第7話 森の攻略

  ソフィアは右手にホットの飲み物を持ち、


 山小屋を背に向けて、


 外で景色を眺めていた。


 山小屋は崖の上にあり、


 森を一望することができる。


 夜ということもあって、


 周りは静かで、


 雲に漂う月と森の薄暗い雰囲気が幻想的だ。


 山小屋の中は、


 タンスやテーブル、


 ベッドやキッチンなど、


 一通り生活できるほどには揃っており、


 しばらく人の出入りが無かったからか、


 埃だらけではあるが、


 少し掃除をすれば、


 使えないことは無い。


「ふぅ」


 ソフィアは飲み物を軽く口に含むと、


 外に置いている机の上にゆっくりおいた。


「ぎゃあぁぁぁ!!!!!」


 森中にソウタの声が響き渡る。


 その声は崖の上にある山小屋まで届き、


 ソフィアは満面の笑みをこぼした。


「ふん、この森の洗礼を受けているのかい。なかなかに面白い声を上げるじゃないか」


 杖を体の前で突いて前かがみになりながら、


 ソフィアは森の中を凝視した。


「どぉれ、ソウタは今どこにおるのかな? スキル【千里眼】発動!」


 千里眼のスキルによって、ソウタの体温などを頼りに、


 遠くにいるソウタの位置を透視した。


 ソフィアはソウタの周りに大量のスライムが取り囲んでいるのを確認する。


「おやおや、さっそくスライムの大群に出くわしたのかい? スライムは1匹なら大したことは無いが、あれだけ大量にいると今のソウタには難しいかもしれないねぇ。『塵も積もれば山となる』か……」


 ソウタはスライムから逃げたり、


 応戦したりして、


 何とか生き延びているようだ。


 この森にはスライムだけではない、


 夜の森を徘徊するグールやゾンビ、


 木のふりをしたトレント、


 凶暴なワーウルフなど、


 危険がたくさん潜んでいる。


「まぁ、ここまでたどり着けないなら、それまでの男なんだろうね」


 ソフィアはそういいながら、


 机の上に置いているすでにぬるくなった飲み物を、


 右手に持って、


 杖をつきながら山小屋の中に入っていった―――





 ―――ソウタはすでに2時間以上、


 森の中を練り歩いていた。


 スライムの大群をなんとか退け、


 少しずつ応戦しながら、


 ソウタは道なき道をひたすらに歩き続ける。


 周りは蔓の垂れた木や、


 苔の生えたゴツゴツの岩、


 奇妙な動物の鳴き声が、


 夜の森の不気味さをより一層引き立たせていた。


「はぁ、はぁ、ったくソフィアさんは一体どこにいるんだろう?」


「さぁ、だが彼女のことだ。どこかで見ているに違いないさ」


 神さまと会話をしながら森の中を歩いていると、


 どこからか水の流れる音が聞こえる。


「ん? もしかして近くに川でもあるのか?」


 ソウタは水の音を頼りに険しい森の中を歩いた。


 約5分程したころ、


 目の前に小さな川が流れていた。


 大きくは無いとしても、


 貴重な水だ。


 川の周りには、


 キノコや小さな果実ができており、


 ソウタは疲れた体を癒すため、


 川の近くで膝をついて、


 両手で水をすくった。


 暗くてよくは見えないが、


 ひんやりと冷たく、


 匂いもしない。


 おそらく、汚い水ではないことは確かだった。


 顔を洗い、


 少しだけ口の中に水を含む。


 乾いた喉にスーッと通る水は、


 今まで飲んだ水のどれよりも美味しいと感じた。


「ぷはぁ! 生き返るわ」


「そういえば、ソウタこっちに来てから何もたべてないんじゃないのか?」


「そうだよ、もうお腹もペコペコだよ」


 ソウタは川の近くに赤く実っている果実を1つだけちぎった。


「なぁ、これ食べれるかな?」


「さぁ、やめてくれよ。急に苦しみだすのとか」


「おい、変なこと言うなよ。怖くなるじゃないか」


「だったら、チャレンジしようとするなよ」


 神さまと軽く話した後、


 恐る恐る1口かじって、


 舌で果実に毒が無いかを確かめた。


 毒があると舌がピリピリすると、


 昔誰かから聞いていたからだ。


 舌はピリピリしない。


 少なくとも毒はないようだ。


 味はイチゴに近い。


「うまいぞ、これ」


 ソウタは手に持っている残りの果実を口に入れると、


 他に実っている果実を次々にちぎって口に運び入れた。


「どんだけおなか減ってたんだよ」


「仕方ないだろう何も食べてなかったなんだから。川の上流にいっても果実ってあるのかな?」


 ソウタは気になって、


 川の上流を目指す。


「この川を基準に攻略していくか」


 足元が今にも崩れそうな岩場を、


 一歩ずつ歩きながら、


 ソウタはボソッと口にした。


「そうだね、それにいずれにしろ今日でソフィアばあさんの所にたどり着くのは無理だろうから、もう休んで明日にまた動き出した方がいいんじゃないか?」


「確かに、それはそうかも」


 ソウタは休めそうなところを探して、


 周りに注意を払いながら、


 足を進める。


 岩場を進んだ先に、


 大きな岩を見つけた。


 岩の下は人が入れそうな空洞ができていて、


 川も近くにあり、


 果実も十分にできている。


 ソウタはここで一夜を明かすことにした。


「何とか一息つけそうだな」


「あぁ、だが油断するなよ。夜になると活発になるモンスターは多いからな」


「大丈夫だって、スライムはもう追ってきてないし」


 神さまがソウタに忠告をするが、


 疲れているのか、


 ソウタはさほど気にしていなかった。


 周りの木の枯れ木や枯葉を岩下の空洞にかき集め、


 簡易的なベッドを作ると、


 ソウタは寝転び、


 一時の疲れを癒す。


「いやぁ、最高♪ 森の中で一夜を過ごすっていかにも冒険って感じだよな」


「やれやれ、寝込みを襲われなければいいけど」


 ソウタは水の流れる音をBGM代わりにして、


 そっと目を閉じる。


 微かに鼻をくすぐる草や木の匂いが、


 ソウタの回復を早めているようだった。


 しかし、ソウタに安息の時間は訪れなかった。


 草や木の匂いに交じって、


 何やら獣臭が混じっている。


 それだけではない、


 喉を鳴らすような、


 グルルルルッという鳴き声が聞こえてくる。


 ソウタは目が覚めると勢いよく飛び上がった。


「うぉ! なんだ今の音!」


「ん? どうした?」


「今、獣の鳴き声みたいなのが聞こえたんだよ」


 ソウタは恐る恐る外を覗いた。


 まだ外は暗く、


 月の光が反射して、


 やけに幻想的に見えるが、


 ソウタにはその光景を楽しむ余裕はなかった。


 月の光によって、


 岩の影が地面に映っている。


 そこには、


 岩の影とは別に、


 動いているもう一つの影があったからだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る