討伐依頼出発

討伐依頼の集合時間は12時、オレとゼニは近くのお店で軽く昼ごはんを済ませてからギルドに向かった。さすがに1週間も居ればギルドの場所ぐらいは覚えられる。

 ギルドの近くまで来ると何やら騒がしいのが分かる。単純に人が多いんだ。いつもならこの時間は冒険者は朝イチに依頼を受け出払っている時間だ。それがこの人の多さという事は、そこそこな人数の冒険者が討伐依頼に参加した様だ。


「どうやらオレらは割と遅く来た方みてぇだなぁ」


 ゼニの言う通り、オレたちの後ろにはギルドへ向かう人はいない。まぁオレたちなんて下っ端の下っ端だからどうでもいいんだけどね。

 前の人が開けたままにしてあったギルドの扉をくぐる。扉をどうしようかと思って振り返ったけど、どうやら本当に最後尾だったみたいだ。そのまま扉を閉める。

 ギルドの中にはたくさんの冒険者が。ってなんかめっちゃ睨んでくる人いるけど?あ、アサヒか。あれはオレじゃなくてゼニを睨んでるんだな。視線に気がついたゼニも威嚇する様な顔で睨み返す。やめろよもう。

 ギルドの中にいる冒険者はざっと20~25人といったところ。これに王国騎士団も合流するとなるとそこそこな人数になるな。


「みなさんお集まりですか?順に受け付けにて参加者確認を済ませてください」


 カウンターの横で男性が冒険者を促す。確かあれはギルドマスターのホウジさんだったかな?冒険者たちはちゃんと列を作って受け付けに並んでいる。なんかこう、荒くれ者の冒険者はちゃんと並んだりとかしないんだと勝手に思ってたな。オレたちも前の人に習って列へと並ぶ。後ろから見ていると受け付けのお姉さんが冒険者の名前を名簿で確認してるっぽい。ずいぶん簡素な確認だなあ。まぁ成りすまししても得する奴なんていないからそんなもんでいいのか。


「次の方どうぞー」


「えっと、トウゴ・ニシカタとゼニ・サッコーカです」


「トウゴさんに……ゼニさんですね。確かに依頼を受注されています。ではギルドマスターから説明があるのでその辺で少しお待ちください」


「結構いるな。チラッと見えたギルドカードだとテラ級の冒険者もチラホラいるなぁ。こりゃあーなかなか強いのが集まってんなぁ」


 ゼニに言われて周りを見回す。ギルド内と言うこともあってか割とギルドカードを首から下げるなどして見える位置にある冒険者が多い。そのほとんどがギガ級、そして若干のテラ級のギルドカードも見える。おや?あそこにいるのは先日の牛の獣人達では?

 ざっと見渡したところ、メガ級のギルドカードを持っているのはオレとゼニだけなのでは?


「あらぁ?良く逃げ出さないで来たじゃない?そこは褒めてあげるわよぉ」


 あ、アサヒじゃないか。アサヒもギガ級のギルドカードをぶら下げているな。


「あぁ?来るに決まってんだろぉよぉ。むしろ逃げ出す理由が見つけらんねぇよなぁ?」


「へへぇ?ずいぶんと強気じゃなぁい?無理しない方がいいわよぉ?」


「お前がなぁ?」


 いやちょっと2人ともなんでそんなにバチバチなの?めんどくさいからほっとこう。


「時間です、みなさんお集まりの様ですね」


 ギルドマスター、ホウジさんの声でギルド内が静まり返る。


「事前に受注された冒険者、計25名、全員お越しですね。さらに今回の討伐に当たり王国騎士団、さらに王国魔法調査団の方々も同行されます。騎士団とは後ほど合流しますが、魔法調査団の方々はここにいらしています。ご挨拶お願いしますね」


 そう言ってホウジさんは横に立つ8名の男女を手招きした。あれ?あそこにいるのミズィさんじゃ無いか?


「あー、えー、儂が魔法調査団を任されておるバンチ・ヤードじゃ。今回の討伐にはエンシェントエルフの持つ古代魔法の調査を目的として同行させてもらう。調査団とは言っても心配ご無用、君たちよりは腕が立つので討伐の邪魔はせんよ。儂ら構わず好きなように討伐しとってくれ。くれぐれも儂らの邪魔はせんようにな。戦いの最中じゃ、不運な事故があってもおかしく無いからのう」


 バンチと名乗ったじいさん、とんでもなく感じ悪いな。調査団の面々は気にも止めていない様だがミズィさんの嫌そうな顔だけは酷いな。てかミズィさんって調査団なのか?飯食った時は依頼人がどうとか言ってたけど。もしかして調査団のメンバーも全てが王国の人間じゃないのかも知れないな。


「さて、全員揃った事ですし出発いたしましょう。ここからはギルド代表としてこのチャイがご案内します」


 次に手招きされたのは小柄な女性。褐色の艶やかな肌をしており、いかにも健康そうな若い女性だ。だが首から下げているギルドカードはテラ級の物、見かけによらず実力はあるのだろう。両腰に備えているショートソードからして、双剣の剣士なんだろうか?


「どうも、チャイです。ギルド代表として皆さんのお世話をさせていただきます。冒険者などと言う荒くれ者をまとめられるなどとは思っていませんので、文句がある場合はどうぞかかって来てください。ご納得行くまでぶちのめして差し上げます」


 チャイさんはニコッと人懐っこい笑顔でとんでもなく物騒な事を口にした。こりゃあ相当強い人なんだな。逆らわないどこ。


「チャイってあの……血しぶき双剣のチャイか……?」


 隣の冒険者がヒソヒソ話をしてるのが聞こえた。何その物騒な通り名は。武器狩りなんてかわいく聞こえるわ。


「じゃあ出発しましょう。ではギルドマスター、行って参ります」


「はい、十分に気を付けてくださいね。無理はなさらない様」


 ホウジさんは緊張感無くヒラヒラと手を振って送り出してくれた。


 ギルドの外へ出てすぐ、チャイさんが声を掛ける。


「では皆さん、北門で王国騎士団と合流する事になっています。なお騎士団はグラネでの移動となりますが、徒歩の我々に合わせてくれる手筈になっています。そして半日歩き日が落ちる頃には誤ちの森手前の丘へ到着予定です。到着後そこで一晩野営し、その際に討伐に関しての詳細を説明します。まずは予定通りに到着出来る様、とっとと歩いてください」


 チャイさんって……なんか言葉にトゲがあるなぁ。


「だぁいじょうぶ~?あなた達?ちゃんと着いて来れるかしら?」


 小馬鹿にした感じで声を掛けて来たのはアサヒだ。


「大丈夫に決まってんだろ、なぁトウゴ」


「まぁ歩くだけだしね、大丈夫だよ」


「本当にぃー?トウゴくんってひ弱だから心配だわぁ~」


 何かにつけて突っかかってくるな、こいつ。てかなんで一緒に居るんだよ?


「大丈夫だっての!トウゴはこう見えてやる奴なんだよなぁ!ひ弱だけどよぉ!」


「そうね!ひ弱そうに見えてなかなかやる感じなのかしら!」


 なぜ2人してディスってくるんだ……。めんどくさいから黙っとこう。

 そのまま他の冒険者と共に黙々と歩く。


「なぁんかつまんないわねぇ、何か面白い話でもしてよ」


 えぇ……何この子……。


「そうだな、ただ歩いてたってつまんねぇなぁ。なんか面白い話でもしよーぜ」


「いや面白い話ってなんだよ。むしろそれを教えてくれ」


「確かにいきなり面白い話って難しいわよね。じゃあお代決めましょ。まずは好きな食べ物からね」


 いや合コンかよ。


「よっし!じゃあオレからだな!オレは肉だなぁ!その中でもボア系の魔獣の肉がうめぇよなあ!バード系はイマイチだな!」


「わかるぅ~!肉ならボアよね!バードって部位によってはパサパサしてるし!」


「わかってんなぁアサヒ!でもよ!こいつ毎日ロックバードのむね肉ばっか食ってんだぜ!変わってるよな!?」


「えぇー!変わってるぅー!なにそれぇー!パサパサじゃあーん!」


「そう!パサパサなんだよ!ほらよ!やっぱトウゴって変わってんだよぉ!」


 なんなんだこいつら……。

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