第29話 祠の話



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みよこ @aujnpg54MuTo


うちの地元、ゴミの不法投棄が酷すぎて問題になってたんだけど、そういうゴミの溜まるところに祠を立ててみたんだよね。木組みの、鳥居もついてる、腰ぐらいの大きさなんだけど、そしたら誰も捨てなくなったの。遵法意識は低いくせに信心深い変な民族、日本人。


2024年7月30日15:30 200表示

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ミュラシコは極刑 @isora_man_78

返信先@aujnpg54MuTo


ポストの不法投棄



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「これなかなか妙案なんじゃないですか?」


八月一日、隣の席の西川が見せてきた画面には、何の変哲もない石造りの地蔵が写っていた。


「なんなんだよ。何が妙案なんだよ。説明不足だなあ」

「最近はやってるんですよ」

「何が。コロナか?」

「つまらないでーす。こういうのです」


そう言って西川が画面を次々切り替えて、画像を幾つも見せてくる。

それらは例えば、田圃の隅っこに建てられた小さな祠や社だとか、地蔵だとか、仏像である。

何なのかよくわからない。西川は別に宗教にハマっているような人物ではない。いやまあ、ハマっているといえばいるか。スマホのゲームに課金しては、単発教がどうとか、十連教がどうとか叫んでいた記憶はある。休憩室で引くんじゃないよ、会社の。


そんな西川が何故わざわざこういう写真を見せてくるのか。いや、俺の反応が見たいのはわかる。更にいえば、同意が欲しいのだろう。だが、この祠だとか仏像だとかにどう反応するのが正解なのか、まるでわからない。


「……まあ、そうだな、なんか新しい? のか? これは」


とりあえず感想を述べてみた。

思い出すのは、昨日の、駅までの帰り道で見かけた地蔵だ。毎日歩く道にぽつんと立っており、何度も見かけたはずなのに、初めてそれを見たような気がして驚いたのだった。しかもかなり古びており、苔むした上に、首が落ちていた。クビキリ地蔵である。地蔵殺人事件だ、なんて一人で笑ってそのまま帰ったのが昨日の話。


その地蔵に比べると、この祠や社はなんだか新しい。木の感じといい、石の光沢といい。鳥居の赤さも、塗りたてのように思える。地蔵や仏像も、苔や傷がまるでない。


「新築っていうのかね。いや祠に新築って言い方が正しいのかわからんけども」

「よく気付いたっすね。そうなんですよ。これ新築なんです」


正解だったらしい。

いや、新築だから何なのかとしか思えないが。


「すごくないですか?」

「お前さあ、説明不足なんだって、だから。祠があります、新しいです、すごくないですか、って言われても困るんだよもう。もっとこう、言うべきことがあるだろ」

「あー、すいません。えーっと、これはですね、ゴミの不法投棄が問題になってるところに建てられた祠なんですよ」

「……なんでそんなところに祠立てるんだよ。ゴミの供養でもすんのか?」

「いやいや。これは不法投棄対策なんス。神社でゴミポイ捨てする罰当たりなこと、しないでしょ。そういう畏れ多さに訴えるように、ゴミを片した場所に置いたんですよこの町。すると見事に減ったんです、ゴミ! いやぁ、俺、これ見た時賢いなあって思いまして。頭やわらけ〜」


なるほど。

そう言われてようやくわかった。

不法投棄の対策。信仰の対象となるものを置いておき、信心に訴える方策か。

確かに悪くない手だと思う。少なくとも、立て札なんぞよりよっぽど効果的だろう。捨てる人間さえ減ってくれれば、防犯カメラを置く必要もない。


だが……。


……祈ったりするためのものだろ。こういうのは。なんだろうな。もっと、それこそ、畏れ多いもののはずだ。

それをゴミ捨て防止としてだけ使うのは……


良いのだろうか。


そう思えたのもまた事実だった。


「どーしたんですか部長。顔色暗いですけど」

「ああ。いや、ちょっと考え事をな。そういえばお前、帰りは手向駅から乗るだろ。駅までの途中に地蔵あるよな。あれもこういう対策だったりするのかね」

「地蔵? そんなんありますっけ」

「あるよ。あのセブンの近くの十字路手前に」

「はぁ。確かにそういう立地ならゴミのポイ捨てありそうですし、こういうののひとつな可能性ありますよね」

「まああれだいぶ古かったから違うかもしれん」

「自分で否定しないでくださいよ。身近にこういうのあるんだー! ってちょっと嬉しかったんすけど」

「それはすまんな。……そろそろ時間だ。仕事に戻れ」

「はーい」




翌日。

西川が、死体になって発見された。

トラックに轢かれて、その首は潰されていたらしい。

真夏日だ。きっとスイカのように砕けていたのだろうとぼんやり思った。


セミが五月蠅い。



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未確認性ハイエルフ3世 @dj_unjga


ジジイ「お前あの祠壊し短歌」


「この祠 壊そ」と君が言ったから

八月六日は因習村爆発エレクトリカルパレード開園!


ミサトさん、俺、死にたいんですよ


2024年8月12日16:31 15表示

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雲霜雪霙 @kumoshimoyuki_mizore


なんか地元の祠壊されてたんだけど。神様の家なのにとんでもない罰当たり過ぎる。こういうの最近多いみたいだし。モヤモヤする。不愉快



【画像】



2024年8月12日16:56 68.2万表示

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George michael✔@michael9632

返信先:@kumoshimoyuki_mizore

おはようございます♥


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YMMA✔@dinosaur4120

返信先:@kumoshimoyuki_mizore

なんか地元の祠壊されてたんだけど。神様の家なのにとんでもない罰当たり過ぎる。こういうの最近多いみたいだし。モヤモヤする。不愉快


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「じーちゃん、なんか祠が壊れてたんだけど」

「まー、壊れるわなあそりゃあ」


夕食の席での、優子の祖父の反応は想像以上に穏やかで、拍子抜けだった。


優子も流石に、祖父が洒落怖みたいに「なんじゃと!? 祠が壊れとったとな!? 大変じゃ。住職さんを呼んでこい!!」な反応をするとは思っていなかった。しかし、もう少しテンションの高い様子が見られると思っていたのだが。


テレビのニュースでは、遠くの町で起きた凄惨な交通事故が取り上げられている。


祖父は枝豆をつまむ。

そんな祖父に、優子は問う。


「あれ、何祀ってたの。去年帰ってきた時はなかったよね」

「なんにも」

「え?」

「空っぽだ。何にも祀ってない。そもそもそのためのものじゃないんだわ。あれは形だけ真似た贋物よ」

「はぁ? なんでそんなもの置いてたのよ。現代アート?」

「あれを置いとくとゴミを捨てられんのよ。みんな罰当たりだと思うんだとさ」


そういうことかと納得した。

でも結局壊されてるじゃないか、という感想が優子の喉まで迫り上がってくる。


「まぁ、壊れたなら直せばいいだけだ。どうせ中身なんかない贋物なんだから」


祖父はそういって、缶ビールを煽った。


「嘘やろ。

そんなんありえへんて。

だったら俺が見たんは何や。


不法投棄対策?

ポイ捨て防止装置?


ぜんぜん違うわ。


新しい祠を線で繋げば六芒星! とかふざけたこと抜かすつもりもあらへん。


……あれは、何や。


不法投棄対策なら、形だけ真似すりゃ済む話。

祠の中身を詰める必要なんかないはずや。

社ン中になんか入れとく意味ないんやろ。


御神体なんか、祀るモンなんか、最初から無い。

形だけの装置に過ぎひんのやから。


せやから。


せやからって!



あれ何や。



あの白いの、何やねん。



中に入ってたあれ何や。


ヒヒ


動いとった。


ヒヒヒ


ぴくぴく動いとったがな!


ヒヒヒヒヒヒ



ぴくぴく動いてチィチィ鳴いてたありゃなんやヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」



部屋の隅で金髪の男が騒いでいた。

優子はテレビのニュースをぼんやり眺めている。

祖父はビールを新たに開けた。




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ニシカワ @syatiku_yadeee


頭が痛いです

部長も早く来ればいいのに


2024年8月5日2:06 0表示

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