第26話 その勇者、友の活躍を見逃す


「きゃっ!」


『今だ!撃ち殺せ!』


 女性の悲鳴と何か外国語で叫ぶ男の声が聞こえた。


「みんな止まれ!この建物の裏側で女性が倒れて敵に囲まれてる!不味い!」


魔法防壁シールド


タタタタタ!


「みんなはここにいろ!動くな!」


 そう言い残し建物に向かってジャンプする。ただの脚力だけで3階建ての和式の建物を飛び越えると、女性を取り囲む20人強の兵士を目視した。


「間に合った!女性は無事か!だが、こいつらは許さん!」


上級元素魔法【風】ハイ エレメンタルマジック・トルネード カッター


 空気の刃が竜巻となって、敵の全てを飲み込み切断した。


「大丈夫ですか?怪我してませんか?」


 俺は女性のそばに着地しながら魔法防壁シールドを解除して声をかけた。


 甘栗色の髪をお下げに編んだ可愛らしい年上の女性だった。


「ありがとう。助かりました、天霧あまぎり君。」


「ええと、会ったことありましたっけ?」


「ふふふ、本当にソウマ君の言ったとおりだね。選抜トーナメントで主審をしてた3-Aの担任おおとり シノブです。」


「ええと、決闘の時は集中しててですね・・・」


「そうだね、ちっとも話を聞いてはいなかったね、君は。ふふふ」


「それよりも、今仲間の女の子たちを連れて女子寮に向かってるとこなんです。先生はどうしますか?」


「シノブと呼んでくれていいよ。ユキト君。私はできる限り敵を殲滅しなければならない。だが・・・」


 そう言ってシノブ先生は三節棍を手に持った。


「ヘルメットにボディーアーマーを着けた多数の敵には不向きですね。ではこれを貸します。」


 そう言って俺は無限倉庫ストレージから一振の剣を取り出して、シノブ先生に渡した。


「『神剣ユングリング』エルフの宝剣です。これならシノブ先生にも使えるはずです。」


「すごい剣だね。この剣自身から凄まじい霊力を感じるよ。『神剣ユングリング』、お借りするよ」


「では、俺は彼女たちが心配するので戻ります。シノブ先生、ご武運を!」


「ありがとう。これがあれば遅れは取らないさ。ユキト君はハーレムのたちの事守ってあげてね。」


 言いたいことは沢山あったが、まずはスズネたちの所へ急いで戻ろう!


天霧あまぎり ユキト君か・・・。あんなにカッコよく助けられたら、いくら年上の私だって・・・」


◇◇◇


シュッー!ドガーン!


 敵のRPG-7対戦車ロケットすめらぎの結界【八熱地獄門】に命中し、爆裂音と共に大きな炎を上げた。


「ぐっ、ブハァッ!」


 RPGの爆発から内部を守った皇の結界だったが、この大規模な結界の維持は皇に相当な負担を強いる上に、RPGの攻撃は確実に皇の精神と肉体にダメージをあたえ、ついに皇は吐血してしまった。


 爆音が収まる中、男子寮から数名の男子が皇の元に駆け付けてきた。


 冷泉院れいぜいいんを初めとする男子学生の中には、加茂とブラザースも加わっていた。


「皇先生!しっかり!」


 冷泉院か皇を支え起こす。


「大丈夫た、冷泉院。おおとり先生とほむら先生が今に敵を駆逐してくれる。それまでは、僕かここを守る!」


 肩で大きな息をしながら、生徒を安心させるために皇は語った。


「しかし・・・」


「敵の呪いのせいで、みな霊力が使えない。僕の血継呪術だけはみなとは由来が違うから使えるんだ。冷泉院もつかえないだろ?」


 皇の言葉に、学生たちは動揺した。


「確かに、私の守護神霊も答えてくれません・・・」


シュッー!ドガーン!

シュッー!ドガーン!


「うぐっぅ」


 更なる攻撃に、皇は吐血を繰り返す・・・


加茂かも氏!」

「はい!力を貸してください、先輩方!」


 加茂はそう叫ぶと膝をつき、魔力を練り始めた。その加茂を支えるように、大淀おおよどたち3人の先輩も自分の練り上げた魔力を加茂に送り始めた。


「何をやっているのだ?加茂たちは?」


 周りの男子学生たちは、自分たちが理解出来ない術を使い始めた加茂たちから、後ずさって距離をとった。


「新・加茂流召喚魔術!『戦艦娘』召喚!」


 4人で練り上げた魔力を解放し、加茂は4枚の『野衾のぶすま』を召喚した。


「野衾だと?」

「どうやって加茂は式神を呼んだんだ?」

「だが、野衾では・・・」


 周りの驚きと失望の声を無視して、更に加茂は魔力を送り込んだ。


「いでよ『高雄たかお』『愛宕あたご』『摩耶まや』『鳥海ちょうかい』!4姉妹の力で、敵を駆逐しろ!」


『『『『はい!』』』』


 可愛らしい返事と共に、3門の連装砲塔を背負った凛々しい『戦艦娘』たちが野衾から飛び出してきた!


『全艦、単縦陣!我に続け!』

『『『はい!お姉様!』』』


 重巡『高雄たかお』が先陣をきり、姉妹艦が後に続く!


 『高雄たかお』艦隊がすめらぎの地獄門を通過した!

 結界の外に出た『高雄』艦隊に敵兵からの十字砲火が襲う!


「くっ!進行方向正面に魔法防壁シールドを展開するンゴ!」


 艦隊正面に集中する銃撃を、遠野とおののシールドが辛うじて防ぐ。


『全艦!取りー舵いっぱーい!我に続け!』


 高速で移動する艦隊が、敵の目の前で左に急旋回する!


「おい!あれを見ろ!あのT字ターンは、伝説の東郷ターンだ!」

「俺たちは、今伝説に立ち会ってるのか・・・」

「『天気晴朗せいろうなれど波高し』キター!」

「うおー!Z旗だ!『高雄たかお』ちゃんにZ旗がはためいてるぞー!」


『全艦砲撃よーい!撃ちー方初ーめ!』


ドーン!ドドーン!ドーン!ドドドーン!


 『戦艦娘』たちの連装砲が轟音と共に炎を吐き出す!


 小銃を構えた敵陣に次々と榴弾が打ち込まれた!


ドーン!ドドーン!ドドーン!ドーン!


 怒涛の2斉射!もはや『高雄たかお』艦隊に打ち返してくる敵兵はいなかった。


『全艦よくやりました!ですが、古人曰こじんいわくく、勝って兜の緒を締めよです。』


『『『はい、お姉様!』』』


 『高雄たかお』艦隊は綺麗に艦隊陣形を維持し、加茂たちの元に凱旋がいせんして行った。


◇◇◇


 奥多摩山中。幹線道路からは離れた山道に停車したトレーラーの改造コンテナの中に、作戦指揮所が設置されていた。


『ザザッ、第二小隊、敵と交戦中!敵は1名。繰り返す。敵は1め・・・うわー!』


『第二小隊!応答せよ!第二小隊!』


『こちら第三小隊。敵の艦砲射撃で被害甚大!支援砲撃求む!繰りかえ・・・ザザッー!』


『王 中校ちゅうさ!第二、第三小隊、通信途絶えました!これで中隊の三分の二が通信途絶です。作戦の中止、及び撤退を具申します!』


『それは出来ない!謝 中尉。我々に失敗は許されんのだ。』


 そう言って王 中校中佐は衛生通信のマイクを取ってスイッチを入れた。


『こちらゴールキーパー。ボランチ応答せよ。ボランチ応答せよ。ザッ!』


 スピーカーから無機質な声で回答がきこえた。


『こちらボランチ。何か?ザッ!』


『宅配便を届けよ。繰り返す。宅配便を届けよ!ザッ!』


『了解。宅配便を届ける。ザッ!』


『王 中校中佐!それでは生き残っている兵達が・・・』


 謝 中尉が必死に上官を諌めるが


『中尉。党は作戦の失敗を望まない。例え我々全員の命が失われても、だ。』


 コンテナの中の中隊作戦司令部が、一瞬の沈黙に覆われた。

 司令部の誰もが、重く暗い敗北を覚悟した。


◇◇◇


『了解。宅配便を届ける。ザッ!』


 通信を終えて衛星通信機をしまうと、キムはゆっくりと立ち上がった。


『この犠牲の果てに、我が同胞はこの国で一体何を得るのだと言うんだ

・・・』


 そう独り言を言うと、キムはナイフで手首を切りさき、流れ出る血を足元の不気味な壺に振りかけた。


 すると、不気味な壺は嬉しそうにカタカタと揺れ始めた・・・



*************


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