第11話 『悪役令嬢症候群』5
「君、大丈夫? ブツブツ独り言を言っているけど具合でも悪いのかい?」
私が先生と口論をしている間に、また別の男が近づいて来て、声をかけてきた。
あわてて笑顔を作って対応する。
「はい、大丈夫ですわ。ちょっと酔ってしまったみたいですわ」
「そうか、それならよかった。ところで、君はとても美しいね。どちらの御令嬢かな」
私に声をかけてきたのは――王子だった。
さっき怒りの表情で婚約破棄を宣言していた王子。
――先生っ! 王子きた! 王子きた先生っ!
(落ち着けリコくん。予定通りだ。酔ったふりをして王子に倒れかかれ! 胸だ、胸元が見えるように! 胸の谷間から目を離せる男はいない!)
――そんな
それに相手は王子様。きれいな女性はよりどりみどり。私なんかの胸の谷間に気を取られるなんてそんなこと、あるわけない。
――でも、やるしかないっ
「おっと、大丈夫ですか。これはいけない、ちょっと休まれたほうがよいのでは」
私がわざとらしく王子に倒れかかると王子は優しくそれを支えてくれた。
「すみません、どこか休める場所はありますか」
「かまわないよ。私が静かな場所まで連れて行ってあげよう」
王子は私を優しく抱きかかえる。
悲しいことに本当に王子様の視線は私の胸元に釘付けになっていた。
――嘘。うまくいっちゃった
(だから言っただろう、男の行動原理なんてボクにかかれば全てお見通しなんだからな!)
先生の得意げな声が頭に響いていた。
なのに先生は男性経験ゼロですよねってツッコミはいれなかった。
私って優しいよね。
舞踏会の会場を抜け出した王子は私を何処かの部屋へ連れ込んだ。
そこには天蓋付きのフカフカのベッドが置かれ、ほのかに香る高級そうなお香の香りが漂っている。私はまるで夢の中にいるかのような錯覚を覚えた。さすがは王子。やりおる。
――先生! 先生っ! 王子と二人きりになることには成功しましたけど、私、これからどうなっちゃうんですかっ!?
(性交するのはこれからだろ)
――そうじゃなくてっ! 私まだ心の準備ができてませんっ!
ベッドの上で寝たフリをしている私の上に、王子がギシリと覆いかぶさってくる。
(なんだ、白馬の王子様が君の好みだったんじゃなかったのか?)
――そうですけど、会っていきなり……するなんて、そんなの嫌ですっ! こういうのはもっと時間をかけて、まずはデートして、三回目のデートでキスして、そして……
(めんどくさい娘だね君は。はぁ……わかったよ)
「大丈夫かい? 今楽にしてあげるからね……」
王子のささやき声が耳元で聞こえる。私のドレスの肩紐が外される。
――ついに、この日が――!
「ふっ」
王子は低いうめき声を上げて勢いよく私の上に倒れ込んできた。まるで獣のように!
――き、きた! 私、私、ついに大人になるのねっ!
私はぎゅっと目を閉じる。
「よーし、よくやったリコくん。お疲れ様だったね。作戦はとりあえず成功だ」
――せ、先生!? せめて行為中くらい話しかけてこないでくださいよっ! それに性交するのはこれからですって、あれっ?
先生の声が「耳」から聞こえた。ということは。
私が目を開けると、王子が私の上に覆いかぶさるように重なっていた。
だけど王子は眠っているようで、動かない。
横を見るとそこには白衣を着た先生が立っていた。
「先生――――っ!? どうしてここに!?」
「どうしてもこうしても、君が嫌だって言うから助けに来たんじゃないか。いくらボクでも君の大切な│初めて《バージン》を好きでもない相手に無理やり捧げさせるような真似はしないさ。王子はボクが眠らせておいたよ。安心してくれ」
――この人は! この人は――――っ!!
「先生は男性だけじゃなくて、女性の行動原理なんかも勉強されたほうがいいんじゃないですかっ?」
私はふてくされながら王子を押しのけて起き上がる。
「ボクは女なんだからそんな必要ないだろ。何を怒ってるんだよ」
「はいはいわかりました。それで、これからどうするんですか?」
「うん。既成事実としてはこれ以上ないものが作れた。パーティーの最中に抜け出して密室に男女が二人きり。言い逃れのできない状況だ」
王子様は意外とチョロかった。まさかこんなに簡単におとせるとは思ってもみなかった。そういえば歴代の彼氏たちもいつも視線が少し下だった気がする。男ってみんなそうなの?
「王子はボクが合図するまでは目を覚まさない。君はそのまま王子の横で寝てればいい。そのうち悪役令嬢かヒロインが王子を心配して探しに来る。この部屋をみてベッドで抱き合う君たちを見れば三角、いや君も加えて四角関係の完成だ!」
――考えることがエグい。
まさか先生は最初からここまで予想していたのだろうか。
「ん――――既成事実には少々物足りないな。王子の服は剥ぎ取っておくとするか!」
そう言うと先生は一切の遠慮なく王子の服を全て剥ぎ取って全裸にしてしまった。
私はお父さん以外のを見たのはこれが初めてだった。なんかかわいかったです。
「ボクは自分に認識阻害をかけてその辺に隠れているから、誰かが入ってくるまでゆっくり休んでいてくれ」
「裸の男性が隣りにいるのにゆっくり休めるわけないじゃないですかっ!」
「そうか? なんなら規制事実じゃなく本当にしてしまっても作戦に問題はないんだが、王子起こす?」
「それはちょっと……それに先生の見てる前でってのは嫌ですよ!」
「ほんとにめんどくさい娘だね。ボクなら誰が見てようと全然気にしないけどな」
普通は気にするものですよ。先生が特殊すぎるんです。
――先生を基準に乙女心を語るのはやめさせなければ。人類のために。
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