第4話 結婚式での再会


 突然現れたクロガネ様は、後ろを向いて何かを取り出しました。


「これを返しに来た。大事な宝物だろ?」

 コインの形をした真っ赤な宝石、本物の聖女の石を渡されました。


「王宮から逃げるぞ」

「はい」



 廊下を走り、外に出ます。

 クロガネ様は王宮内を知り尽くしているようで、道に迷いがありません。


「くそ! 地下道に近づけない」


 護衛兵と闘いながら、庭園に追い込まれました。

 王宮の外に出れる門が目の前ですが、護衛兵が多くて進めません。


 クロガネ様は、護衛兵と剣で打ち合いますが、奪った剣がここで折れました。


「ウォーターボール」

 私は、剣を振り上げた護衛兵に、水の塊を当てて、剣の軌道を変えました。

 しかし、スキが生まれ、護衛兵に腕を掴まれました。


「放しなさい」

 腕を振り切ろうとしますが、解けません。



「ほかの門は全て閉めた。出口はここだけだ、どうする黒いイケメン君?」

 護衛兵の中から、王太子が現れました。


「本物の聖女の石を渡せば、助けてやろう」


「クロガネ様、渡しましょう」


「切り札だ、、、渡してはダメだ、、」

 クロガネ様は、どこか痛めているようです。今は、他に策がありません。



「聖女の石は、私が持っています」

 自由なほうの腕で、聖女の石を見せます。


「この方を助けると約束しなさい!」

「貴方がこれを手に入れるか、私がこれに破壊の呪文を唱えるか、どちらか選びなさい!」


「いいだろう、そいつは解放しよう。それを持ってこちらに来い」

 私の腕が放されました。


「アップル、必ず助けるから」


「今は、私が貴方を助けます」


 聖女の石を持って、王太子の方へ歩みを進めます。


 王太子が私の腕をつかみました。


「そいつを斬れ!」

 王太子が護衛兵に命令します!


「約束が違います!」

 腕を振りほどこうとしましたが、押さえられました。


 突然、目の前で、爆発音と煙が!

 混乱した護衛兵を馬が蹴散らし、シリウス様の後ろにクロガネ様が飛び乗ります。


 あっという間に、王宮の外に逃げ出しました。


「クロガネ様ぁ!」

 私の声は、届きません。



 ◇



 今日は、望まない結婚式です。


 あれから3日、クロガネ様は来てくれませんでした。

 青空が恨めしいです。


 私は、純白でシンプルなウエディングドレスに着替えさせられた後、魔法をかけられました。

 体が自分の意志では動きませんし、声も出せません。


 意識が、もうろうとしています。


 礼拝堂の中を歩いているようです。

 両脇に参列者が立ち並んでいるようです。


 パイプオルガンの演奏が、遠くに聞こえます。

 周りが何を言っているのか、理解できません。


 私は、ただ立っているだけのようです。




(私を呼び起こしたのは、お前らか?)

 突然、頭の中に、女性の声が響きます。


 意識が、はっきりしてきました。

 体は、まだ思い通りには動きません。


「そうだ、この私、国王に従え」

 王太子が女神像に話しかけます。


 会場がザワザワしているようです。


「王太子、結婚式の開催宣言がまだです!」

 誰かが、何か言っています。


 私の前で、王太子が何かしています。



 聖書台の上に、聖女の石を置き、王の伝書を開いています。

 そして、女神像の方に向いて、呪文を唱え始めます。


「え? だめ、その呪文は!」

 正面の女神像が動き始めました。


「それは、光らせてはなりません!」

 像表面の石こうが剥がれ落ち、中から女性の姿をした戦士が現れました。


 体の正面で両手を合わせ、光の玉を作り出しています。


「危ない、みんな伏せて!」


 女神像から光が放たれ、轟音が響きます。



 頭を上げると、入口の上のステンドグラスに、王宮にも大きな穴が開き、さらに向こうの山も形を変えているのが分かります。


「これは、、、光で、溶かしたの?」

 見たことのない魔法、、、いや兵器です。


 参列者や王太子の護衛兵までが、吹き飛び、腰を抜かしているようです。


「王太子は、世界を滅ぼす気ですか」


 王太子は、悦に入って、腹をかかえて笑い、女神像に近づきます。


 参列者や王太子の護衛兵までが、我先にと、礼拝堂から逃げ出ます。


「クロガネ様」

 まだ、魔法が解け切っていないのに、涙があふれ出ます。




 聖書台の陰、影から、白と黒の衣装が飛び出しました。


 シリウス様が、私にかけられた魔法を完全に解除してくれました。

 クロガネ様が、聖書台の聖女の石をつかみ取ります。


 目の前に、いつもの黒い衣装で、クロガネ様が、、、

 抱きしめられました。


「待たせた、アップル」


 あたたかいです。


「来てくれると信じていました」

「世界を、、、私を、助けて下ザい」涙声です、、、


 クロガネ様が涙を拭いてくれました。

「もちろんだ」




あとがき

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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