16. 誕生日プレゼント1

 「兄ちゃーん、ヒカリさんの誕生日プレゼント買ったー?」


 ナツキがそう言いながらスマホを片手に部屋から出てきた。


 土曜日の昼前、リビングテーブルで俺は現代文の勉強をしていた。ヒカリさんは今日は仕事で朝からいなかった。


 「いやまだ」


 そういや、誕生日も近かったな。


 「そかそか!なら今日一緒に買いに行かない?」


 「いいよ。じゃあメシ食ってから行こうか」


 となれば、外出準備。だが、ナツキがシャワーを浴びるというので、俺は皿うどんをつくってやることにした。


 「兄ちゃん、ココア欲しい」


 右に垂らした濡れた髪をタオルでギュッギュと抑えながら、テーブルにつくやいなや要求して来る。


 困った奴だと思ったが、先日の話を思い出した。できるだけ俺が甘やかせるところは甘やかしてやらなければ、変な彼氏でも作ってしまうだろう。寂しさから彼氏をつくることは避けたいからな。元気でいてくれるならそれだけで良しだ。


 「はいはい」


 メシをつくってた途中だったが、ココアをつくって出してやった。


 「えー風呂上がりだしアイスココアが飲みたい気分なんだよ。乙女心がわかってないなぁ、書類送検を考えないとね、これは」まだ肌寒いからつくってやったホットココアに不服申し立てするナツキ。


 「そんなん乙女心とは言わねぇよ。それに何でも犯罪に結びつけようとするな」


 「だって、なんか湿気が多いし、お風呂上がりだし、冷たいものが飲みたかったのー」


 「なら作り直そうか?それは俺が飲むよ」


 「むぅ……そこまでしなくていいよ。飲みます、飲めばいいんでしょ。今回は不起訴処分にしてあげますよ!」


 「どうも……、とりあえずココア飲んだらしっかり歯を磨けよ」


 「うるさいなー、わかってるよ!」とぶつくさ言いながらココアに口をつけたが、アツッと言ってふーふー冷ましている。


 「はい、皿うどんもできた」ナツキと俺の分の昼飯をテーブルに並べる。


 「えー今の気分はさっぱりめのパスタだよー。本当に乙女心をわかってないなぁ」


 「皿うどんはオールシーズンいけるし楽なんだよ」と言うも、ナツキのジト目を見て「はいはい、悪かったな。また今度つくるよ」と言い直した。


 「私は今食べたかったの」と膨れるナツキ、そして何か思いついたように「もうこれは示談金が必要だね」と言ってふししと笑った。


 「はいはい」こいつは社会の授業で訴訟系の分野でも受けてる最中なのか。


 俺らは食べながら話す。


 「で、プレゼントは何にしよう」と俺。


 「そうだねー仕事で使えるのとか?」文句言ったくせにもぐもぐ頬張りながら話すナツキ。


 「ボールペンとかかな」


 「うーん、なんか味気ないな。ブレスレットとかのほうがいいんじゃない?」


 「それって恋人とかがあげるものじゃないの」


 ブレスレットか、ナツキも色気づいてきやがった。


 「えー兄ちゃんそんなこと気にするの?女性は、綺麗なものなら誰から貰っても嬉しいんだよ」


 「いやでも、そんなブランド品とか俺らじゃ買えないだろ」


 「そうだねー。というか、ヒカリさんって彼氏とかいないのかな?可愛くて綺麗だし、言い寄ってくる人とか会社に結構いそうじゃない?」


 「……」


 たしかに。想像すると複雑な気分になる。もしこれが恋人ですとヒカリさんが男を連れてくるとなったことを考えたら、全力で応援してあげたい気持ちもあるし、寂しい気持ちにもなる。


 「あー嫉妬してやんの」俺を指さしながらケラケラ笑うナツキ。


 「してねぇよ。とりあえず、百貨店に行ってから決めるか」


 「はーい」


 「あ、あとさ、キタが持ってきたタッパーを洗って玄関に置いてるから、今度持っていてくれない?」


 「えー自分で持って行けば良いのに……、同じクラスでしょ?」


 「学校に持って行ったらかさ張るだろ?置き勉禁止なんだよ、高校生は」


 「ふぅーん……」ナツキは訝しげな目で見てくる。


 「なんだよ」


 「カナちゃんと喧嘩したの?」


 変に目ざとい奴だ。


 「してねぇよ、ほら食い終わったんなら行くぞ」と俺はナツキの皿を取り上げシンクに入れる。


 「あーちょっと待って!準備する!」と急いで部屋に戻るナツキ。

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