討伐前夜

「お待たせしましたルグレ騎士団長。冒険者25名、魔法調査団の方々8名お連れしました」


 北門に着くとそこにはグラネに乗った騎士団が待っていた。チャイさんは手短にルグレ騎士団長に挨拶をした。


「ご苦労、揃ったのならすぐに出発しても良いかな?早くしないとお着きの者がダージ王子を抑え切れなくなるかも知れん」


「いつも大変ですね……、我々は今すぐ出発しても構いません」


「それは助かる。ではさっさと出発しようでは無いか」


 ルグレ騎士団長が目配せをすると守衛の騎士が大きな木製のレバーを操作し北門の大きな扉が開いた。

 

 街の北門を出てから数時間、日もすっかりと落ち辺りは完全に夜になっていた。まさか数時間、休憩も無しで歩き続けるとは思わなかった。しかも道中、ゼニのアサヒがギャーギャー騒ぐからめちゃくちゃ疲れた……。遠足じゃ無いんだからさ。何だかんだ言って仲良いなこの2人。


「よし、じゃあ我々も野営の準備をしましょう。めんどくさい人はその辺で勝手に寝転がっててもいいですからね。その代わり晩飯は抜きですが」


 相変わらずなチャイさん。屈強な冒険者達がしぶしぶ野営の準備と晩ご飯の準備にとりかかる。


「オレらは野営の方の手伝いしようぜ」


 正直どっちが楽かは分からないのでゼニの提案に乗る。結局アサヒも一緒に野営の準備を始めた。

 野営の準備と言っても何をしていいか分からなかったが、ギルドが用意した簡素なテントを必要分設営した。テントなんて組み立てた事が無い上に異世界のテントだ。ぜんぜん分からなかったがゼニとアサヒが教えてくれたので1人でも組み立てられる様になった。何事も経験だね。

 そうこうしているうちに何やら美味そうな匂いが漂って来た。


「お、美味そうな匂いだねぇ~、野営なのに肉料理とか、最高だなぁ」


 ゼニに言われて匂いの元を見ると、大鍋で作られた料理が見えた。確かにこれは美味そうな匂いだ。


「さあさ、晩ご飯の準備も整ったし、テントも設営し終わった様だから食べましょう。食べながら明日の動きについてお伝えします」


 冒険者組がわらわらと鍋に集まる。全部で7つの大鍋で作られた料理をそれぞれのお椀によそっていく。オレも猫の獣人の冒険者に料理をよそってもらう。


「お兄さん、熱いから気を付けて食べるんだよー」


 ボク猫舌じゃないので大丈夫です。


「お姉さん!オレ大盛りにしてくれよぉ!」


 ゼニ、恥ずかしいって。


 そしてしばらくは各々が談笑しながら晩ご飯を食べる。中にはパーティでこの依頼に参加したであろうグループもある。まぁオレとゼニもそんな様なもんだし。なぜかアサヒも一緒だけど。

 少し離れた向こうを見ると、騎士団のグループ、魔法調査団のグループがそれぞれ晩ご飯を食べていた。さすがにあちらの方がテントも晩ご飯も豪華そうだ。


「ではそろそろ明日の説明を始めますね」


 チャイさんが話を始めた。


「基本的には我々も騎士団も一緒に行動します。魔法調査団はなんか良く分かりませんが、勝手に動くそうです。気にする必要は無いでしょう。勝手にやればいいです」


 相変わらずトゲのある話し方だなあ。


「我々と騎士団がまずしなければならない事、それは誤ちの森を異常な森にしている理由、エンシェントエルフが仕掛けたジンツーグを破壊する事です。魔法調査団の調べによると、誤ちの森のいたる所に方向感覚を狂わせたり、気が付かないうちに向いている方向を変えたり、森の中の別な場所にテレポートさせたりするジンツーグが配置されているそうです。まずはそれを破壊し、この森をただの鬱蒼と木が茂るだけの陰湿な森にする、それが最初の任務です」


「お姉ちゃんよぉ、ただでさえ迷って出られなくなる森ん中でどうやってそんなもん見つけるって言うんだよ?そんなもん犬の獣人にだって無理だぜ?」


 先日揉めた牛の獣人がもっともな疑問を投げかける。


「策がない訳無いでしょう?虱潰しに探して見つかるんならとっくにこの森はただの森になってるわよ。魔法調査団が作ったこのジンツーグ、これを使えばエンシェントエルフが仕掛けたジンツーグを探し出す事が出来るそうよ」


 チャイさんがポケットから小さなジンツーグを取り出す。それは手のひらサイズの立方体の枠、その中に立方体よりひと回りほど小さい丸い球が入っている。


「この中の球、エンシェントエルフのジンツーグが近くにあると中で動くらしいです。で、近くなればなるほど球の動きが激しくなって行くそうです。後はお分かりですよね?」


 つまりあの球の動きが激しくなる方へと進んで行けば、エンシェントエルフのジンツーグにたどり着けるって事だな?


「分かんねぇよ、球が動いたらどうすんだ?」


「…………、分かりませんか?」


 おいおい牛のおっさん、これは分かるだろ。

 心優しい周りの冒険者が牛のおっさんに教えてくれてる様だ。まぁこれで大丈夫だろ。


「このジンツーグはギルド用に5つ用意されています。この25人を5グループに分ける事になるのですが、そもそもパーティでこの依頼に参加している方々もいますね?そこはパーティ単位で動いた方が良いでしょう。ちょっとパーティで参加の方々はまとまってみてもらえますか?」


 チャイさんに促され、パーティ単位で参加した冒険者達が一塊になる。すると7、5、5人の3パーティになった。残るは8人。


「ああっと……オレたち5人だと前衛3人と後衛2人になって都合良さそうって話してたとこなんだけど……、さすがに君達3人で、って訳には……行かないよなぁ?」


 君達3人、つまりオレとゼニ、そしてアサヒだ。


「どうかしら?この2人が足を引っ張らなきゃ大丈夫だと思うけど?」


「あぁん?足を引っ張るのはどちら様だよぉ?まぁ多少足引っ張られたってなんとでもなるけどなぁ?」


「あらぁ?いいのぉ?誰か助太刀してくれって頼むなら今なんじゃないのー?」


「いらねぇし!大丈夫だぁ!この3人で大丈夫ッスよぉ!」


「…………じゃ決まりね。変に揉めるよりは楽でいいわ」


 あ、決まっちまったじゃないか。どうすんだよ、3人だぞ?


「大丈夫なのアホ面!3人パーティになったわよ!私は助けてあげないからトウゴに助けを求めてよね!」


「うるせぇまな板貧乳!お前こそやばくなってもオレに泣きつくなよ!トウゴのとこ行け!」


 あれ?どっちもオレが助ける事になるのでは?


「あぁー楽しみねぇー!明日の楽しみに備えて早く寝なきゃ!」


「それについては激しく同意だな!オレが1番に熟睡してやるぜぇ!」


「私が先に寝るわよ!」


「オレが先に寝る!」


「お前……大変だな……」


 いつの間にか横で苦笑いしていたチャイさんがオレの肩を優しく叩いた。


 翌朝、宣言通りアサヒとゼニが真っ先に寝てしまい、代わりにオレが2人の分も夜の見張りをする予定だったけど、見かねて周りの人が少しづつ代わりに見張りを伸ばしてくれて事なきを得た。下手したら寝れなかったとこだぞオレ。


「いやぁ~!いい朝だな!トウゴ!体調バッチリだぜぇ!」


「そりゃ良かった事で……」


「私もスッキリよ!今日の活躍には大いに期待してほしいものね!」


 こいつら……。とにかくオレ達は周りの冒険者に混じってテントを片付ける。野営の焚き火跡なんかも綺麗にし、足早に身支度を整える。


「みなさん準備はいいですか?先にこのジンツーグを各パーティにお渡ししておきます。その後私はあちらの騎士団と一応魔法調査団も加えて軽く打ち合わせして来ます。それが終わり次第、一斉に誤ちの森の中へ散っていただきます。出遅れて他に迷惑をかける様なパーティはいないと思いますが、そんな奴らはどうせ早々に死ぬので置いて行きます」


 相変わらず辛辣な……。

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