22.散歩/デート.MT
MIYABI View
―――自宅、朝
受け入れる事を決めてから一夜明け、少し冷静になり、元男である事、33才おじさんである事などを意識できた。
しかし、それらを意識した所でやる事は何も変わらない、私は敏夫君の望む事を受け入れる努力をするしかない、私には敏夫君が必要なのだ。
ただ、受け入れる内容によっては多少の我慢をするだけだと思う。
例えば告白、今なら雰囲気さえ良ければ受け入れるしか無いと思う。
例えばキス、付き合い始めて盛り上がっているなら受け入れるべきだと思う。
でも本当の気持ちは、どっちもまだ無理かも知れない、それは分からない。
仮に今、自分の本当のそういう気持ちを確認しようと思っても、敏夫君を失いたくない気持ちが強すぎて受け入れるという答えしか出てこない。
つまり、自分の敏夫君に対するそういう気持ちが、分からない。
嫌いでは無いだろうけど、じゃあ恋愛対象として好きかというとそれはどうだろう。
多分悩んでる時点で心の何処かでブレーキを踏んでいるんだろうけど。
朝食を一緒に食べて、幸せな時間を過ごした後、敏夫君はこう切り出した。
「みやびさん、この後、すこし散歩に行きませんか、ちょっと歩きますけど自然公園に行きましょう」
「―――いいよ、うん、食後だし散歩もいいかもね、そういえばまだ自然公園は行ったことない?」
「そうですね、今日が初めてです」
昨日の反応を見て、早速動いてきたのかと思った。
そう思ったけど、それを拒否する理由は特に無い、面倒臭いからと断ってもいいけどどうせ家に居ても特に何も無いんだから散歩くらい良いだろうし。
敏夫君が片付け洗い物を済ませて着替えてる間に私も出掛ける準備をする、と言っても映画館に行く時のような格好ではなく散歩に行くような、比較的軽装に。後はタオルや水筒なんかも持っていこう。
髪は後頭部上部に一つ結びでポニーテールっぽくした。
「あ、重たい荷物は俺が持ちますよ、水筒とか」
と言って、自分のバッグに入れてくれた。
こういう気遣いが嬉しい。
―――自然公園
20分くらいだろうか、自然公園までは結構歩いた、それでも2人で雑談しながらだったのでそこまでの距離に感じなかった。
今はベンチに座って休憩をしていて、私は敏夫君のカバンから水筒を取り出してお茶の準備をしている。
「ここ初めて来ましたけど結構いい所ですね、思ってたより大きいし」
「そうだね、はいお茶、ちゃんと水分取ってね」
「ありがとうございます、ゴクッゴクッ、――ふぅ、みやびさんは飲みました?」
「まだだよ、敏夫君が飲み終わったら飲むよ」
「じゃあ、間接キスですね、はい、どーぞ」
「あのね、そういう事言わなくていいから」
態々口に出さなくても良いと思うんだけど、余計に意識しちゃうじゃないか。
お茶を注ぎ、口を付けて少しずつ飲んだ。
それから適度に休憩を挟みつつ1時間くらいかけて公園をぐるりと周り風景とお喋りを2人で楽しんだ。
公園の中心ぽいところでは良い雰囲気の休憩場所なんかもあり、良い場所だと感じる。
「結構ランニングしてる人や散歩してる人もいるんだね、知らなかったよ」
「そうですね、こういう公園は朝方や夕方になるとランニングする人が多いと聞きますね、今日は日曜だし、まだ午前中だからそこそこ人がいますね」
「偶にはこういう場所を散歩というのもゆったりした感じがして良いね」
「実は結構な運動にもなってるんですよ、まだこれから20分歩いて帰るわけですからね、休憩時間を覗いても1時間半弱程度のウォーキングですね」
「それは結構な運動だね、―――そろそろ帰る?」
「そうですね、帰りましょう」
あれ?てっきり自然公園で何か有ると思ってたけど何も無いみたい、ちょっと意外だね。
そのまま来た道を20分掛けて家に帰った。
―――自宅、昼前
家に着くと思ったより疲れていたのか疲労が襲ってきた。
「敏夫君、お昼は簡単なもので良いかい?」
「良いですよ、あ、みやびさん疲れてますよね、俺も何か手伝いますよ」
「うーんじゃあナポリタン作るから野菜を切るのを手伝ってもらおうかな」
「良いですねナポリタン、俺は好きです」
「ふふ、嬉しいね、でも少し休んでからね」
結局その日は特に何も無く、明日からテスト勉強を始めますよ、という事を宣言されただけで終わった。
身構えていたので、安心したのか拍子抜けしたのか、一気に気が抜けた。
TOSHIO View
―――自宅、朝
昨日の夜、余りの嬉しさに中々寝付けなかった。
デュエットから後はずっと幸せな気分で、夜も進歩具合と嬉しさ、これからの事を考えると頭が冴えてしまって眠れない。
鉄は熱い内に打てという言葉もあるし、今日もいきなりだけど何処かへデートに誘ってみようと思ってる。
急ぎ過ぎかなという気もするけど明日からテスト前1週間でテスト勉強を始めるからそれどころじゃなくなるし、テスト期間も含めて約2週間もある、そう考えると今日しかチャンスが無い。
朝食を食べ終えた所でみやびさんを今日のデートに誘った。
「みやびさん、この後、すこし散歩に行きませんか、ちょっと歩きますけど自然公園に行きましょう」
そう、突然の事なので出来るだけ軽いデートにしてみた、散歩デートなら格好も軽装でいいし、みやびさんもそんなに気負いしないし良いだろう。
ちょうど良い距離に自然公園もあるしナイスなチョイスじゃないだろうか。
いいよと言ってもらえたので食器の片付けと洗い、そして準備をした。
みやびさんの格好は軽装だけど何よりポニーテールが可愛い、ポニーテールはなぜあんなに可愛くてうなじがセクシーなんだろう、奇跡的に可愛さと色気が同居している。
重た目の荷物は俺のバッグに入れてみやびさんはタオルなんかの軽めの物を持ってもらった。
リレーの練習中でも思ったけど女の子がタオルとかハンカチとか出して渡してくれるの、甲斐甲斐しい感じがしてなんか良いよね。
―――自然公園
みやびさんの歩調に合わせて歩いて20分くらいで公園に着いた。
喋りながら歩いているとあっという間だったように感じる。
さて今日の目的だけど、公園の中程まで歩いた所に丁度良い感じの場所があって、そこで良い雰囲気だったら告白をしようと思っている。
2週間何も出来なくなる前に此処でいけたら良いんだけどなあ。
ベンチに腰掛けてタオルで汗を拭き、お茶を飲んで休憩をした、その時に関節キスという事をあえて口に出し、少し意識されるようにした。
始めに言っておけば休憩する度にそれを思い出してより意識してくれるんじゃないかと期待して。
途中、会話が途切れて風景を見ている時に俺は考えていた。
今日、この後に告白しようと思っている、雰囲気は悪くない、だけど冷静に考えて、本当に今此処で告白してしまって大丈夫なのか?勝算は?―――もし、振られたら?
大丈夫だろうか、昨日の雰囲気ならいけそうだけど、昨日と今日は違う、昨日のカラオケはデュエットで擬似的とはいえ"好きです"と言った後のキスの雰囲気だった。
だけど今日は、良い雰囲気だけど、そういう雰囲気じゃない、ただ一緒に歩いて喋ってるだけ、日常の一部みたいなものだ。
そもそもみやびさんは今日の散歩デートをデートだと思ってるのだろうか、正直そこは自信が無い。
なんというか今日のみやびさんは自然体で緊張感が無いように感じて、デートという空気を感じない。
そしてもし振られたら。俺は2週間何も出来ないから今日告白したいと思っていたけど、逆に言えば今日失敗したら挽回するのは早くても2週間後、という事だ。毎日顔を合わせるどころか一緒に住んでいるのだ、気まずいなんてレベルじゃない。失敗は出来ない。そもそも振られたら家に居られなくなる可能性も有ったんだった。
であれば、今日は只の散歩デートという事にして、告白はまたもっと良い雰囲気になれる所の方が良いんじゃないか?
うん、そうしよう、コレはヘタれているのでは無く、様々な情報を元に高度な判断をした結果だ。うん。
そう、今日は只関係を深めるだけの、好感度を上げるだけのデート、そう思う事にしよう。
方針を決めたら一気に心が軽くなった、やはり告白をしようと思っていたのは心への負担が重かったようで、文字通り気楽になった。
公園中央部は確かに良い雰囲気になれそうな休憩場所だった、散歩デートじゃなかったらなー、告白するんだけどなー、残念だなー、いやー残念残念。
みやびさんが楽しそうで俺も嬉しい、でも段々と疲れてきたのか、それなりに息を切らせているので丁度良い休憩場所だと思う。
次は当日いきなりじゃなくて、事前に決めてから来たい場所だと思った。
―――自宅
やはり疲れているみたいでみやびさんはリビングのソファーで休んでいた。
だから少しでも負担を減らそうと料理の手伝いをしたりもした。
汗で汚れているのでお互いシャワーを浴びて服を着替え、そのまま今日は何処にも出掛けなかった。
晩ご飯の時に明日から一緒にテスト勉強する事を伝えて、みやびさんも了承してくれた。
今日のデートはまあまあだったかな、ただデートと認識されてなかったぽいのと告白出来なかった事だけど、いつも何かが進展する訳じゃないし、ただ仲良くなるだけのデートも良いじゃないか。
さて、明日からテスト勉強とはいえ今より親密になりたい、良い方法がないか考えておこう。
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