17. 誕生日プレゼント2
リビングで待っていたが、いくら待ってもナツキが出てこない。
時間潰しに皿洗いしていると、「兄ちゃんこの服どう?」とちょっともじもじしながらナツキが部屋からようやく出てきた。
白のダボッとしたトレーナーというか短いワンピース。それに、グレーのタイツといった格好。
「なんか元気な中学生らしくていいんじゃないか」
「……書類送検!」と叫んで部屋に戻り、バンッとドアを思い切り閉めていった。
なんだよ……。
少し経って、ナツキが着替えを終えて出てきた。
「よし、終わったのか。もう行こうぜ」
「ねぇねぇ、これは?」
白のふわっとしたシャツに、ウェストの強調されているワイドなドレープのあるスカートのナツキ。
「んー、ちょっと中学生が背伸びしました、みたいな感じかな」
「……死刑!」罪状が重いな、おい。
また部屋へとバンッ!と戻っていくナツキ。
「なー服なんかどうでもいいじゃんよー」
「そうも、行かないんだよー。誰かに会うかもじゃん」とドアの向こうから聞こえてくる。
どうせ言っても聞かないので、俺はコーヒーを淹れ英単語帳を開いて、待つことにした。
「……ねぇ兄ちゃん、もう制服でいいかな?」
何かちょっとげっそりした顔をした制服姿のナツキが部屋から出てきた。
「何だよ、じゃあ俺も制服にするわ」土日でも、部活動生や塾に行く奴は制服だし、別に変ではあるまい。
百貨店のブティックコーナーでプレゼント探しをする。周囲は二、三十代の女性ばかりで、場違いだったかな。でも、ヒカリさんの年代だとこういうとこで買うんだろうな。
「でも、やっぱ高いなぁ。シュシュだけで2万するやつもあるぞ」
「シュシュだけでかー、でも良いものだと髪に跡がついたりしないんだろうし、デザインも大人な女性って感じで可愛いよね。本当はヒカリさんも我慢してるだけで、こういうの欲しいのかな」
「……かもな」
やっぱりバイトしてでも良いもの買ってあげたい気持ちになる。ヒカリさんは俺たちとの生活で本当に幸せなんだろうか。
クリスマスにあげたものもいつもつけてくれてるけど、本当はもっとちゃんとしたものが、二十代後半の女性に相応しいものが本当は欲しいけど、我慢してつけてくれてるだけなのかな。
「でも、もう少し安いところもあるよ!私の行きつけなんかだと数百円でシュシュ買えるんだもん!」
「お、おい。声が大きいよ」
店員がジロッと俺ら二人に目線を向けたので、慌ててナツキの口を押さえる。
「む、むー!」と暴れているナツキをそのまま引っ張ってそのコーナーを出た。
「ああいうのは言っちゃダメなんだよ」中学生の行きつけと一緒にするなよ。
移動した違う階の文房具屋でプレゼントを探しながらナツキに説教する。
「はーい」こっちも向かずテキトーな返事をするナツキ。
「なぁ、やっぱ、こういう仕事で使えそうな奴にしようぜ」ガラス張りの中の文房具を眺めながら俺は言った。
「んー、せっかくだし身につけるものあげたかったけどね」
「それはもう少し俺らが大人になってからだな」
大人になったらああいうブティックコーナーで色々買ってあげたいな。
横にいるナツキに目をやると制服の左後ろにシワができているのに気がついた。
「あ、ここシワになってる。帰ってからアイロンするわ」その箇所を指さしてナツキにわかるように言ってやった。
「人がいるのにうるさいなー。自分でするからいいよ」俺に振り向き、むすっとした顔。
陳列された文房具の値段を物色する。万年筆でもない限り、ボールペンとかだとそこまで値は張らないみたいだと安心した。
「これとかどうだ。消せるタイプだし、実用性も高いだろ」「実用性なんかより可愛さで選ばないと」なんて会話をしていた。
実用性と可愛さとで色々話し合ったが、ちょうど無料で名入れができるボールペンがあるってことでそれに落ち着く。
ヒカリさんなら何でも喜んでくれるんだろうし、今回決めたボールペンだって喜んでくれるだろう。でも本当に?
帰りの電車で、ナツキは、満足そうな顔をしながら学校であったことや部活であったことを俺に話しかけてくる。
「ミホちゃんが最近告られたんだけど、メッセでだったんだよー。どう思う?」なんて。
俺はそんなナツキの話に要所要所で相槌を打ちながら、手すりに身体を預けながらさっき考えていたことをまた思い返した。
プレゼントって、こっちの押しつけも入る部分があるよな。ちゃんと考えて買ってくれたのは嬉しいけど、ちょっとこれは幼すぎるし私の趣味じゃないなぁなんて思われる可能性もある。ヒカリさんは、そんなこと微塵も、これっぽちも思わないのか?
俺は将来したいことの一つにヒカリさんに高いプレゼントを買うことを付け加えた。
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