第9話 『悪役令嬢症候群』3
私の名前はリコ・ハートリング。一八歳。
高校卒業したてのどこにでもいる普通の女の子。
(そんないやらしい体つきをしておいて普通の女の子はないだろ……)
今日は悪い魔女に騙されて舞踏会に無理矢理参加させられちゃった!
(誰が悪い魔女だ!)
しかも王子様を口説き落とせだなんて言われて、これからどうなっちゃうの私!?
(どうもならん。いいから早く王子の近くに寄れ)
「もう! うるさいですね! この念話ってスイッチ・オフにできないんですか」
私は小声で叫ぶ。もちろん、話している
(これは念話じゃない。脳波の交信を行っているだけで、れっきとした医療技術の応用だ。たしかに精神感応系のスキルでも持っていればカットすることもできるだろうが……)
私の頭には、先生の声が直接届いていた。しかも、私が考えていることは全部先生に筒抜け。
これって、本当に医療技術って言うんですか?
こんなに私のプライバシーを覗かれるって、もう精神干渉ですよね?
それってたしか違法行為ですよね!
(君の思考が漏れてるのを拾ってるだけだ。問題ない)
「問題大ありですよぉ……」
先生に常識が通用しないのはここ数回のお仕事でよくわかっていたのでこれ以上の抵抗はやめた。
衝撃の婚約破棄発表の後、騒然としていたホールのざわつきがようやく収まったところでドレスアップした私は投入された。
実際にキラキラの舞踏会のど真ん中に放り出された瞬間、私の自信は全て吹き飛んでしまった。
本物の貴族ってやっぱりオーラがすごい。
服装や装飾品や化粧だけじゃない。その物腰や仕草に至るまで全てが洗練されていた。
やっぱり、こんなところで私なんかがまともに張り合えるわけがない。
(リコくん、猫背になってるぞ。なんだ、そんなに胸をアピールしたいのか? だったらその上にコップでも乗せてストローで飲みながら歩くといい。ただでさえ胸元が大きく開いているんだ。そんなにかがむと中身が全部見えてしまうぞ)
先生に言われて、私はあわてて背筋を伸ばす。
肩も背中もフルオープン。胸元はおへそのあたりまで開いている真っ黒なドレス。腰のあたりまで入ったスリットのせいでほんの少しボリュームのある太ももが歩くたびに付け根まで見えてしまう。確かに派手で、見るものを圧倒する。私の金髪と白い肌との対比もこれ以上ないほどに映えている。だけど、一歩間違えば痴女だ。
(大丈夫だ。とある国では胸部をあえて晒すのが正装だったりすると聞いたことがある。あと君の太ももの太さは同年代の女性の平均値をかなり上回っているからほんの少しという表現は少々語弊があるな)
「なにが大丈夫なんですか。外国の話をしても仕方ないですよっ! あと、太ももは気にしてるんですからほっといてください」
それでも先生の『黒い露出ドレス作戦』は効果はばつぐんだった。
確かに周りは明るい、白に近い薄い色のドレスを着た女性が多く、濃い色といえば赤や青程度。
周りが明るい色に包まれた中で、私の黒いドレスが光り輝いていた。まるで一輪の黒い薔薇が白い庭園に咲いたかのように、目立つ存在感を放っていた。と思う。
私はすぐに男性たちから声をかけられた。それも次々に。まさに入れ食い状態。
歴代の彼氏たちからは一度も聞けなかったような称賛の言葉の数々。きれいだね、美しい、天使みたいだ、素敵なドレスだね、などなどなど。
さすが貴族の男たちである。
女性の扱いによく慣れている。
さらには他の女性からの突き刺さるような嫉妬の視線。
私は少しずつ自信を取り戻していった。
(まるで
――き、気持ちいいっ――――!
これが輝くということなのね。
これが羨望の眼差し。
これが上流階級の集い。
これが貴族のパーティー!
さっきまでの不安が少しずつ消えていく。
私なんかでも注目されるんだ!
私なんかでも皆が見てくれるんだ!
私ここにいてもいいんだ!
結婚! 玉の輿! 一攫千金!
(落ち着け、リコくん。君はおっぱいと爵位だけの公爵令嬢だ。実家は没落貴族のままなんだ。本当に上流階級の仲間入りをしたいのなら、ヒロインと悪役令嬢を出し抜いて、王子を口説き落として手に入れるんだ)
「わかりました先生。私、がんばりますっ!」
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