4話 変態と巨乳の兄妹
厨房から出たあと、俺とアーシャはメイド長を捜索し、餌付けを行なった。俺は、あの人が甘党だというのは結構前から知っていたのだ。
だってあの人、前に使用人にホールのケーキを振る舞われたとき、自分の分だけ少し大きく切ってたんだもん。
そのくせ「全部平等です」というような顔でごく自然にケーキを配りだすんだから顔の皮が厚いというかなんというか。
まぁそんなわけでメイド長のご機嫌取りは終了し、アーシャはそろそろソフィの授業が終わる時間だとかで去っていき、一人ぼっちになってしまった。
アーシャに付いていってソフィと遊んでも良かったんだけど俺も俺でやるべきことがある。
それは……ダイエット!!
……いや、冗談だよ?ダイエットが必要なほど太っていないからね?
あ、でも今からすることはある意味ではダイエットなのかもしれない。
俺が今からするのは戦闘訓練だ。前世の記憶があり、戦闘技術に関しては世界でもトップの実力があると自負しているが、それに驕っていたらどこで足を掬われるか分かったもんじゃない。
それに前世のシスの身体より、今のルナの身体のほうが強くなる可能性を秘めているのだ。
その最たる例がこの左右で色が違う目だ。この世界においてオッドアイになる理由は大きく分けて二つある。
一つが突然変異。
そしてもう一つが魔眼だ。
俺の目は後者が理由でオッドアイとなっている。
そもそも魔眼とは何か?という話だけど、そこはなんというかこう特別な能力が使える目って認識でいいと思う。俺もあまり詳しくは知らん。
魔眼と一括りに言ってもその中にはいくつか種類があり、千里眼のようなあったら便利くらいのものだったり、見たものを石に変えるといった恐ろしいものもあるらしい。
そんな中で俺の魔眼の効果は…ズバリ『魔力を視認できるようになる』だ!!
………そこの君。今地味だと思ったでしょ?
猫パンチ食らわすぞコンチキショー!
…まぁ実際地味なのは確かだ。他の人から見たらあまり欲しいとも思われないのかもしれない。
しか~し!このルナ様にとってはとても使い勝手のいい能力なのだ。
その使い方聞きたいかね?
んふふ、まだ教えなーい。少ししたら分かると思うからちょっと待ってて。
◇
さて、というわけでやってまいりました訓練場。ここはベネット伯爵家に仕える騎士たちの訓練場なのだが、俺は当然顔パスだ。伯爵家のペットという称号は伊達じゃない。
「あれ?ルナちゃんだ。今日はこの時間なんだ」
「よぉルナ。訓練付き合えよ」
俺が訓練場に足を踏み入れ、準備運動に身体を伸ばしていると、背後から声をかけられた。
むむ。この声は…
「変態兄貴と巨乳妹の兄妹だ!」
「誰が変態だ!誰が!マリンの方は間違っちゃいねぇが俺は変態じゃねぇ!」
「妹の巨乳を肯定するところあたりが変態」
「ルナちゃん?その、私にも羞恥心はあるからね?こんな訓練場の真ん中で大きな声で言うことじゃないからね?」
背後を振り返ると木剣片手にメンチを切ってくる変態ことエインと、恥ずかしそうにしている美人巨乳姉ちゃんことマリンの兄妹が立っていた。
ふむ。相変わらずデカい。大きなメロン…いや、スイカか?
それに比べて…
「神様ってときに残酷だよね。こんな双丘を持つ魔術師を誕生させたかと思えば、まな板令嬢を誕生させたりするんだから。…いや、もしかしたらバランスを取るための可能性もあるのかな?そこんとこどう思う?変態」
とりあえず変態にふってみる。
「まず俺の呼称を変態で確定するのをやめようか?そしてその話を男で、更にレイラ様の護衛騎士の俺に振るのはやめようか。答えづらいわ!」
この変態、剣の腕は立つがやはり頭の方は大したことがないらしい。自分で墓穴をほっている事実に気づいてすらいない。
「あれれ~?私は別にお嬢の話しなんかしてないのにどうしてお嬢が出てくるのかな〜?」
俺がそう言うと変態は明らかにしまったという顔をし始めた。ふふふ。
「もしかして〜、変態はお嬢のことをまな板令嬢だなんて思っているのかな~?これはお嬢に報告かもな~。護衛騎士の変態がお嬢のことをペッタンコって言ってたよ~って」
「お、おい…。冗談だよな?ルナさんや」
「その上、『巨乳な妹のほうがお嬢の100倍可愛いぜ!巨乳サイコー!!』とか言ってたって追加しとこ」
「おいおいおい!?それに関しては100%嘘じゃねぇか!!」
「にゃはっ♪」
相変わらずこの二人を弄るのは面白い。片や羞恥で、片や怒りでそれぞれ顔を真っ赤にしている。
うんうん。美人が顔を真っ赤にして恥ずかしがってるのは絵になるなぁ。
ん?変態の感想?イケメンではあるけど俺の心は男なもんで興味はないよ。
「おいルナ。俺達と勝負しろ!もし俺達が勝ったらレイラ様への報告はなしだ!」
マリンの可愛らしいお顔と凶悪な双丘を観察していたら変態がそんなことを言って来た。相変わらず脳筋だ。
「えー。か弱い少女に大人が二人がかりで勝負を挑んでくるの〜?」
とりあえず自分の身体を抱きしめて適当なこと言っとこ。まぁ一対一じゃあ変態に勝ち目が1パーセントすら残されないし賢明な判断ではあるんだけどね。
「お前、か弱い少女だなんてよく言えるな…。少なくともこの領内では一番強いだろうが!」
「ん~?でも私魔法ほとんど使えないし、単純なパワーなんてまさかのソフィにすら負けてるくらいクソ雑魚だよ。…まぁそれはそれとしてちょうど暇してるから付き合ってあげる〜」
そう言って俺は腰に付けられたホルスターから魔銃を引っこ抜く。右手と左手それぞれ一丁ずつだ。
この魔銃は10歳の誕生日に伯爵に買ってもらったもので俺の相棒たち。前世に使っていたものと比べると数ランク劣るが、それでもそこそこの性能はあるから俺にかかれば最強の武器となる。
「その余裕な面すぐに歪めてやるからな!マリン準備しろ!」
「え、なんかこの流れ前にもあったような気が…。私は勝負とかじゃなくて普通にルナちゃんと訓練したいなくらいの気持ちだったんだけどな…」
どうやらあちらも準備ができたようだ。開始の合図はどうするんだ?……仕方ない。俺がいうか。
「ほら、いつでもどうぞ」
「じゃあ早速、ウィンドカッター!」
始めの合図を出すと同時にマリンが仕掛けてくる。あまりこの戦いに乗り気ではなかったようだけど、その魔法は並の相手では対処できない威力と速度を誇っていた。
まぁその相手が並の相手ではないのだけど。
さて、先程俺の左目は魔眼だと話したことを覚えているだろうか。魔力を見ることができるだけの地味な能力であるが、俺には使い道があると言ったはずだ。
俺は左目でマリンから放たれた魔法を見る。すると、ある一点に魔力が多く集まっており、そこに核があることが理解できる。そこに向けて同程度の魔力の塊を魔銃から撃ち出してやると、マリンの出した風の刃はまたたく間に霧散してしまった。
これが俺の魔眼の使い方だ。どう?スマートでかっこよくない?
魔法に、というか大抵のものには核があるものだ。そこを付かれれば崩壊する。つまり俺は魔力を見れるようになったことで、魔法の核を見つけることができ、その結果魔法を無効化することが容易になったわけだ。
まぁもともと無力化できないことはなかったが、核に当てるために何発も撃っていた以前に比べれば魔力消費が格段に少なくなったと言える。前世も今も魔力量自体はそんなに多くないんだよな〜悲しいことに。前は魔導具とか魔力回復薬とかで無理やり回復させてたけど、今はそんなものないからなぁ。この魔眼による魔力消費節約は結構でかいのだ。
そして魔眼の使い道はなにも魔法に限った話ではない。
「約束は守れよルナ!」
そんなことを言いながら俺の懐に入ってくる変態。俺が魔法に対処している一瞬の隙に詰めてきたらしい。そんな変態を左目で捉える。
近接戦闘を得意とする戦士が相手でもこの魔眼はとても役に立つ。戦士の必須魔法として身体強化魔法というものがある。身体に魔力を流し、身体を強化する読んで字のごとく効果を発揮する魔法だ。
ここまで説明すればもうわかったと思うけど、俺は魔力の流れで相手の次の行動の先読みができるのだ。と言ってもこれは前世の経験も合わせて分かるものだから、ただこの魔眼を持っているだけじゃ難しいのかもしれないけど。
そんな先読みを駆使して、変態が切り込んでくるタイミングに左手に持った魔銃を合わせて受け流す。受け止めたらいくら木剣でも銃が壊れかねないし、俺の非力な身体じゃ押しつぶされるのがオチだからね。力いっぱい振った木剣を受け流されれば当然体制は崩れる。変態の攻撃が空振った今、反撃のチャンスを見逃す俺ではない。すぐさま右手に持った魔銃を変態のおでこに突きつけ、デコピンよりそこそこ強いくらいの出力で引き金を引く。
すると変態の頭はザクロのように破裂……することも無く普通に後方に吹っ飛んだ。そうすれば残るはマリンだけだ。マリンは魔法を発動しようとしているようだけど、もう遅い。
俺はマリンの方へ二つの銃口を向け、魔弾を撃ち出す。その魔弾は俺の狙いを外すことなくとあるニ点に着弾する。
そう、あの素晴らしき巨乳に。
「きゃっ!」
マリンは可愛らしい悲鳴をあげ、それと同時にとてもセンシティブで男の夢の詰まったあの部位が「ぷるるんっ」と音をたてたかと思うほどに荒ぶった。
うむ。我ながら良い仕事をした。眼福眼福。
外野の騎士たちも男、女関係なく「おぉ!」というような声を出していた。君たち俺に感謝するんだぞ!
「私の勝ち。ブイ!」
とりあえず自身満々にピースしておこう。
新しい登場人物
エイン(変態) 25歳 人族
茶髪緑眼のイケメン騎士。
もともとは妹のマリンと共に冒険者になるため田舎から出てきたのだが、なんやかんやあって冒険者ではなく騎士となった。
ルナから変態というあだ名を付けられているが、女性への接し方は紳士そのもの。
未だに何故ルナから変態と呼ばれているのか分かっていない。
マリン(マリン) 21歳 人族
兄と同じ髪色に紫の瞳を持つ美人巨乳魔術師。
もともとは兄のエインと共に冒険者になるため田舎から出てきたのだが、なんやかんやあって冒険者ではなく伯爵家のお抱え魔術師となった。
ルナに合うたびにセクハラを受けている被害者。
ルナの言い分としては『そこに山があるから』らしい。
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