第6話 ソウタの初勝利

  ソウタの前に現れたのは液体状のモンスター。


 体は粘質性の高いぷにぷにっとした体で、


 緑色の体をしている。


 手や足はまるでないが、


 目や鼻、口といったものも見当たらない。


 遠くから見ればただの水滴だ。


 見る限りではサッカーボールぐらいの大きさだろうか?


 次第にスライムはこちらに近づいて来る。


 それも1匹ではない。


 ガサガサッ


 ガサガサッ


 4体のスライムにソウタはすでに囲まれていた。


「ねぇ、これってすでに危険じゃない?」


「うん、まずい状況ではあるよな」


 スライムはお互いの距離を一定に保ちながら、


 少しずつソウタとの距離を縮める。


 音に反応するのか?


 ソウタが動きを止めると、


 スライムも動きを止めた。


「こいつら音に反応するのか?」


「バケツの音で集まったんじゃないか?」


 ソウタは首を振って、


 バケツの位置を把握する。


 いきなりスライム4体に囲まれるとか、


 転生したら強い武器とかスキルで無双できると思ったのに……


 待てよ? もしかしたら。


 何かを閃いたソウタは、


 足元に落ちている掌サイズの石を拾い、


 バケツに向かって投げた。


 ガスッ!


 スライム達は音のしたバケツの方へ動き出した。


「今のうちだ!」


 ソウタは距離を作り、一目散にダッシュしてその場から逃げた。


 しばらく逃げると、


 休憩できそうな場所に出る。


 ソウタは息を整えるため、


 背中を機にもたれさせた。


「やるなぁ、やっぱり音に反応するのか?」


「へへ、いやあいつらは多分音は聞こえないよ」


「聞こえない?」


「あぁ、あいつらが感知できるのはおそらく振動だ。現に俺が声を出してるのに、近寄ってこなかった。バケツに当たって落ちた石の振動が地面から伝わってあいつらはそれを感じ取ったんだよ」


 スライムには目や鼻、


 口や耳といったものは一切なく、


 体で振動を感じ取っているとソウタは判断したのだ。


「なるほど、そういうことか」


 ソウタは息を整えた後、


 元いた場所に戻るため、


 歩き始めた。


「おい、どこに行くんだソウタ」


「決まってんだろ! 倒してバケツ手に入れないとな」


「バケツ?」


「そうだよ、俺はソフィアさんの世話をしないといけないんだから」


「なるほどね、でもどうするんだ? またスライムに襲われるんじゃないのか?」


「さっきはびっくりしただけだ! 次は絶対に倒してやる」


 そういって、ソウタはバケツを取り戻すため、


 さっきの道を引き返す。


 バケツのそばにはスライムが4体ウロウロしていた。


 しばらくは周りを警戒していたのだろうか、


 お互いに特殊な方法でコミュケーションをとっているようだ。


「さて、どうする?」


「さっきと同じ要領だよ」


 ソウタは足元の石を何個か手に持つと、


 1つはバケツの右側、


 もう1つはバケツの奥、


 そしてバケツの左にも投げた。


 スライムは反応して、


 散り散りに分散した。


「よし、これで1対1」


「一か所だけ2体だけどな……」


「細かいことは気にすんな!」


 ソウタは飛出し、


 まず右のスライムに狙いを定める。


 スライムはソウタの存在に気づくが、


 ソウタの動きの方が一瞬早い。


 ソウタは勢いよく右のストレートをスライムに放つ。


 ぶにっ


 スライムの体はソウタのストレートで、


 勢いよく吹き飛んだ。


 よし、残り3体!


 ソウタは次に真ん中の2体を標的にする。


 すでにスライムはこちらの存在に気付いている。


 スライムの警戒心はMAXだろう、


 襲い掛かるスピードは今までの比ではない。


 ソウタは体制を整えて、1匹目のスライムの突撃を避ける。


 2匹目の攻撃を腕で受け止める。


 スライムは細長く、


 形状を変化させながら、


 ソウタの腕に絡みついた。


「くっ、この!」


 腕に絡みついたスライムの端をもう片方の手で掴み、


 勢いをつけて、


 地面に叩きつけ、左足で踏みつける。


 残りは2体……


 挟まれるような形になったソウタは、


 そのまま正面のスライムに狙いを定めた。


 後ろから気配を感じる。


 だが、そんなのはお構いなしに目の前のスライムに集中した。


 ソウタは走ってスライムに近づき、


 大振りで右足で蹴り上げた。


 スライムの体は見事に変形し、


 天高く蹴り上げられた。


 スライムは木の枝に引っかかり、


 体をだらーっとぶら下げて、


 動かなくなっていた。


 ソウタは最後のスライムに狙いを定めるため、


 後ろを振り向く。


「あれ?」


 スライムが見当たらない。


「もしかして逃げたとか?」


「どうやら、そのようだね」


 ソウタは初の戦闘に気が楽になったのか、


 肩の力をふっと抜いた。


「なんだ、スライムも大したことないじゃん」


 倒したスライムは、


 体の水分が抜けるように縮こまり、


 やがて皮のようなアイテムに変わった。


「これがアイテムだよな。ソフィアさんに転送したらお金に変わるはず」


 ソウタはソフィアから受け取った魔送石をかざすと、


 それは次第に光だし、


 魔送石に吸い込まれるように消えていった。


「うおっ! すげぇ、こんな感じか!」


「それはソフィアのばあさんから受け取ったのか?」


「あぁ、そうか神さまは寝てたもんな。これはソフィアさんから受け取ったモンスターをお金に換えることができるアイテムらしいんだ」


 ソウタは受け取った魔送石を神さまに自慢そうに語った。


 どうやら、初勝利に浮かれているようだ。


「おい、ソウタ、浮かれるのは構わないがスライムを倒しただけだぞ?」


「大丈夫だって、スライムならいくらでも倒せそうな気がするから」


 ソウタが自信ありげに語って勝利の余韻に浸っていると、


 ガサゴソと周囲から音が聞こえる。


「お、またスライムか?」


 ソウタの顔は自身に満ち溢れている。


「ったく、気を引き締めないと危険な目に遭うぞ?」


 周囲の音は次第に大きくなり、


 やがて、


 大量のスライムがソウタを囲っていた。


 先程逃がしたスライムが、


 仲間を呼んできたのだろう、


 スライムに感情は無いとは思うが、


 何やら危険な雰囲気を出しているのは、


 ソウタにでもわかった。


「ん~っと、これは」


 すでにソウタの顔には笑顔はなくなっていた。


「スライムぐらい、いくらでも倒せる……だろ?」


 神さまは笑いながらソウタを挑発した。


 緊迫した空気が張り詰める。


 体を少しでも動かせば、


 スライムは一気に動き出すだろう。


 周囲に気を配っていると、


 足元になにか違和感を感じた。


「なんだ?」


 そこには、


 グルグルと足に巻き付いたスライムだった。


「うおっ!」


 思わずソウタはその場で足を上げて、


 スライムを振りほどこうとする。


 次の瞬間、


 スライム達は一斉にソウタに飛び掛かった。


「ぎゃあぁぁぁ!!!」


 森中にソウタの叫び声が響き渡った。

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