16-4 特異個体
シンゲツに乗って駆けていたハクの視界に青色の光が見えた。
(なんだ? アルナ、無事でいて……)
それから目的地に到着したハクの視線に飛び込んで来たのは、血を流して倒れているアルナの姿だった。
(アルナ!!)
そばにはタツアがいて、レッドポーションを飲ませようとしている。
しかし中々飲ませられないようで、その間に再び現れたフレイムドッグが襲い掛かろうとしていた。
気配に振り返ったタツアは魔獣を見て、驚愕と絶望の顔で声を漏らす。
「なんで、また……」
『インパクト』
その魔犬をハクは崖下へ吹き飛ばし、アルナにさっと近づく。
「ハク!? なんで、ここに!?」
ハクを見たタツアは幽霊でも見たような顔をしていたが、それを気にしている余裕は無かった。
「アルナ!」
声をかけても返事は無く、アルナは目を閉じたままだった。
しかし、息はまだかろうじて残っていて、ハクはホッと息をつく。
それからハクは、唸り声を上げている魔犬に視線を向けた。
「鬱陶しいな」
襲いかかってくるフレイムドッグ達に対して、ハクはヴァドから貰った魔術符を取り出した。
『結び守れ』
現れた見えない壁に阻まれて、魔犬はハク達に近づけない。
「シンゲツ、見張っておいて」
シンゲツに魔犬の監視を任せて時間の猶予を得たハクは、アルナにもう一度向き直った。
「どいて」
ハクはもたついているタツアを退けて、アルナの隣に膝をついた。
そして杖からレッドポーションを取り出すと、アルナの口に流し込んだ。
「な、なんで、もう一つ持ってるんだ!?」
驚いているタツアに、ハクはアルナから視線を外さずに言う。
「一つしか持っていないとは言ってない。けど、念の為内緒にしておいて」
呆気に取られているタツアだったが、真剣にアルナを見つめるハクの表情に、それ以上はなにも言わなかった。
薬を飲ませてから程なくして傷は塞がり、アルナはゆっくりと
「ハク? 来てくれたんだ……」
「もう、心配かけさせないでよ。待ってるように言ったのに」
そう言ってハクは困ったように微笑んだ。
「ごめん……」
申し訳なさそうにするアルナを見て、タツアはハクに弁明した。
「俺が行こうって言ったんだ。だけど、アルナちゃんもハクのことを心配して……」
「分かってるよ」
ハクは静かに言って立ち上がり、シンゲツに睨まれているフレイムドッグ達の方に目をやった。
「今はまず、こいつらをどうするかだけど……」
ハクは杖を構えたが、もう数十匹のフレイムドッグが集まっている。奥には頭が三つのホワイトケルベロスの姿も見えた。
病み上がりのアルナと役に立ちそうにないタツアの二人を庇いながら戦うには、敵が多すぎる。
魔術符の効果も、もうじき切れるだろう。
『
ハクは翼に刃を備えた鳥を杖から生み出して戦力を増強しつつ、魔術符の守りが消えるのを待った。
「結界が消えると同時に攻撃する、シンゲツと刃鳥から離れないで」
使い魔に囲まれて杖を構えながら言ったハクに、タツアは思わず尋ねる。
「ハク、お前本当にハクだよな? こんな数の魔獣相手に大丈夫なのか? そもそも盗賊達からどうやって……」
「いろいろあったんだ。後で話すから、今はとにかく……」
その時、ドンッと大きな音と衝撃が広がった。
(え?)
ハクが見ると、一匹の魔獣が結界にぶつかっていた。
それは他のフレイムドッグよりも一回り大きい体で、纏った炎の量も多い。なにより印象的なのは、フレイムドッグの中でも一際赤く血走った凶暴そうな瞳だ。
(特異個体?)
もう一度突進して、見えない壁を破れないことを悟った魔獣は、鋭い爪ついた前脚を大きく振り上げた。
(え? なにを……)
魔獣はそのまま思い切り地面に脚を振り下ろした。
バランスが崩れそうになるほど地面が揺れて、立っていたハクとタツアはふらつき、アルナも座ったまま地面に手をついた。
そして地面に爪を食い込ませた魔獣が、そのまま白い炎を前脚に向かって流すのを見て、ハクはその狙いに気がついた。
(まずい!!)
ハクは咄嗟に振り返って、アルナの手を強く引いて起き上がらせた。
しかしその反動で一歩、崖の方へと体が動く。
同時に、魔獣が放った白い炎は地面を伝って魔術符の守りを越え、崖へと噴き出した。
(クッ、やられた……)
白い滅びの炎で脆くなった足場は崩れ、ハクは崖へと投げ出されていた。
「ハク!!」
一瞬の無重力感の中で、アルナの叫び声が耳に届いた。
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