第24話 『ハーレム症候群D型」3
「嘘つけよ。だったらそこの若いマッチョを連れてさっさと帰れよ。代金はボクが出してやるからさ。なんならイケメンエルフもいっしょにつけてやろうか」
先生は本気の目だ。
いくら男の奴隷でも決して安くないのだけど、全額出すつもりだ。
脅しではないのは男にも伝わったようだった。
「い、要らないよ。そんなのお前が勝手に買えばいいだろ。俺には関係ないんだが」
先生は男を無視して店主の方を向いて言う。
「店主、あのマッチョはいくらだい? 他に腕の立つ男の奴隷がいれば見繕ってよ。彼は仲間を欲しがっているようだからね。なんせわざわざ異世界から来た救世主様だ。きっとこれから壮大な冒険に繰り出すに違いないよ。なら強力な仲間がたっくさん必要になるってことだよね。そんな君の仲間探しに協力するのに力を惜しむようなケチなボクじゃないさ。代金はすべてボクが言い値で払おうじゃないか!」
「ちょ、待てよ! 俺は連れて行くなんて言ってないぞ。なんでそんな男ばっかりなんだ。せめて女……」
先生が男の方を向いた。男はしまったという顔。
「やっぱり女がいいんだ」
男はくちをぱくぱくさせていたが、開き直った。
「そ、そうだが? 大金をはたいて奴隷を買うんだ。だったら女を、美少女を買うに決まってるんだが?」
「最低な発言だが、いいね。それが本音だね? ボクはそっちのほうが好きだけどな」
私は人間として終わっていると思いますけど。
「かわいそうだからとか、惹かれるものがあったとか、ピンときたとか、そんなおためごかしは要らない。要は君は若くてかわいい女の子の奴隷が欲しかったわけだね。異世界に来てカネに余裕ができたから、それで女奴隷を買って自分の欲望をぶちまけようと、そう考えたわけだね?」
言葉にして説明するほど最低な発想だ。
「そ、そうだが? それがお前になにか迷惑でもかけたのか? たしかに奴隷を買うのは違法行為かもしれんがそれはお前も同じなんだが」
先生は「うんうん」と声に出しつつ頷きながら男奴隷たちを開放していく。
「お、俺は別の奴隷商のところへ行って他の奴隷をあたる。だからその男たちは元の場所へしまってほしいんだが。なぜ俺の後ろに並べようとするんだ。おいやめろ! 整列させるな! 迷惑なんだが!?」
先生は勝手に支払いをすすめて、数名の男性の奴隷を異世界人さんの側に配置していく。
あわてて異世界人さんはその場から遠ざかる。
その様子を見た先生はひとつため息をつくと、今度は妙に優しくゆっくり話しだした。
「なあ、君はそれなりに強力な能力も与えられているようじゃないか。異世界人らしくさ」
「そうだが! 俺がその気になればお前なんて消し飛ばせるくらいの能力があるんだが?」
「だったら、なぜそれを活かして仲間を探そうとしないんだ?」
「それは、急いでいたからだが? 俺は人を信用できないから信用できる奴隷が欲しかっただけだが?」
先生今度は深いため息をつき、悲しそうな顔をして言った。
「君の頭はゴム風船か何かなのか? いいかい。理解できていないようだからボクが丁寧にこれからどうなるか説明してやるから、風船なりに空っぽの中身にボクの言葉を詰め込むつもりでよぉく聞くんだよ。まず、君がこの奴隷少女を買ったとしようか」
先生は奴隷少女の前に立つ。
奴隷少女はまだぽかんとした顔で先生を見上げていた。
「君は奴隷処女に『ただ普通の扱いをしただけ』なのにものすごく感謝される。とてもいい気分だろうね。服を買い与えたり、一緒に食事を取ったりするだけで感謝されるのだからね。大した努力もせずに喜んでもらえるのは楽だろうねぇ」
奴隷少女は首を可愛らしくかしげている。
先生はその奴隷少女の頭を優しくなでてやる。
奴隷少女は目を細めて気持ちよさそうにしていた。猫みたいだ。ネコ耳族なので猫に似てるのはあたりまえだけど。
「しかも君のお願いは何でも聞いてくれるんだから、まるで持ち歩くメイドだ。いや、メイドは屋敷の中で奉仕するだけで済むが、奴隷少女はそうはいかない。どこに行くにも連れ歩かれ、君の言うことには『はい』と答えるしかなく、いつでもどこでも君に甲斐甲斐しく仕えさせられることだろう。だって奴隷だからね。屈辱的だろうな。つらいだろうなぁ」
いきなり先生は男を指さして叫んだ。
「だが、君はそんな奴隷少女にいずれ恋愛感情を抱くことになる!」
また先生お得意の決めつけこじつけ未来予想図講義がはじまっちゃった……
「なんの話だよ! 俺はそんなことはしないんだが!? 俺は人を好きになどならない、人を信用出来ないんだが!?」
「まあ、黙って最後まで聞きなよ、変態異世界人くん。君がいくら好意を寄せたところで相手はイエスと答えることしか許されない奴隷なんだ」
興奮する男を遮って先生は続ける。
「それで君は本当に満足できるのかい? 相手は奴隷だよ? 人形に話しかけているのと変わらないんだよ? いや、人形と喋っている方がまだ健康的なくらいだよ。君がいくら『お前はもう奴隷じゃないからな』なんて言ったところで、そんな言葉を本気で受け取れるわけがないんだから。相手は心の中で『何言ってんだこいつ、殺してやろうか』と思っているに決まっているじゃないか」
先生、いくらこの異世界人さんが変態でおバカでもまさかそんな事するはずないじゃないですか。
ないですよね?
「わざわざ奴隷商で奴隷の少女を買うような男の言葉なんて信じられるわけがない。君は奴隷の少女相手に『好きだ』なんていう男を見てそれを本当の愛だと感じるイカれた神経を持ち合わせていたりするのかな? この際、断言してあげるよ」
先生は腰に手を当てて指を振り下ろしながら宣言した。
「奴隷少女は自分を買った君のことを恨みこそすれ好きになるなんてことは絶っ対にない!」
それはそうだろうって私は思ったんだけど、異世界人さんの方はなにやらショックを受けている様子だった。
「そんな相手に無理矢理言わせた偽りの『好き』を君は一生大事そうに抱えて生きていくつもりなのか?」
もし本当にそうなれば最低だと思うけど、異世界人さんはまだ奴隷を買ってすらいない。
「それは……奴隷少女にとってご主人様が大切な存在だったら、好きになることも、あ、有り得る話なんだが?」
ありえない話なんだが。
あながち先生の決め付け予想も間違ってなさそうなのが怖い。この異世界人さんはほんとに奴隷の少女に優しくすれば自分のことを好きになってもらえるとでも思っていたようだ。正直、超キモい。
「奴隷を買うなんてバカな発想をするだけのことはあるね。見ろ、リコくん。重度の異世界性ハーレム症候群ではここまで脳内がお花畑になるようだよ」
わ、私に話を振らないでー!
「だが安心しろ。ボクが君を治療してあげよう。いいかい、エセ人間不信異世界人くん。ボクは、あり得るかどうかを聞いているんじゃない、その『偽りの愛で満足なのか』と問うているんだよ」
異世界人は答えない。
「君はそんな卑劣なやり方で女性を手に入れて自分が情けないと思わないのか? しかも君は童貞だね? 彼女もいたことがないんだろ? 初めての相手が奴隷少女なんて、悲しすぎると思わないのか? 自分のことを内心殺してやりたい、吐き気がするほど気持ち悪い、だけど逆らえずに嫌々一緒にいる、そんな少女が初めての相手で君は満足するのか?」
そういう先生は、彼氏いたことすらないですけどね。それに処女ですよね。
「ひどい決めつけだな! お前の言っていることはすべて勝手な妄想にすぎないんだが!」
ようやく反論した異世界人さんの言葉はもう先生には全く届かない。
「こんなひん曲がった変態的な女性との関係の持ち方をしてしまえば、二度とまともな恋愛など出来なくなるだろうね。たとえ君が将来普通の恋愛をしようとしても、もうまともなお付き合いなんて出来やしないよ。結婚したい相手が現れたときに君は胸を張ってその人のことを好きと言うつもりか? それとも君はその奴隷少女と結婚するつもりなのか? それくらいの覚悟を持ってその奴隷少女を買おうとしていたのか?」
「そ、それは……」
異世界人の男は完全に戦意を失ってしまったようだった。
ということは先生の言うことは当たっていたということだ。
私は正直すでにドン引きだった。
「ひどい? 妄想? それは君の方だ! 目を覚ませ!本当は女の子が大好きだけど過去の苦い経験から女を怖がっているだけの異世界人くん…………!!」
先生はつかつかと異世界人の目の前にたって、彼を見上げるようにしていった。
「――――――君には他の人間にはない力があるんだろ?」
「――――!?」
一瞬時間が止まったように静まり返った。
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