5話 訓練の終わりとダイビングハグ
「クソッまた負けた。お前強すぎなんだよルナ!」
「そういう変態もそこそこ強くなってるよ。もっと精進したまえ」
「うぜぇ…いつか絶対吠え面かかせてやるからな!」
弱い犬ほどよく吠えるわ。
「ルナちゃん!なんで胸にばかり攻撃するの!」
「そこに山があるから!!」
訓練、というか決闘?チャンバラ?的なことを始めてからすでに30分ほど経過した。
というのも変態が「次やれば勝てる」だとか「もう一回」だとか言って挑戦し続けて来るからだ。その間変態は徹底的にぶっ飛ばし、マリンは徹底して胸に攻撃を続けた。途中から胸を庇いだしたけど、そんなことを俺が許すはずもなく、どうにかこうにか防御を掻い潜り胸に攻撃した。
才能の無駄遣いと言うなかれ。男には逃げちゃいけないときというものがあるのだ。
……え?今は女だって?そんなこと気にしてちゃモテないよ君たち。
「変態の体力はまだ大丈夫だろうけどそろそろマリンの魔力限界でしょ?終わりにしよ。私もそこそこ魔力使ったし」
そう言って俺は、目にも留まらぬ速さでマリンの背後に移動して膝カックン。
「きゃっ!」
マリンにそのまま尻もちを付かせ、その肉付きのいい太腿に頭を乗せる。うむ、極楽極楽。
この最高の柔らかさに上を見れば最高の景色。二つの素晴らしい山の奥に見える女神のような美しいお顔。ここが天国か。
「もうルナちゃん!言ってくれれば膝枕くらいしてあげるから。心臓が飛び出すかと思ったよ」
なんか文句を言ってるみたいだけど無視無視。俺は今最高の気分なのだ。
「マリン〜。揉んで良い?」
いい気分ついでに聞いてみる。何をとは言わない。そんなもの一つしかないのだから。
「いいわけないでしょ。まったくルナちゃんはえっちな猫ちゃんなんだから」
「え〜いいじゃん減るもんじゃないし〜」
「駄目です」
強情な魔術師だ。一揉み二揉みくらい別にいいじゃん。これは最終手段を使うしかあるまい!
「マリン君。伯爵家のペットとして命じる。揉ませて!」
「嫌です」
「即答!?権力を振りかざしても駄目だと!?」
「伯爵家のペットという称号に権力はないと思うけど」
なん…だと…?伯爵家のペットに権力はないのか!?
「私に権力ないの?」
「ないだろ。お前言っちまえばただの居候だぞ」
「なんだと変態!」
愕然と呆けた俺に追い打ちをかけるかのように変態がそんなことを言ってきた。これにはいつも温厚な俺もプッツン来ちゃいますよ。誰が居候だって!?
「居候なんてそんなことない!!…こともないかもしれない?」
「お前思ったより自分の立場理解出来てんだな」
あれ?プッツン来たところまでは良かったんだけど、よくよく冷静に考えてみたら確かに俺居候じゃね?そう考えたらなんか悲しくなってきたぞ。
「私って居候だったの?」
「うーんどうだろうね」
「客観的に見ても主観的に見ても居候でしかないとおもうぞ」
「おい変態!なんでマリンが濁してくれたのにそんなド直球に言うんだ!!泣くぞ?この世界一可愛いルナちゃんが周りが引くほどのギャン泣きするぞ!?」
「お前のその自己評価の高さはなんなんだよ」
「ルナちゃんが可愛いのは確かだから…」
「まぁとにかくだ。お前は現状居候でしかないぞ」
これは前世も含めて俺が生きてきた中で一番の驚きかもしれない。まさか伯爵家のペット=居候だなんて誰が予想できるだろうか。少なくとも俺には予想できなかった。俺の認識では伯爵家のペット=最強!!だったというのに…。
「え、でもちょっと待って。それならアーシャも居候ってことだよね?」
「いや、あの子は伯爵家のメイドだから居候じゃなくて住み込みの使用人ってとこじゃないか?」
何!?それじゃあ居候は俺だけということになるじゃないか。そんなことは断じて認められない。
かくなるうえは…
「私も住み込みの使用人ってことにしよう。居候は不名誉すぎる!」
「お前使用人らしいことなにもしてないだろ」
「これからすればいいんだよ!!」
「どうせ一日も持たないぞ」
全く、すぐ否定から入るんだからこの変態は。だからモテ…なくはないな。結構告白現場目撃するし。まぁとにかくだから変態は変態なんだよ。
「よし。そうと決まればレッツゴーだ!!」
「一応どこに行くのか聞いておこうか」
「そんなのソフィのところに決まってんじゃん!ソフィの面倒見るのが使用人なんでしょ?」
「お前やっぱりバカだろ」
「ルナちゃん…それいつも通りソフィア様と遊んでるだけなんじゃ…?あ、行っちゃった」
後ろで変態とマリンが何か言ってた気がするが、屋敷に向かって走り出した俺の耳にはその声は届かなかった。
多分「ルナちゃんは最高に可愛い!!」とか「あのぷりぷりのお尻からすらっと伸びる尻尾がチャームポイントだよな」とかそんな話をしていたに違いない。
うむ、やっぱり変態は変態だ。
◇
さてさて、というわけでやってきましたソフィの部屋。開いていた窓からシュワッチと登場し、スチャッと着地すると、部屋の主のソフィとソフィの専属メイドとしてこの場にいるアーシャは目を点にして俺を見ていた。
ふふふ。超絶プリティなルナちゃんのお顔に見とれてるのかな?それともこの格好いいポーズに胸がキュンキュンしてるのかな?
「呼ばれてないけど参上!みんなのアイドル兼伯爵家のペットルナちゃんだよ~!!」
ふっ、決まったな。
「ルーちゃん?普通に扉から…」
「ルナ〜!!」
我に返ったアーシャが俺に注意をしようとこちらに近づいて来たが、それよりも早くこちらに駆け寄ってくる小さな影があった。
その小さな影とは当然この部屋の主ソフィア・ベネットだ。ソフィは駆け出した勢いそのまま俺にダイビングハグを繰り出してくる。当然俺は両腕を広げ、可愛い妹分を迎え入れる準備をした。
しかしここで一つ思い出してほしい。俺は先程訓練場で変態に対してこんな言葉を言ったはずだ。
『単純なパワーなんてまさかのソフィにすら負けてるくらいクソ雑魚だよ』
この言葉が表す答えは……皆もうお気づきだろう。
「あれ?ちょっと待ってソフィ!!私ソフィを支えられるほど力が…ぎゃあああ」
ついさっきまで格好良い登場をし、格好いいポーズをしていたプリティクールなルナちゃんはどこへ行ってしまったのか。今ここにいるのは自分より2歳年下の少女に馬乗りで抱きつかれている超絶美少女だけだった。
「ルナ♪ルナ♪ルナ♪大好き〜♪」
「ルーちゃん大丈夫?頭ぶつけてない?」
アーシャの優しさが心に染みる。
そして強打した背中の痛みも身に染みる。
「ルーちゃんさ、なんでいつも支えきれると思っちゃうの?」
「だってソフィのほうが年下だし…」
「体格ほとんど変わらないんだから歳下も歳上もないでしょ。それに身体強化魔法使えばなんとかなったんじゃないの?」
「でも私の年上としてのプライドが…」
「そんな安いプライドどっかに捨てちゃいなよ」
伯爵家のペットのプライドが安い…だと…。
ふっ…なかなか言うようになったじゃないかアーシャ。
「ソフィア様も立ってください。ルーちゃん潰れちゃいますから」
別にそんなことないけどね?
でもまあ人の上に乗っかるのって良くないと思うし、可及的速やかに退いたほうが良いかもなぁ。いや、別に全然潰れそうだからとかじゃないけどね。
「や!まだ抱きつき足りない!!」
…別に絶望して泣いてないよ?ただ目にゴミが入っただけだよ?
「ソフィア様、ルーちゃんの顔みてください。強がってますけど涙目になってますから」
「泣いてないし!!ソフィに乗られてるくらい余裕だから!!私は五英雄の一人ぞ?女の子に乗られたくらいじゃ泣かないし!ただ目にゴミが入っただけだから!!」
全く、アーシャは何を言ってるんだ。世界を救った英雄の一人が自分より年下の女の子に乗られたくらいで泣くわけないじゃないか。冗談もいい加減にしてほしいね。前世のシスだったときなんてソフィの比じゃないほど重い魔物に潰されたことだってあ……すみませんそろそろ限界だから退いてください!!
ああ、目の前が真っ暗に・・・
あれ?白だっけ?
まぁどっちでもいいかぁ。
「ソフィア様!?ルーちゃんが泡吹いてます。死んじゃいますって」
「ルナ?ルナ!?死んじゃ駄目!!起きて〜」
俺の意識はそこで闇に落ちた。
世界を救った英雄は、魔物でも賊でもない自分より年下の少女に完敗したのだった。
新しい登場人物
ソフィア・ベネット(ソフィ)10歳 人族
姉であるレイラ・ベネットと同じ髪色、瞳の色をしたベネット伯爵家の次女。
レイラと同じくらいに優秀な天才令嬢。
ルナのことが大好きで会うたびにダイビングハグをお見舞いしている。
母親はマリンに負けず劣らずの巨乳なのだがレイラの胸が小さいため、自分もこれ以上大きくなることはないのではないかと最近密かに心配しているらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます