下に落とされていた。

 その仕草に凍りつく。私への疑いが解けてないことを、確信できたから……。

 篤斗は気付いていない。自分が嘘を吐いている時の心理状態が、声と表情に顕著な影響を及ぼすことを。声色に余裕を浮かべていても、それとなく視線を外してしまう癖があることを――。


 夫が立ち去った後の玄関で、私は茫然と立ち尽くした。

 やり切れない思いに、ゆらゆらと首を振り続ける。

 篤斗の見ている世界では、私は虐待に手を染める悪妻に成り下がっているというのか。

 確かに、悪い女だという自覚はある。言い訳は山ほどあるが、否定はしない。遥希に手をあげたことも事実だ。

 だけど、それでも私は、虐待と言われるような行為を一度だってした覚えはない。私がしていることは、全て遥希を守るための労苦であり、断じて虐待などではない。

 それがどうして、私が疑われる立場になろうとは――。

 崩れ落ちるように膝をついた私は、髪の毛を掻きむしりながら、衝動任せに頭を振り乱した。

 悔しかった。ただひたすらに、悔しさが込み上げてくる。

 しかし、揺れ動く視界の中で、慨嘆の矛先だけは微動だにしなかった。そのことが、かえって私に冷静さを取り戻させていく。

 私は立ち上がった。

 そうだ。あれもこれも、全ての元凶はあの男。

 宇津木があんなことさえ口にしなかったら、私が怒りに支配されるようなことも無かったはずだ。

 事の発端は全て、あの男にある――。


 篤斗からの電話が鳴り響く、数分前。

 私は遥希が宇津木に成り変わる瞬間を目撃した。いや、厳密に例えるなら、感じたと言うべきか。

 私が夕食の準備をしている最中に、それは起こった。

 何の前触れもない。突然、部屋の空気が怪異な重々しさを纏った。

 感じたのは明確な室温の変化。剥き出しの肌が、一瞬にして総毛立った。

 反射的に遥希の姿を捉えると、それまで玩具遊びに夢中だった動きが、不自然に静止していた。

「遥希」と声に出すものの、息子からの反応はない。私は未知なる領域に足を踏み入れてしまったように、二の足を踏んでいた。

 尚も蠢く不穏な空気。私は宙に視線を彷徨わせる。

 肉眼には何も映らない。しかし私は、確かにそれを感じることができる。異なる現実が、私を嘲笑っているようにも感じられた。

 宇津木が現れたのが、その直後。突如私に振り向いた息子の顔は、あどけなさの欠片もないほどに、ふてぶてしい笑みを浮かべていた。

 愛おしい息子の体が、再び汚された瞬間だった。


 宇津木の出現を目の当たりにした途端、私の中で昨晩から燻り続けている殺意の炎が、目を覚ました。

 私の心が訴える。この男だけは絶対に許すまい、と。

 息子の体の乗っ取りを企て、隙あらば夫の命まで奪おうとした蛮行を許せるはずがない。

「ヒロヤ……なんでしょ」

 乾いた声で問い掛けた。

 今にも飛び掛かりたい衝動に、待ったをかける。私は、膨れ上がる怒りを、抑制の鎖で縛りあげた。

 ――あと二日。そう自分に言い聞かせる。

「なんだよ。また俺のことを待っててくれたのか?」

 こちらの心情などお構いなしのお気楽ぶりに、必然と表情が歪んでいく。

 だけど私は、宇津木の軽口に付き合うつもりはない。

「昨日は随分な真似をしてくれたわね」

 私は足元の宇津木と相対した。

 心の内で、怒りと抑制力が拮抗している。私は紙一重のところでバランスを保っていた。

「ああ、あれか」

 宇津木は小首をかしげるように見上げると、指先で頬をかいた。

「悪かったな。もう少しでリカの旦那を殺しちまうところだったよ」

 明け透けな挑発を返される。絶対的に有利な立場にいる自信からくる余裕。私はまた、息子の口から下劣な台詞を吐かれたことに心を震わせた。

 もう一度、今度は強く言い聞かせる。あと二日だと。

 実は今日、私は件の霊媒師に連絡をつけていた。宇津木は知らぬだろうが、準備は着々と進んでいる。

 それが二日後の日曜日。除霊へのカウントダウンは既に始まっているのだ。

 宇津木を見下ろしながら問う。

「どうしてあんな真似をしたの」

 まともな答えが返ってくるとは思えない。それでも私は、訊かずにはいられなかった。

 宇津木は意味ありげな視線を投げると、鼻を鳴らした。

 その時だった。携帯電話が間の悪い着信を受け取ったのは。

「おっ。噂をすれば、リカの旦那からじゃねえのか?」

 携帯を手にしてみると、まさに篤斗からの着信であった。が、私は着信を手の中で放置した。携帯が鳴りやむと、間髪入れずに家の電話が反応する。

「どうした? 電話にでないと不味いんじゃねえのか。大好きな旦那からのラブコールだろ」

 この局面、私が電話に出れないことを見透かした上で、この口上。

 弱者を甚振ることに喜びを得るこの男にとって、困窮する私の顔は、最高のエクスタシーに違いない。

夫宛てに、その場しのぎのメールを作成している姿にさえ、いやらしくほくそ笑む、薄汚い加虐趣味。その下劣な表情を横目に収めながら、私は忙しく画面を操作した。

 今は無理。後で連絡する。

 浮かんだ単語に適当な肉付けを施し、急いでメールを送信した。

 一呼吸おいた後に、仕切り直す。

「もう一度訊くわ。どうしてあんな真似をしたのよ」

「どうしてって、邪魔だったからに決まってんだろ。オレが気持ちよく眠ってる横で、あんなむさくるしい男がいるんだぜ。邪魔だった。それじゃあ理由になんねえか?」

 ――理由になるわけないでしょ。

 激しく燃え盛る怒り火を、喉の奥に押し込み、消火する。

 鎮火後の煙さながらに吐き出した息が、垂れ下がった前髪を揺らした。

 そこで私は、一時の逡巡から答えを導きだし、こう言った。

「お願いだから、夫に手をださないで」と。

 宇津木の性格を見透かした上で、あえて懇願してみせたのだ。

 これ以上、私が強気に出てしまえば、宇津木の機嫌を損ねてしまう可能性も否めない。意に反する願い出ではあるが、今の私がすべきことは、霊媒師がやってくる二日後まで、この男を気分良く泳がしておくことなのだ。

 私の気が済む、済まないは二の次でなくてはならない。

 すると私の読み通り、宇津木の口元が、喜色に染まった。

「まぁ、それもアリかもしれないな。リカの旦那は何も知らないまま、働き蜂みたいに稼いでくれるんだろ。そうすりゃ、リカは俺の面倒をみることに集中できる。知らぬは間抜けな旦那だけってな」

 宇津木に悟られぬよう、心の内で牙を剥く。

 かつての私も、働き蜂同然の扱いだった。よもや今度は、それを夫に強いようというのか。

 いいや違う。口ではああ言っているが、それでも宇津木は、再び篤斗を殺そうとするはずだ。

 並々ならぬ嫉妬心を持つこの男が、私の夫を生かしておくはずがない。昨晩の行動にしても、決して脅しではなかったはずだ。

 今更ながら、こんな男を一時でも好きになった自分に嫌気がさす。

 自らの欲望を実現させるために、他人を奴隷同然に扱っては、低俗な王様を気取る、屑男。

 こんな男の為に、私は多大な犠牲を払ってきたのだ。だが、それはいいと納得もする。私自身の弱さが招いた厄災であると知っているから。しかし、私の家族は違う。こんなことに、家族を巻き込んでいいはずがない。


 このやりとりがあった数分の後、私はある異変を感じ取っていた。

 もしや――と私は不測の事態に思いを巡らせる。

 これまでの間、遥希の身体を介して宇津木が出現していたのは、いずれも十分足らずの時間であった。それが時計に目をやれば、既に二十分は経過していることになる。

 私は霊媒師とのやりとりを思い返していた。

 ここ最近で、息子に感じられた思いつく限りの異変。初めて宇津木の出現を目の当たりにした日のこと。その後どれくらいの時間、宇津木の霊と向き合っていたのか。どんな会話をしていたのかに至るまで、仔細に渡り、私は状況を説明していた。

 そこから導いた霊媒師の見解はこうだった。

 今の憑依状態は、決して完全なものではない。

 とりわけ憑依時間が短いということは、遥希の魂が必死に拒絶し、悪霊と戦っている証なのだと説明してくれた。

 だから大丈夫。まだ充分間に合いますよ、と。

 その言葉を鵜呑みにしたわけではない。

 けれど一縷の望みに掛けていた私が、その声に期待したこともまた、事実だ。

 だからこそ私は、既の所で怒りを抑え込むことができたし、宇津木を前にしても、気後れせずに立っていられる土台を築くことができた。

 それがどうだ。今、私の足が伸びている場所の不完全さときたら、まるで底なし沼のように、足裏の設置感が失われてしまっているではないか。

 私は焦っていた。背中が嫌な濡れ方をしている。

 頭を必死に回転させ、憑依時間の長さに考えを巡らすも、どうしたっていい解釈はできなかった。なまじ霊媒師の声に踊らされていた分、その反動は大きい。

 あと二日。あと二日の辛抱だというのに、まさか手遅れになってしまうというのか。

 想像し、私は首を振る。けれど小さな遥希の身体の中では、今この瞬間も、ドス黒く染まった触手が侵食を続けているのかもしれない。霊媒師の言う通り、本当に遥希が戦っているならば、手助けしたい。それでも現実は、指をくわえて見ることしかできない無力さを痛感させれるだけ。私は苦衷に溺れた。

 せめて、せめて気持ちを整理するくらいの時間が得られれば。そう願うものの、現実は止まらなかった。

 意気阻喪する私に向かい、宇津木が追い打ちをかけるようなひと言を放ったのだ。

「なぁ、リカ。可愛い息子ちゃんが、腹減ったって言ってるぞ。何か旨いもん食わせろよ」

 私は絶句した。

 それが本当に遥希の訴えなのか、宇津木の意思なのかはどうでもいい。問題は、宇津木が平然と言い切ったことだ。

 まるで遥希の魂をコントロールするような、言い回し。

 既に憑依は完遂されてしまったかのような現実に、私の視界が大きく揺らめいた。

「……それ、本気で言ってるの」

 かろうじて抜け出た声は、震えを帯びていた。

「当たり前だろ。まさかオマエ、可愛い息子を餓死させるつもりじゃねえだろうな」

 さもそれが当然だと言いきられる現実に、目を逸らしたくなる。

 心に膝をつく思いだった。

 これが本当なら、私はこれから、肉体を伴わぬ宇津木の霊に対し、食事を提供しなければならないのか。それとも、これは必死の抵抗を続ける息子に対しての支援になるのか……。

 できるなら、後者であると信じたかったし、信じることが、唯一の救いであると願った。

 これは遥希のため。

 私は、そう念じることで、何処までも沈み込んでしまいそうな虚脱感を振り払った。

 遥希が求めるままに夕食の支度を再開した私は、食卓用のダイニングテーブルではなく、リビングのガラステーブルに、遥希の為の夕食を並べた。

 が、ここでも私は、心を挫かれることになる。

 本来であれば、遥希の食事には、私のサポートが不可欠だ。ひとりで食べ進めるには無理がある。

 それがどうして、私の手を借りずに事が運んでしまうのか。

 見ればスプーンの握り方も、フォークの使い方も、遥希のそれとは違っていた。

「次からは、もっとマシなもん食わせてくれよな。こんなんじゃ、味気なくって食べた気がしねえから」

 汚れた宇津木の口元が卑しく吊り上る。

 食べ終えた直後に、反吐が出るほどの捨て台詞。

 私はそれを、茫然と耳に受けていた。

 ……次が、あるのというのか。

 こんな日常に耐えられるはずがない。

 こんな日常を、永遠と続けて行けるわけがない。

 私が過去、あれだけ苦しめられた生活が、こんな脅威にかたちをかえるとは。

 堪らなくなった私は尋ねる。

「ねえ。ヒロヤの狙いはなんなの」

 そうだった。霊媒師は、憑依の目的がわかってしまえば、除霊に有利に働くと言っていた。まだ私の役目は終わっていない。私はまだ、望みを捨ててはならないのだ。

 宇津木は一瞬眉をひそめたが、特別に答えてやるよ、と言って不敵に笑った。

「死ぬ直前、俺はリカを許せないと思った。俺の知らない場所でのうのうと生きているオマエが、幸せそうな面をした旦那とセックスに励んで、その息子と一緒に暮らしている。考えただけで、虫唾が走る思いだったよ」

 今、死ぬ直前……と言っただろうか。

 私は軽い混乱を覚えた。

 だとすれば、宇津木は死ぬ前に、私の素性を知っていたことになる。それが真実なら、ここでの生活が監視されていたことになるのではないか。

「いつから見てたの?」

 宇津木は答えなかった。その代りに、刺すような視線を私に向けてくる。

「リカは俺がいなくなった後、あの男と付き合ったんだろ。そして結婚までしやがった。だけど俺は、一度だって別れたとは言ってねえぞ。つまりリカは、ずっと浮気していたことになる。違うか?」

それは、私から過去の記憶を思い出させるに充分な口振りだった。

 途端に背筋が冷たくなり、緊張に身体が縛られていく。

「許せねえよな。あれだけ浮気するなって忠告したのに、まさか忘れたとは言わせねえぞ」

 相変わらずだ。この男は、この期に及んで無軌道な理屈が通ると信じて疑わない。魂だけの存在となった今も、何一つ変わってはいなかった。

 それでも私は何も言い返すことができなかった。

 昔と同じ。そもそもの論理感に差があり過ぎる。

「まぁ今は仕方ねえよな。こんな体じゃ、前みたいに、痛い目に遭わすこともできねえだろうし……」

 と、そこで宇津木が何かに思い当たったように、表情を変化させた。

「なぁ。この体がもう少し大きくなったら、リカとセックスできねえかなぁ」

 嘘でしょ――と、私は完全に面を食らってしまった。

 全くの無防備。私はこの手の話題が出てくることを、一切予見できていなかった。いくらなんでも、遥希の小さな体で色欲を訴えるとは……。

「ちょ、何言ってるのよ」

「何って、別にいいじゃねえか。可愛い息子の頼みだろ。たかだかセックスくらい、減るもんじゃねえだろうが。それとも何か、リカに断る権利なんてあったのか」

「遥希の口からそんな言葉を言わせないで!」

 私は激昂した。心の暴発を抑制していた鎖に手を掛け、引きちぎる。

「返して。私の遥希を返してよ!」

 これ以上、遥希が汚されていくのを我慢できなかった。

「返してって、か。でもどうする? 俺が遥希で、遥希が俺で。リカはどっちの息子を信じるんだ? もしかすると、もうリカの可愛い子ちゃんは、いなくなってるかもしれないぜ」

「そんなこと、させない」

 宇津木を見下ろし、睨みつける。

「させないって、オマエなぁ」

 宇津木は悠然と構えていた。無理だと言わんばかりの余裕を浮かべている。

「だったらよう。今度、またあの千尋って女の家にいこうぜ。あの女、俺好みのいい体つきしてたんだよな」

 まさか――と私はいつかの記憶を呼び起こした。

 千尋と戯れていた遥希の姿がフラッシュバックする。と同時に、これまで抑え込んでいた全ての感情が剥き出しになった。

 遥希と篤斗に加えて、今度は千尋まで汚そうというのか。

「今、何て言ったのよ」

 私はにじり寄る。

 けれども宇津木は、動じることなくこう続けた。

「だから、あの女ともヤリてえなってことだよ」

「ふざけないで。遥希の体でそんなことはさせない」

「させないって。またオマエ、頭悪いんじゃねえのか。この体がどうなってもしらないぜ」

 絶対に許せない。

 私を暴力で屈服させたように、今度は息子の体を盾に、私を屈服させようというのか。

 篤斗を殺そうとしたことも、遥希の体を使って厭らしいことを目論んでいることも、千尋を劣情のネタにしようとしていることも、何一つ、許してはならない。

 胸くそ悪いあの口を、塞いでやる。

 そう思った結果が――あれだ。

 次に私が現実を垣間見た時。そこには、夫に抱えられる遥希の姿があった。

 忌々しい現実の末路。

 こんな経緯があったことを、篤斗に説明できるわけがない。 


 篤斗の帰りが朝方になると踏んでいた私は、僅かばかりの仮眠を取るつもりだったが、気付けば朝を迎えていた。

 圧し掛かるような倦怠感に顔を歪める。

 結局のところ、篤斗は帰宅してこなかった。昨夜は、あのまま会社に泊まったのだろう。だが朝方に着替えを済ませに戻ってくることもある。思った私は、携帯に連絡が入っているのではないかと手を伸ばした。すると案の定、篤斗からのメールが届いていた。

『朝一で、畠中先生のところに行ってくる。で、お願いがあるんだけど、十時までにパソコンの横に置いてあるUSBメモリを持ってきてくれないか』

 畠中先生とは、篤斗がお世話になっている医者のことだ。

 関内にある畠中内科医院。黒木さん経由で紹介してもらった、曰く、無理の利く個人病院である。

 畠中先生のところでは、年一回の健康診断とインフルエンザの予防接種が定番となっているが、このタイミングで篤斗が訪れる理由はひとつしかない。疲労回復を目的としたニンニク注射を打ちに行くことだ。

 それも昨日の疲労具合を慮れば、納得のいく行動である。おそらくは、昨夜の内に畠中先生の携帯に直接予約を申し入れたのだろう。

 通常の病院ではまず有り得ない裏技だが、だからこそ無理の利く医者となる。

それも十時までの時間指定とくれば、それだけで篤斗の言わんとしていることは伝わってきた。

 篤斗は九時の診療開始に合わせて予約を入れている。すぐに終わる注射ではなく、およそ一時間程度の点滴を頼んで、仮眠を取るつもりなのだ。

 つまりは再び仕事をリスタートする十時までに、件のUSBが手元にあれば良いということになる。

 以前にも一度、あの時は着替え用のYシャツだったが、似たような注文を受けたことがある。まず間違いはないはずだ。

 それにしても……やっぱり忘れ物をしたのか。

 だとすれば、昨晩の行動が無意味に思えてくる。忘れ物を取りに戻っておきながら、忘れ物をする。うっかりの連鎖。それでも実際は、あんな出来事があったのだ。肝心の目的が抜け落ちてしまっても仕方ない。ことの一端は、私の責任でもある。

 私は冷たい水を一飲みすると、眠っている遥希の脇に腰を下ろした。寝顔を見ている限り、これが遥希なのか、宇津木なのかの判別はつかない。ふと、ジキルとハイドを連想させたが、こっちの問題は少しばかり次元が違う。二つの人格以前に、魂が二つ混在してるのだ。

 私は何度か躊躇ったあとで、自分から声を掛けた。

「遥希、起きて。朝だよ」

 私の声に反応するように、小さな体が寝返りをうつ。まだ夢覚めやまぬといったようで、隙あらば布団に包まろうとしている。

 ようやく開いた瞼を何度か瞬かせる。指先で目を擦りながら、視点を定めようとしている。

「まだ、眠い?」私が問うと、遥希はむくっと起き上がり「テレビはじまったのぉ」と聞き返してきた。

 その姿に溜飲を下げる。ひと目で遥希であると確信できたからだ。

 同時に、最悪の事態を回避できたことを実感する。まだ遥希には時間が残されている、と。

 立ちあがった遥希の身体を、ぎゅっと抱きしめる。まるで何年もこうしてなかったかのように、手の中の息子を愛おしく思った。

「ママ、いたいよう」と言った遥希は、昨晩のことを覚えていないようだった。私の顔を窺う目には、一点のよどみも見受けられない。

「ごめんね」と離してすぐに、「ありがとう」と言い直していた。

 ママも頑張るからね、と願いを込めて、私はもう一度、遥希の身体を抱きしめた。


 遥希を連れて畠中内科医院に着いたのは、九時半を少し回った頃。

 気まずさの残る私は、できれば篤斗が寝入っている間にと、あえての時間帯を狙った。

 受付で要件を告げると、篤斗が事前に根回しを済ませていたようで、すんなりと奥の点滴室に案内された。

 ベッドが四つ並べられただけの簡素な部屋。

 使用中のベッドはひとつだけ。他の三つは使用されていない。窓際の左に位置するベッドにだけ、点滴が吊られたスタンドと、そこから垂れ下がっているチューブが伸びていた。

 篤斗はぐっすりと寝入っているようだった。私たちがきた物音にさえ、ピクリとも反応しない。よほど疲れているのだろう。

「遥希。パパは疲れてるみたいだから、そっと寝かしてあげようね」

 小声で伝えると、わかった、とは言いながらもパパの様子が気になるようで、ベッドの脇から必死に背伸びをしては顏を覗き込んでいる。

 私はベッド脇のテーブルにUSBメモリを置き、あらためて夫の寝顔を眺めた。

 余計な負担を掛けさせたのかもしれない。この点滴も、篤斗にしてみれば栄養ドリンクを飲む感覚と同じらしいが、いざ病室で横になっている姿をみれば、何らからの病魔が夫の身体を蝕んでいるような錯覚を起こしてしまう。

 普段から心労や弱みをみせるタイプでない分、こんな夫の姿をみるのが痛々しくも感じられる。私は罪悪感に胸が痛んだ。

 要件を済ませたらすぐにでも帰るつもりだったが、せめて点滴明けの喉を潤せるよう、清涼飲料水でも買ってこようと思い直した。些細な罪滅ぼしだ。

「ねぇ遥希。ママとジュース買いにいこうか」

 私が手を引くと、遥希が首を振った。

「やだ。パパといっしょにいる」そう言った遥希が手を振りほどく。

 ここ最近、パパと遊ぶ時間がないせいか、少しでも傍にいたいのかもしれない。思った私は、案内してくれた若い看護師に「すいません。少しの間、見てもらってても構いませんか」と願いでた。すぐに戻ってきますから、と手を合わせる。

 いいですよ、と快く頷いた看護師に甘え、一礼した私は、ひとり自販機へと向かった。

 

 土曜日の診療は午前中だけにもかかわらず、診察を待つ人の姿は、総合病院のそれと比較すれば雲泥の差であった。私の勝手なイメージの上では、総合病院が大型ショッピングセンターで、こちらは閑散とした商店街を歩いているような気分である。

 ――あの先生なら、全然商売っ気がないからな。

 これは以前、篤斗が言っていた台詞である。確かにこの様子なら、押し寄せる患者に手を焼くようなこともなさそうだ。畠中先生がよほどいい加減な診察をしない限り、三分診療ってことはないだろう。

私はロビーにある自販機で、篤斗が好きな清涼飲料水を購入した。

 自分と遥希用にも、パックのオレンジジュースを追加する。

 が、再び病室に歩みを向けた私は、そこで予想外の光景に目を奪われた。

 先ほどの看護師が、受付で別の看護師と話し込んでいたのだ。

 私は小走りに駆け寄った。看護師が私に気付くと「ちょっと呼び出しがあって戻ってきちゃったんですけど、お子さんならおとなしく椅子に座ってますから」と告げる。

 しっかりしたお子さんですね。と後からとってつけたような台詞に、私の表情が強張った。頬が急速に上気していく。この看護師が、病室を離れたことの批難から、話を擦りかえようとしたのが明らかだったからだ。

 もちろん私は、はいそうですか、と言い返せるような心境ではない。嫌な予感がする。私は目力を強めて看護師を一瞥し、あとは夢中で駆けだしていた。

 私が病室に駆け込むと、真っ先にそれが目に入った。

 遥希の小さな手が、点滴の針を握っていたのだ。

 篤斗の腕にささっていたはずの、針を。

 その先端が、今まさに篤斗の顔に突きたてられようとしていた。

 それも眼球の真上に――。

「ヒロヤ!」

 私は咄嗟に、その名前を叫んでいた。

 ここが病院だということも忘れ、声を張り上げる。

 だが宇津木は、手にした針を投げ捨てると、瞬時にして態度を豹変させた。何事もなかったように、すまし顔で椅子に腰を下ろしたのだ。

「今、何しようとしたのよっ!」

 小さな肩を押さえつけると、力任せに身体を揺さぶった。後を追ってきたのか、先ほどの看護師が私の背後に立ち止まる。

 反射的に睨みつけた。そして怒鳴り上げた。

「どうして息子から目を離したんですかっ!」

 矛先を向けられた看護師がたじろぐ。

 次の瞬間、悪い夢から抜け出てきたように、篤斗が飛び起きた。

「おい、何かあったのか」

 私と看護師を交互に見やった後で、点滴針が抜き取られた腕を、怪訝そうに眺めた。

「これ、なんだ。もう終わったのか?」

 間の抜けた温度差に、苛立ちが膨れ上がった。

 が、一瞬の隙を見計らったように、遥希が病室の外へ逃げて行った。無能な看護師は、それさえも見過ごしたのだ。

「おい、遥希はどうしたんだよ」

 その声に、私の苛立ちが臨界点を突破した。

「なに寝ぼけたこと言ってんのよ! あれは遥希じゃない。宇津木なのっ」

 そう吐き捨て踵を返した私は、進路をふさぐ看護師を突き飛ばし、一目散に宇津木の後を追いかけた――。


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