初めまして、異世界
空だ。
気が付くとオレは仰向けに寝て空を見ていた。寝転がったまま左右を見てみる。どうやら草原に寝転がっている様だ。むくりと起き上がってみる。草原に座り暫しボーっとする。実に静かだなぁ。ふと自分のズボンと靴を見てみる。何だこれ?見たことないスボンだな?上半身も見てみると、上も変な服を着ている。麻っぽい素材なのかな?オレ、本当に転生したんだなぁ。てことは本当に死んだんだな、オレ。お父さんやお母さん、兄ちゃんは悲しんでるだろうなぁ。
「よっこらしょ」
独りごちりながら立ち上がる。いや本当に静かだ。むしろ前の世界が絶えずうるさすぎたのか?
とは言えこれからどうしたもんか?なんかスキルくれたって言ってたよな?あ、そうそう、漫画や小説で転生したらだいたいウィンドウみたいなの出てきてスキルとかステータスとか見れるんだよな?
しばらくうーん、って念じてみるけど何も出てこない。ちょっとちょっと、なんだかさっそく怪しいんですけど?スキルくれる時もなんだかバタバタしてたしな。大丈夫かよ?
「えーと、確かもらったスキルは修復の方だったよな?」
選択肢ふたつしか無かったし。修復っていうぐらいだから壊れた物を直せるのかな?ちょっと試してみたいから何かないかな?
キョロキョロすると大きめなのと小さめなのの石をひとつずつ見つけた。よしこれにしよう。
小さめな石を拾って少し離れる。んで大きめな石目掛けて思いっきり小さめな石を投げつける。見事命中した石は何個かの破片に砕けて飛び散った。
「よぉーし、直れ!」
何も起こらない。
「あれ?何も起こらないぞ?」
やっぱりあいつら胡散臭いなあー。砕けた石の破片をひとつ拾ってみる。修復しないのかよお前?
すると何だか石から変な感じがする。なんかエネルギー的な物が出てきてる感じ的な?それに意識を集中すると、今度はオレ自身の中のエネルギー的な物が身体中を巡ってる感じがした。そしてそれは石を持ってる右手の辺りで滞留している感じがする。
もしかしたらこれで修復出来るのかな?
意識を自分の身体の中のエネルギーに集中する。その流れを意識的に右手へ向かわせる。一瞬右手に集まったエネルギーと石からわずかに出ているエネルギーが混ざった様な感じがした。すると急に石がカタカタ震え、その石に集まるように飛び散った破片が吸い寄せられて来て一気に固まり元のひとつの石の姿に戻った。
急でびっくりしちゃって石を落としちゃったよ。もう1回元に戻した石を拾って観察する。投げつける前と全く同じ状態に戻ってるじゃないか。すっげぇー。
「ふんふんふーん」
ぴしぴし。その辺で拾った小枝で草むらをぴしぴししながら歩く。この先どうしたもんかと思ったけど、結局何も思い浮かばなかったからとりあえず移動してみる。良く考えたらこうやって天気のいい日に外を散歩する事すら無かったからな。ゆっくりと散歩が出来るだけでも幸せなのかも知れない。
「あ、折れた」
ぴしぴしやってた小枝が折れた。
「そんな時はぁ~」
『修復』
地面に落ちた小枝の先がふわりと浮き上がり元通りくっついた。
「こりゃあー便利なスキルだ」
気に入ったな。
ん?なんか遠くから物音や叫び声が聞こえるぞ?
その物音はだんだんと大きくなる。つまり近ずいて来ているんだ。それは次第に大きくなり、それに連れてその音が大きな生き物の走る足音だと分かる。そしてどうやら叫び声の方はそれを追っている人の声みたいだ。
音のする方を見ていると木々の合間から突進してくる生き物が現れた。
なんだあれ?めちゃくちゃデカい虫みたいだ。しかし虫と呼ぶにはあまりにもデカい。中型犬ぐらいの大きさの胴体に、細くて長い足が6本ついている。これは気持ち悪い。そのデカい虫は木々を抜け少し開けた場所に出るとくるりと反転して振り返った。どうやら追ってきているやつを迎え撃つつもりだな。
「きぃえええええ!!!逃がすかブァカが!このブァカが!ブァカ!」
その叫び声の主は金髪マッシュの派手派手で恥ずかしい格好をしたお兄ちゃん。その両脇にはガタイのいい人間が2人。いや?人間か……?そうその2人は明らかに普通の人間じゃない。顔が、毛がふさふさだ。猫だ。いやあれは虎か?とにかく顔がネコ科の動物の物。つまりあれだ、獣人って種族だろこれ。初めて見たぁ。
「さぁてさてぇ~、やっと追い詰めたでしょーよ!大人しく狩られればいいでしょーよ!なぁ!」
金髪マッシュが虫を煽る。デカい虫は2本の足を高く揚げ威嚇する。ただでさえデカいのにさらに大きく感じる。
「んなぁーはっはっはぁ!そんなんでビビるかぁ!すぐに丸焦げになるでしょ!お前!」
そう言うと金髪マッシュは隣にいたネコ科の人の背負ってるリュックをゴソゴソして変な巻物を取り出した。
「こいつで丸焦げでしょーよ!」
取り出した巻物の紐を解いて開く。そこには赤い炎の様な柄が描かれていた。よく見るとその柄は少しゆらゆら動いている様にも見えた。
「くらえぇぇえー!!!えぇーい!」
金髪マッシュの何だか分からない雄叫びが響くと同時に巻物の柄が膨れ上がり破裂するように裂けた。裂けた場所から紅蓮の炎が吹き上がり、その形を球体に変えデカい虫目掛けて滑空した。
放たれた炎の玉は虫の目のついている部分だからおそらくは頭であろう部位にぶつかり、その周りに炎を撒き散らしながら爆ぜた。
虫は全ての足をバタつかせながらひっくり返った。その隙を見逃さず2人の獣人が飛びかかり、両手の鋭い爪を虫の腹目掛けて突き立てる。
2人の爪は見事に虫の腹にくい込んだが、それは同時に虫の足の間合いに入り込んだのと同じ。虫は6本の足全てを片方の獣人に突き刺した。
突き刺された獣人は苦痛に顔を歪めながらも虫の足に手をかけ、力任せに引き抜き後ろに飛び退いた。
「なぁーにをしてるかぁ!なっさけない!こぉーんな手負いの虫っけらにやられるとはぁ!しょぉーもない!しょーもないでしょ!このバカチンがぁ!」
「も、申し訳ありません.......バッカーモン様」
え?バッカーモンって言うのあいつ?すげぇバカそうな名前じゃん。
「あぁーんずるなぁ!心配無用!すぐなおーす!リュックを貸せぃ!」
金髪マッシュバカは獣人のリュックを奪い取りごそごそ。何やらまた巻物を取り出した。
「ヒール!ヒールだわぁ!」
巻物の紐を解き、今度は怪我をした獣人に向かって巻物を開く。するとまた巻物に描かれた緑色の柄が膨れ上がり、破裂し緑の光が放たれ静かに獣人に触れ体に吸い込まれて行った。
ヒールって叫ぶぐらいだから、傷が治るんだよな?
結果はもちろん予想通り。獣人の怪我が見る見るうちに塞がっていく。そして金髪マッシュバカが持っていた巻物はビリビリに破れ地面に散っていた。
「すみません、バッカーモン様。こんな私にヒールの巻物など使っていただいてしまって.......」
「いぃーーーのだぁ!これぐらい!ナリス家の財力を持ってすればこんなもの!なんでなぁい!」
「バッカーモン様!」
もう1人の獣人が叫ぶ。見るとその獣人はひっくり返った虫を必死に地面に押さえつけている。
「良くやったぁ!良くやったぁ!今!トドメを!おぉーぅ!」
金髪マッシュバカ様がまたリュックをごそごそ。巻物を取り出しリュックを地面に投げ捨てる。そして先ほど同じような事を叫びながらもう一度炎の玉を虫に放つ。2発目の炎の玉を喰らった虫は小さく縮こまり動かなくなった。
「アハァアーンンン.......かいっ.......かん.......」
あいつだいぶやばそうな顔してるぞ?
なんか2人の獣人がパチパチ拍手してるぞ。あ、金髪マッシュバカ様がこっち見た。
「あぁーん?なんだぁお前?」
「あ、オレの事?」
「そうに決まってるだろう!?ブァカか!?ブァカか!?ブァカなのか!?いやブァカだな!ブァカだな!ブァカ!お前ブァカ!ブァーカが!!!」
「なんだよお前、ムカつくな」
「なぁあああにぃぃ!?やっちまったなぁ!おい!オレ様怒るぞぉ!とは言え怒らない!今はご機嫌さまさまだからなぁ!特別だぞ!ありがたく思え!」
なんだなんだ?
「ふん!お前ソジンか?そうだな!?ソジンの貧乏人か!オレ様の戦いぶりに呆気に取られていたのだろう!うんうん!分かる!しょうがないよそれ!」
なんかすげぇ仰け反り帰ってる。どうしたんだ?あいつ?
「そうさ!オレ様はぁ!その辺の底辺ソジンとは違う!我がぁナリス家のぉ!財力はぁあー!永遠なりぃぃぃいいい!!!」
そして急に静かになりくるっと振り返る。
「ではさらばだ貧乏人。バッカーモン・エル・フォン・ナリス。この名を忘れるな。てか忘れられないかあ!んなぁーっはっはっはぁ!」
そのままバカと獣人2人は立ち去った。なんだったんだ?あいつらは。
でだ、ここでちょっと気になった事を試したい。まずはこれ、この地面に散らばっている紙くずですよ。オレはその一つを手に取り意識を集中する。
「やっぱりだ。さっきの石と同じ感じがする」
そう、紙くずから何かのエネルギーが感じられる。てことはだ、そのエネルギーにオレの体内のエネルギーをつなぐような感じにすると.......。
『修復』
やっぱり思った通りだ。手に持った紙くずに吸い寄せられる様に散らばった紙くずが集まり元の巻物の姿に戻った。紐を解いて開いてみる。それも思った通り、赤い柄がゆらゆらしてる。でもそれだけだ。何度か振ったり引っ張ったりしてみたけど炎の玉は出てこない。何が違うんだろう?まぁいいや。確かあのバカは後2つ巻物使ってたよな?
また地面に散らばる紙くずのひとつを手に取る。
『修復』
またしても紙くずが吸い寄せられ元の巻物に戻る。ちゃんと3つとも元の巻物にする事が出来た。
「これ、さっきみたいに使えるんだろうか?使えそうなんだけどなぁ」
まぁいいや、それはまた後で考えよう。それよりもう1つ検証してみたい事がある。オレは恐る恐る黒焦げになったデカい虫に近づく。
出来るだけ遠くから足でちょんちょんってしてみる。反応無し。よし、死んでるな。
ちょっと気持ち悪いけど虫に触れる。
『修復』
あれ?全く変化ないぞ?
その後も何度か試してみたけど、石や巻物の様に元には戻せなかった。
「このスキルって死んだ生き物を生き返らせたりは出来ないんだな。もしかしたら生き物自体には効果が無いのかも。これは検証が必要だな」
色々試してみないとな。
「お、あれちょうどいいじゃん、いただいとこ」
地面に落ちていたリュックを発見。拾って背負ってみたけどちょっと大きいかな?そりゃさっきの獣人が背負ってたやつだから大きいわな。でも紐の長さとか調整出来るみたい。オレのサイズに合わせてちょうどいいぐらいに調整した。背負うとリュック自体はオレの体の大きさに対しては大きいけど、背負う事自体には問題無い感じだな。巻物入れるにもちょうどいいしこれはいただいておこう。ラッキー。
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