1. 賢しらな奴は殴られる
俺の胸ぐらをつかむ金髪の男子。
俺は若干の苦しさを感じながらも制服のシャツが伸びてしまうなとか、ボタン千切れたら面倒だなこのシャツのボタン取れやすいんだよとか考えていたが、それより先に入る高校を間違えたんだなと思った。
「お前、態度がでかいんだよ」
目の前のこいつは、細い眉に、ブリーチをかけた薄い金髪、ツーブロックで剃り込みも入れている。
「態度がでかいと思われるくらいお前と関わりがあったっけ?」
俺はシャツを引っ張り上げられながらも何とかそれだけ声にする。
こいつはたしか機械科のタメの男。それくらいしか認識がない。俺の高校はS特進コース、特進コース、進学コース、機械科、電気科とあるマンモス校だから顔も名前もわからない奴も多い。
「そういうのが態度がでかいっていうんだよ」とさっきより凄んで怒鳴ってくる。
この高校は大学と併設されているのもあってか、昔で言えば体育館裏に呼び出されるみたいな歴史的伝統行事も成立してしまう。例えば、俺が呼び出されたというか、昇降口からそのまま連行されたのは、ここ大学のコンサートホールの客席最後方であるように。
テツやっちまえよと、外野の2人がやいやい騒ぎ立てている。こいつらも眉が細いし同じく機械科だろう。だが、取り巻きは問題じゃない。
「お前、テツっていうんだな。そもそも俺を何で知っているんだ?」
「は?お前が女子に色目を使いまくってるんだろうが」
「覚えがないな。誰がそんなことを言ったんだよ?」
「アケミだよ」
「知らない奴だな。アケミってのは機械科の奴か?」
「……それがどうしたっていうんだよ」
なるほどと思った。俺は機械科女子の変な噂かなんかに巻き込まれて、このアホが焚きつけられたって構図だろう。にしては、証拠が足りない。
「アケミって奴は、どうせほら吹きの頓馬だろ」と吹っかけてみた。
グッと俺の襟元を締め付ける力が強まった。なるほど、こいつの惚れてる女か、もしくは彼女かなんかか。そいつが、俺のことを噂したのに苛立って、ことに及んだのだとわかった。身に覚えがない。
このナミキリって奴、調子乗りすぎだわ、マジでボコれよ。と後方でいきり立っている二人。その一人がスマホを俺らに向け始めた。SNSに上げられたら厄介だな。
「S特の陰キャがイキってんじゃねぇぞ」という言葉とともに俺は思い切り腹を殴られた。
既成事実成立だ。
そのとき示し合わせたかのように、バン!と俺らのすぐ後ろのコンサートホールの扉が明け放たれ、二人の警察官が現れた。
こいつらに連行される間に隙をついて、一一〇番だけでなく、最寄りの交番2件に「助けて下さい!」と吹き込んでおいた甲斐があった。位置情報サービス様々だ。
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