誤ちの森捜索開始
それぞれのパーティに分かれチャイさんからジンツーグをもらう。順番に受け取り最後はオレ達の番だ。
「十分に気をつけるんだよ。森の中は何が起こってもおかしくは無い。特にこの森はね」
渡しながらチャイさんが心配してくれる。
「大丈夫ですよ、やばくなったらすぐに逃げます。命をかけてまでエンシェントエルフと戦おうとは思いませんよ」
「それが1番かも知れないね。とにかく死なないように」
オレは軽く会釈をしジンツーグを受け取る。
「こんなもんで目的の物が見つけられんのか?」
覗き込んだゼニが不思議そうに言う。
「割とこの形のジンツーグってあるわよ?似たようなもの見た事あるもの」
「そういやアサヒってこの辺りの出身じゃないのか?」
オレは気になったので尋ねてみる。
「結構遠くから来たわよ。だからいくつかの国も通って来たからね」
「そうなんだ、じゃあ旅慣れてるんだね」
だから何となく逞しいのか?
「それはそうとよ、さっそく装備の点検しておこうぜ」
「そうね、ここからは気を引き締めて行かないとね」
なんだこの2人、やる時はやるタイプか?
「皆さん準備はいいですか?これから各自森へ入っていただきます。騎士団もいくつかのグループに分かれて捜索する様です。気に食わない事があったとしても、余計ないざこざはやめてください」
「同じ依頼受けてんのにいざこざなんて起こるのか?」
「そりゃあー起こるだろぉよぉ?同じ依頼受けたって言ったって、別に仲間って訳じゃねぇんだ。目的が同じってだけだからな。そもそもが報酬目当てでここに集まってんだ。中にはもっと割のいい報酬出す方に乗り換える奴だっていくらでもいるぜぇ。まぁそういう奴は今後信用されねぇから仕事は減ってくんだろうけどなぁ」
「そそそ、だからむやみやたらに周りの冒険者を信用しない事ね。あと騎士団ってのも何だか胡散臭い感じするわよね。どうもこっちを見下してるって言うかさ。ま、お金払う側の人間なんで間違って無いかもだけどね。それよりなにより、1番怪しいのはあの魔法調査団とか言う奴らよね。何なのあの人達?」
「あー、でも魔法調査団にいるクルクル天パの人は良い人だよ。この前一緒に飯食った」
「え?そうなの?あなた達どんな交友関係してんのよ?」
「まぁたまたまだ、たまたま。とにかくこの3人以外は信用するなって事だトウゴ。ってアサヒ、お前は信用して良いんだよな?」
「あったり前じゃない。他の胡散臭い人達に比べたら、あなた達の方が信用出来そうだもの。あなた達こそやばくなったら私を置いて逃げたりしないでよね」
「そりゃあー大丈夫だ、オレ達がやばくなる事なんてねぇからなぁ」
なぜかゼニが右手でガッツポーズを取る。
「心配しかないわぁ……」
激しく同意です。
「では行きましょう。無事目的のジンツーグを破壊出来ればエンシェントエルフの居る森の中心部へ進めるはずです。そうなればここはただの森、エンシェントエルフの元へと進むのも、街へ引き返すのも自由になります。あくまで依頼達成はエンシェントエルフの討伐なので、途中で逃げ帰った人には何も与えられません。という事で皆さん、そろそろ行ってください」
チャイさんはそう言って他のギルド職員と一緒に森へと消えて行った。時を同じくして騎士団も調査団も森へと入って行った。
「じゃあオレ達も行くとしようぜ。エンシェントエルフを大量に倒してやりゃあ特別報酬も出るかも知れねぇからな、他のボンクラどもに先を越される訳には行かねぇぞ」
そう言って足早に森へと進んだのはあの牛の獣人パーティ。それに続いて次々と他のパーティも森へと入って行く。
「じゃあオレ達も行こうか」
「おおよぉ!いっちょ行こうぜぇ!」
「ちょっと!あんまりはしゃがないのよアホ面!」
「お前ら森の中ではちょっとは静かにしろよー」
騒がしいったらありゃしないな。とは言えオレ達3人のパーティも森へと進んだ。
「ありゃ?もう他のパーティがいないぞ?」
森へと入るとそこは陽の光もまばらな深い森。前の世界ではテレビでしか見た事が無い様な背の高い木々が生い茂っている。幹はそれ程太くは無いが、真っ直ぐ、そして高く伸びた木がそこら中に立っている。とは言え薄暗いだけで見通しは悪く無いはずはのに、ほんの少し前に森へと消えた人達が1人も見当たらない。
「これが誤ちの森って訳ね。ジンツーグの力で見えないか、もしくは他の場所へテレポートしたのかも知れないわね。頼りはやっぱりそのジンツーグだけみたいね」
アサヒの視線はオレの持つ正方形のジンツーグへ向いていた。ジンツーグの中の球はピクリとも動かない。
「後はとりあえず歩いてみろってことか?んで、そのたまっころが動く方へと進んで行きゃあいいんだろ?簡単じゃねぇか」
「そりゃ探し物だけって言うならそうだろうけど、いろいろ出て来るんだろ?魔物だのエルフだの。でもまだ森に入ったばっかりだから……あれ?」
オレは言いながら振り返る。するとそこには先が見えない程の森が広がっていた。オレの顔を見て2人も振り返る。
「さっそく訳が分からなくなっちゃったわね……。エンシェントエルフって趣味悪いのねぇ」
「魔力も何も、何かが起こった事すら気が付かねぇなぁ。こりゃ本当に無事帰れんのかねぇ?」
「帰るも何も、これでもうエンシェントエルフの仕掛けたジンツーグを壊さないと先にも後ろにも進めないって事だろ。こんな所で餓死なんてごめんだよ」
「こんなうら若き乙女がこんな所で悲劇の死を遂げる訳には行かないわよ。お供ももっとイケメンじゃないと死んでも死に切れないわ」
「「そうですねぇ~」」
ゼニとオレが見事にハモる。つっこむのもめんどくさいわ。
「っと、言ってる側から魔物だぜぇ」
言いながらゼニが背中に背負ったロングソードを抜く。その視線の先にはドロドロでプルプルした物体が。
「なにあれ……?」
「何ってあんなもん、スライムに決まってるじゃない。まぁサイズと色は……ちょっとアレだけども」
アサヒも左腰の鞘に収めた刀を抜く。
オレ達の目の前に現れたのは魔物の定番、スライムが3匹。スライムの数え方って単位は匹で合ってるのかな?その大きさは大型トラックのタイヤぐらいの大きさ、あれはスライムの中では大きい方なんだろう。そして色はドス黒い深緑。これも一般的な色じゃ無いんだろうな。
「面倒な相手ね。物理よりも魔法の方が効きがいい魔物だからゼニは相手しづらいわよね?」
「いんやぁ?ただのスライムと変わんねぇなら真ん中の内蔵ぶっ叩けばいいんだろぉ?大丈夫だ」
「あら、ずいぶん自信ありげね?確かトウゴもスクロール使うのよね?もったいないけど物理で殴るよりは遥かに簡単に倒せるから使った方がいいかもよ?見るからに毒持ってそうな色してるから油断しない方がいいと思う」
「おけおけ、じゃあファイアボールのスクロールで行ってみるよ」
「じゃあ決まりね。ちょうど3匹だからそれぞれ1匹ずつ担当しましょ」
そう言うとアサヒは背中に背負っている、右肩から出ている鞘へ刀を収め手を添える。
「なんでしまうんだぁ?お前?」
「あなたに分かるように説明する程時間無いわよ。見たら分かるからとっとと片付けましょう」
オレも不思議だったけど、まぁいいか。オレは両腕のホルダーにセットしたファイアボールのスクロールに意識を集中して手をスライムに向ける。
「じゃあオレは真ん中行くぜぇ?トウゴが左でアサヒが右な」
「なんであなたが決めるのよ。まあいいけど。じゃあ私が1番手もらうからね!」
アサヒが弾かれた様にダッシュした。そして一気に右側にいたスライムの至近距離まで距離を詰め、左手を添えていた刀を一気に抜刀、その瞬間背中の鞘の先端にある装飾が赤い光を放ち、その光が鞘を走り抜かれる刃へと伝播する。その光は刃に到達すると燃え盛る炎となり刃を包む。その燃え盛る刀を右上から左下へと袈裟斬りに切り下ろす。
燃える刃が触れた場所からジュワッ!っと言う音を立てスライムが蒸発しながら切り裂かれて行く。刃が突き抜けた後には真っ二つになり、切り口が蒸発しズブズブと形が崩れて行くスライムが残った。
そして赤い光を失った鞘の先端の装飾にはめ込まれていた赤い石が砕けて落ちた。
「マガタマ使った魔法付与のジンツーグかぁ!やるなぁおい!」
叫びながらゼニも駆け出す。
「次はオレだぁ!」
ゼニは飛び上がりスライムの上からロングソードを振り下ろす。
「この辺かぁ!?」
おおよそ液体に近い物体を斬ったとは思えない様な轟音を響かせ、ゼニが振り下ろしたロングソードはスライムを叩き潰し地面を抉る。
「当たりだなぁ!」
スライムの形はグズグズと崩れて行った。アサヒの話から想像するに、おそらくスライムのブヨブヨした部分の中にある脳とか心臓とかに当たる物を狙って壊せば倒せるんだろうけど、あいつ何か狙ったんだろうか……。ただ思いっきり剣で殴った様にしか見えなかったな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます