23.呼称.TM
―――月曜の学校
朝教室に入ると智行と哲平に声を掛けられた。
「どうだった、あれから何か進展あったか?」
「……いや、特に無い、日曜に告白出来ないかと思ってデートまではしたんだけど、そういう雰囲気じゃなくてやめた」
「まー、カラオケの反動で逆に厳しいのか、そういうのもあるのかもなー」
「ちょっと急に距離詰めすぎた感あったからな、分からんでもない、でもデートはしたんだな」
「まあね、次はテスト終わったらだよ、それまではテスト勉強だ。
そういやそっちはどうなんだ」
「ああ、連絡先の交換はしたよ」
こんな感じでお互いの情報交換をした。
カラオケで協力してもらったからな、こっちも協力するつもりだ。
と言ってもまだ何も決まってないらしいけど。
MIYABI View
―――自宅
晩ご飯後、テスト勉強をする事になっているけど、正直気が乗らない、やっぱり勉強は苦手。
途中で休憩という名のお風呂タイムをとったり適度に小休止を取る予定。
だけどその前に敏夫君にお願いしようと思っていた事があって。
敏夫君との関係を続ける為に望む事を受け入れる事を決めた、だけどそれだけじゃなくて、他にも私からも歩み寄る必要があると感じているのだけど、それの一つが"名前の呼び方"で、それを変えて貰おうと思っている。
親しい仲と言えばやはり敬称無しでの名前呼び、つまり呼び捨てだろう、という訳で敏夫君には私の名前を呼び捨てにして貰いたい。
だけど言葉遣いは変えて欲しくない、あの優しくて穏やかで丁寧な話し方に、私は安心出来て心が落ち着く。それに私だけが特別だと感じるのも良い。あれは続けて欲しい。
「敏夫君、お願いがあるんだけど、いいかな」
「はい、なんですか?みやびさんのお願いなら何でも聞きますよ」
「うん、ありがとう、それでね、名前の呼び方なんだけど、そろそろ呼び捨てで呼んでくれないかなと思って」
「え!?呼び捨てですか……良いんですか?」
「それでね、出来れば話し方や言葉遣いは変えないで欲しいんだけど、ダメかなあ」
「……もしかしてこの言葉遣い、気に入ってます?」
「……うん、とても心が穏やかになれて落ち着くから」
「分かりました、それじゃあこれからみやびさん、じゃなかった、んんッ、みやび、と呼びますね」
「うん、よろしく頼むよ」
「じゃあみやびも俺の事は呼び捨てにして下さい」
「う、うん、それじゃあ、コホン、敏夫、……ちょっと恥ずかしいね」
「俺もですよ、みやび」
「……敏夫」
「みやび」
そう言って少しの間見つめ合って、お互い照れていた。
なんだか名前を呼ばれるだけで少し嬉しくなってくる自分がいて、やはり呼び捨てというのは違うという事を実感した。
「それじゃあ、そろそろテスト勉強しようか、先生、よろしくお願いします」
「そうですね、始めましょうか」
勉強に関しては私は下の上か中あたりで敏夫は上の上か中、正直敏夫の邪魔になるんじゃないかと思うほどに私は出来ていない。
33才のおじさんは高校1年の勉強とか覚えてないのが大半だと思う。
だとしてもちょっと酷い気がするけど。
それでも敏夫は宿題の時なんかも懇切丁寧に教えてくれる、教える事で自分の理解が進むから、なんて言って、丁寧に。
本当に敏夫には頭が上がらない、頼ってばかりだ。
「みやび、ここはこの式をこっちに代入して―――」
「ああ、なるほどそうやって解くのか、なんだか思い出してきたよ」
「みやびは1度勉強してる事なので思い出すと後は早いから、教えるのも楽ですよ」
「教えてもらってばっかりでごめんね、全然自分の勉強出来てないよね」
「大丈夫ですよ、宿題と違って教える事がそのまま勉強にもなってるので、ずっとみやびに教えてても良いくらいです」
「ふふ、気を使ってくれてありがとう」
「――本当の事なんだけどなあ」
そろそろ深夜、という所で今日の所は終わりとなって、私は伸びをしながら感想を口にしていた。
「始める前はテスト勉強なんて嫌だなあって思ってたけど、始めてみたら敏夫と一緒だし丁寧に教えてくれるしで、辛いどころか楽しかったよ」
「それは良かった、俺もみやびと一緒に勉強出来て楽しかったですよ」
「もういっそ、敏夫が私の専属先生になってくれたら良いのにって思ったよ」
それを聞いた敏夫は頬を紅くして答えた。
「良いですねソレ、俺もみやびの専属先生になれたら良いのにと思いますよ」
「ふふ、それじゃあおやすみ」
「はい、おやすみなさい」
これならテスト勉強も続けられると思う、敏夫のお陰だね。
なんだか楽しみな時間が増えた気すらしてる、教える人でこんなに違うなんて。
いやいや、敏夫に頼ってばかりはダメだ、私もいつか教えられるようにしっかりしないと。
―――学校
「もしかして敏夫君の呼び方変わった?」
「とうとう付き合い始めたか~」
「まだそういう関係じゃないってば、呼び方は変えても良いかなと思って、変えてもらったんだよ」
「え?みやびちゃんから?」
「そうだね」
「それは大きいねー、そろそろかな?」
「うーん、どうだろう」
「――あッ否定しなかった!桃香ちゃん、コレは……」
「テスト終わったあたりが狙い目だよね、そうだ!テスト最終日の帰りに3人で買い物行かない?そろそろ水着買わないとね」
「水着かあ、遠慮したいなあ」
「みやびちゃん何言ってんの!見せる相手が居るのに!」
「え、いやまあそうかも知れないけどねえ……」
「また否定しなかった!?桃香ちゃん!本当に期待出来そうだよ!」
「これはテスト終わりの買い物が楽しみだね」
そうだろうね、多分テスト終わりにデートとか誘われて、告白されそうな気がする。
今の私は受け入れますよ、よっぽど変な雰囲気じゃなければね。私の本心は……分からないけれど。
その日からテスト終わりまで、ご飯の買い物以外は基本的に家で2人で結構な時間をテスト勉強で過ごした。
―――テスト前の日曜
敏夫からデートに誘われた。
「みやび、今度の日曜、デートしませんか」
「……いいよ、何処に行くの?」
「場所はまだ秘密です」
「ふーん、あ、どうせならお弁当とか、作って行こうか?」
「あー、今回は大丈夫です、本当はみやびのお弁当食べたいんですけどね」
「うん、分かった」
「時間なんかはテスト終わってから伝えますから」
このデートで多分告白されると思う、受け入れる事を決めているとは言っても覚悟はしておかないとね。
「あ、そういえばテスト最終日、そのまま桃香ちゃん達と買い物に行く約束をしたんだけど、帰りはどうしよう」
「良いんじゃないですか、そろそろ1人で―――」
私は1人で居たくないという思いがあって、図々しくも迎えに来て欲しいと思っていた。
「―――いや、俺が迎えに行きましょう、メッセージ入れてくださいね、みやび」
敏夫は少しヤレヤレという感じを出しながらも私の気持ちを察して言ってくれた。
どうやら気持ちは伝わったみたいだ、もしかして表情に出ていたのだろうか。
「うん、ありがとう」
―――学校、テスト最終日
「みやび、どうだった?」
テスト終わって直ぐに敏夫が振り向いて出来具合を聞いてきた。
敏夫とのマンツーマンレッスンのお陰でテストは結構出来たと思う、敏夫先生様々だよ、本当にね。
「うん、結構出来てたと思う、もしかしたら平均くらいは出てるかも」
「本当に?それなら俺も勉強を教えた甲斐があったね、よく頑張ったね、みやび」
そう言って頭を撫でてくれた、って此処学校なんだけどな。
最近は勉強を教わっていくうちに出来が良かったり、調子が良いと頭を撫でてくれる様になっていた。
カラオケの時は別として、初めは敏夫の望む事だし、と思って受け入れたけど、これが思ったより心地よくて、敏夫も私の頭の位置が丁度良いのか、褒めるのとセットになって癖になりつつあった。流石にご飯の時はやらないけど。
ちゃんと髪型を崩れないように気を使ってくれているのも分かる。
敏夫も此処が学校である事を思い出したのか直ぐに手を離した。
だけど見られると面倒臭い4人にはしっかり見られていたようだ。
「おやおや~敏夫君、随分と仲が良さそうだね~、いつの間にそんな仲に?」
「いや、これは思わずだな」
「なんで思わずで頭を撫でるんだよ、そんなの普段からやってないとそうはならんやろ」
「みやびちゃん、もしかしてもう既に?」
「いや、まだなんだけどね」
「そういえばカラオケの時も撫でられてたよね、気持ち良かったとか?」
「うん、まあ……」
こんな感じで4人に色々からかわれてしまった。
最近はこの6人が一緒になる事が除々に増えてきて仲良しグループのような感じに。
前出くんに対する苦手意識は無くなっていて、普通に接する事が出来るようになっていた。
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