5. 何もかもに縛られている

 教室に着くと、前回の模試の上位者が教室の後ろに張り出されていた。ってことは、今日は模試の返却日か。


 掲示ボードの前で、6人ほどのグループが順位表を見ながら騒いでいる。


 そのうちの一人、アキヤマが、「お、ナミキリじゃん。また学年1位じゃないですかー」と、自分の机に鞄を置いた俺に大声でおどけてきた。


 この道化役が、俺の順位表に対するコメントにかこつけてからかおうと準備しているのは明らかで、その言い方は悪意を感じるものだったし、口も嫌な歪み方をしていた。この手の奴は手に余る。


 アキヤマは、クラスの上位グループにくっついている金魚の糞みたいな奴で、こいつに、自分より下と認識されれば終わりだ。そうなれば、こいつが率先し、導火線となってグループ全体からからかわれることになる。


 あんま勉強してなかったからたまたまだと答えようが勉強してないアピールとなり嘘つけとからかわれるし、模試の対策として一気に復習したからなと答えようが本当に勉強が好きだよなーと何、趣味とかねぇの?と、同じくからかうためのネタ探しが続いていく。


 ってことで、先の質問には「あぁ、まぁな」と、できるだけ面白くないような無関心を装った返答をした。そして、あくまでも気にしていないことを周りに示すため、普段通りに自分の机に向かい直し参考書を広げた。


 だが、やはり後ろでヒソヒソとやられているのはわかった。断片的に耳に入った発言を拾って再構成すれば、大体こんな感じの会話だっただろう。ナミキリって、いつも勉強してるよな人生楽しいのかな、それ以外の趣味とかないから仕方ないんじゃね、あいつYoutuberの名前とか全然知らねぇのよ、誰々の名前知らないのは流石にびっくりしたわ。勉強が好きで好きでしょうがないんじゃね?


 そんな訳ねぇだろ馬鹿が。この国はまだ学歴主義が明らかに残ってる。偏差値の高い大学に行けば平均年収も生涯収入も段違いって時点でな。Youtuberの名前と余弦定理、今このときどっちの知識の方が大事かもわからないのか?実際問題として、ある程度良い大学じゃなければ、優良企業から書類だけで爪弾きにあうんだよ。この今の時間がどれだけ貴重かわかってんのか。


 友人同士でそんなヒソヒソやったって人生において何の価値があるんだよ。高校の友人なんてどうせ三、四十歳にもなれば、数年に一度会うか会わない赤の他人になるだけだ。


 五十歳にもなって、禿げ散らかして、あのとき楽しかったよななんて、高校の文化祭や運動会を懐かしむ大人になりたいなら別だけどよ。てめぇらの今やってることなんか、全部無駄な時間になるんだよ。


 とか思うが、今はまだ4月も始まったばかりだ。高2になったばかりなのに自分のクラスの立ち位置を思うと、面倒くささとやるせなさ、ついでに危うさも感じる。

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