11. いつもは上手くやれていた
イヤホンで英語教材を流しながら、メシの準備をする。
途中ヒカリさんにタオルケットを掛けてやってから、台所に向かい茄子とウィンナーを炒めていると、すぐ横の玄関から、
「ただいまー」と、ナツキが帰って来た。
俺はそれをしーっと自分の人差し指を唇にあてて制し、ナツキも手を口にはっと当ててコクコク頷いて、そっと玄関からリビングに入って来る。
「ほうほう、ヒカリさんがお休みタイムですね」と飼い猫の昼寝姿を見ているかのような笑顔を浮かべ、イヤホンの片耳を外した俺に小声で話しかけてくる。
俺は頷いて、ヒカリさんとナツキの二人部屋を顎で指して「メシできたら呼ぶから」とささやいた。
ナツキは、俺の作っている料理の匂いをクンクン嗅いだ後、大きく敬礼して部屋にトタトタ去っていった。せわしない奴だ。
3人でリビングテーブルに座り、さてパスタを食べようという段になって、ピンポーンとインターホンが鳴る。嫌な予感がしながら、ドア窓を覗けば、思った通りキタがいた。
「いいって言ったろ?」ドアを開けるなり俺は言った。
「でも、作りすぎちゃったから……」と手にタッパーを抱えて困ったように笑ってから黙る。
「兄ちゃん、だれー?まだー?お腹すいたよー」とナツキは不審そうな顔をして近づいてきたが、
玄関にいるキタを見つけるやいなや「あーカナちゃんだ!」とコロっと笑顔になった。
「ナツキちゃん、お久しぶりー。最近は朝もなかなか会えないね」
「エヌケ〜イェイ!」とキタとナツキは、両手でハイタッチを決めている。何の挨拶だよ。
「あらあらカナちゃん、いらっしゃい」
「こんばんは。お久しぶりです、ヒカリさん。あの、肉じゃが多く作ったので持ってきました」
「あらーありがと」ヒカリさんは両手を合わせて嬉しそうにお礼を言う。
——で、4人で食卓を囲むに至る。カナちゃんご飯は食べたの?と始まり、まだ食べていないことと、キタの両親が今日は帰りが遅いことが判明し、流れでこうなってしまった。
いつもと同じように食前の祈りを捧げるヒカリさんに合わせてか、キタもナツキも恭しくいただきますと合掌している。
「ユウ君は学校ではどんな感じなの?」と、ヒカリさん。ほらこうなる。
「んー、いつも一人で勉強してるか、寝てるかですね。授業中も。何か一匹オオカミって感じです」
「えー兄ちゃんまだ友達いないの?」
「あー、うるさい。高校時代の友人なんかナンセンスだろ。それに、授業中でも何でも、結局自習が一番成績が伸びるんだよ」
「それ友達いない人の言い訳じゃん」
「そうよ、ユウ君、隣の人は大切にしないと」
とんだ一斉攻撃だ。
「ですよね!私もそう思います。あ、でも、テストの度毎回一位で、ユウは本当に凄いなと思ってます。でも逆に、これで成績悪かったらなんか本当可哀相になりますもん。そのプレッシャーがないのかなって思っちゃう」ふふっと笑うキタ。
「たしかにー、これで成績悪いなら、もうただただイタい奴だよね。いつも勉強してます!学校の授業より自習です!」と、無い眼鏡をクイッと上げるジェスチャーをして、ケラケラ笑うナツキ。
それに釣られて皆笑っている。
「俺は眼鏡かけてねぇよ」この状況にちょっとムカつきながら、軽くツッコむ。
「ナツキちゃん、言い過ぎよ」と言いながらヒカリさんも笑っている。いや、ホントやめてください。
こんな感じで3対1の構図になるというオチは目に見えてた。
「ねーねー。カナちゃん、うちの兄貴のこと貰ってよー。カナちゃんならオッケーだよ!」勝手なこと言うな。
「そうね、カナちゃんなら安心ね」とニコニコしてるヒカリさん。ちょっと胸が痛む。
「えー二人とも、何言ってるんですか」照れながら手の平を振り、満更でもなさそうにしてるキタ。
「じゃあじゃあ、ナツキちゃんは学校で好きな人とかできた?」たしかに気になる。妹とはいえ、最近可愛くなってきたのはわかるしな。
「うーん、ちょっと気になる奴というか、ちょこちょこ連絡する人はできたかな」
「おい、ナツキどういうことだ?」
「うわ、兄ちゃんいきなり何。唐突のブラコンキモいって。それ、世間では禁固刑3年だよ、知ってる?」
心が痛むが仕方がない、父さん代わりにならなくては。
「いいじゃない。ユウも心配なだけだし、それでどういう人なの?」と、キタ。
「別にそこまで知らないよ。なんか一週間前くらいに、突然告白されてさ、知らない人だったし一旦断ったんだけど、それから少し話す機会ができてね。メッセも交換してさ……。何か優しいというか、頑張ってくれてるというか」
へへへと照れくさそうにするナツキ。
「そいつを連れて来なさい。ちゃんとした人かどうか見極める必要がある」
我慢しようとしたが思わず口に出てしまった。
「兄ちゃん、禁固刑10年だわ」
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