第14話 来た話

 このような掌編連作小説を書いているとネタに困ることがある。そういう時は自らの実体験や、他の人の怪異体験談を参考に話を作る。今回は、なんとなく「もっこ」を思い出したので、それを軸として書こうと思う。


 寝ない子のもとにはお化けが来る。古今東西よくある話だ。絵本にだってなっている。

 家人の場合、それは「もっこ」という妖怪だったという。もうもう鳴くらしい。初めて聞いたとき、真っ黒な毛むくじゃらをイメージした。


 簡単に調べてみると、家人の出身である東北の方ではメジャーな妖怪らしく、「山からもっこが来るぞ」とか「もっこに皮を剥がれる」なんて話が幾つもヒットした。「もっこ」それ自体が妖怪を示す言葉である、なんてネットページも見つかる。インターネット故、半分に受け止めるべきだとは思うが、なるほど、なかなか有名なようで、少なからず驚かされた。

 どうやらその名前は蒙古に由来するらしい。蒙古が何かを説明する必要はないだろう。子供がいうことを聞かないと「蒙古が来る」と脅したというのが、形を変えて妖怪となったようだ。直接的な被害を被った九州周辺ではなく、東北で語り継がれているというのがなんだか面白い。


 子供をしつけるための妖怪は本当に多い。ヨーロッパではブギーマンが有名だ。親のいうことを聞かない子供を、ブギーマンがさらうという。


 さて。この辺りまでは調べれば簡単に分かる妖怪の話だが、昨日よく分からないものの話を聞けたので紹介しようと思う。


 高校時代の友人と偶然再会したときに聞いた妖怪だ。

 彼の家では、遅くまで起きていると、このように言われたという。

「寝ない子だーれだ。ででっぽっぽぉ」


 意味はぼんやりとだが分かる。寝ない子を寝かしつけるための言い回しだ。だが、ででっぽっぽぉとはなんだろうか。妖怪の名前か。となれば、寝ない子の元にこれが来るのだろうか。

 初めて聞く言葉に不気味さを覚えつつ、検索をかけてみたところ、意外なものがヒットした。


 ででっぽっぽとは、鳩の鳴き声だという。

 鳩と言えばぽっぽと鳴きそうだが、でっでーぽっぽーといった具合に鳴くものもいるらしい。

 となれば、ででっぽっぽぉとは鳩なのだろうか。

 鳩。ブギーマンや蒙古に比べると、どうも恐さが足りてないように思えるが。

 だが更に鳩に関する民俗知識を掘り下げると、このようなものがあると分かる。

「鳩が夜鳴くと、人が死ぬ」


 寝ない子は夜に鳩の鳴き声を聞いてしまうぞ。聞く前に寝なさい。そういう意味なのだろうか。だが、この友人の出生地と、鳩の夜鳴きの俗信がある土地は全く異なっている。簡単に結びつけられる気はしない。友人の親族がその地方出身の可能性もあるが、そこまで調べるつもりもない。なのでこの話は紹介のみにとどめることとしよう。分析などと大層なことをする気はない。



 名前を呼ばれた気がして玄関に出たが、誰もいなかった。玄関戸は閉まったままである。気配もない。扉の向こうに人影が見えたりもしない。気のせいだったようだ。


 執筆が中断してしまった。だが、ちょうどよかったかもしれない。これ以上書けることもないし、なんだか矢鱈に眠い。長く推敲している余裕もないので、第十話は『もっこの話』、いや『鳩の話』として、投稿することとしよう。


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