15-3 魔獣の恐怖
「テメェら、起きろ!!」
ボスの大声に、眠っていた盗賊たちは起き上がり、周囲を見回して愕然とする。
瞳を赤くしたフレイムドッグの群れは、今にも四方八方から人間に襲い掛かろうとしていた。
「剣を取れ! 戦え!!」
ヴァドは魔犬を斬り伏せながら叫んだ。
それからの戦いは、壮絶なものだった。
盗賊達がどれだけ倒しても、フレイムドッグは無限に感じるほど次々と現れるのだ。
『インパクト!』
ハクも身を守るために戦ったが、吹っ飛ばした程度ではすぐに立ち上がって襲いかかってくる。
魔獣の数は増えるばかりで、どんどん周囲が埋め尽くされて行く。
(仕方がないか……)
もう、
『命を貰うよ』
ハクは杖を1メートル位の長さに伸ばすと、『死』を纏わせた。
そして、襲いかかってくる魔獣に杖を当て、命を吸いとる。
そのままハクは杖を振り回して、周囲のフレイムドッグの命を次々と奪って行った。
命を奪われたフレイムドッグは跡形も無く消失した。
しかし、何か違和感があった。
(命が軽すぎる)
一匹あたりの命が軽すぎるのだ。それは生き物を殺していると言うより、
(何か変だ)
ハクは魔獣を倒しながら、何かを探した。
そして見つけた。
「白いケルベロス?」
大きな胴体に三つの頭の白い犬。背中の白い炎はフレイムドッグと同じだ。
そのホワイトケルベロスは、まるで分身を生み出すかのように次々とフレイムドッグを体から出していた。
「ボス、ヴァド! あいつだ!!」
咄嗟にハクは叫んでいた。
盗賊と共闘するなんてどうかと思うが、そんな悠長なことを言っている場合でも無かった。
「ああ、俺にも見えた!」
ボスはホワイトケルベロスを標的に定めると、邪魔なフレイムドッグを斬り伏せながら一直線に向かって行く。
そしてホワイトケルベロスが吐いた白い炎も一刀両断して、そのままボスはホワイトケルベロスを仕留めた。
「やったぞ」
「こっちも仕留めた」
ボスの声に返事をしたヴァドの方に視線をやると、ヴァドも別のホワイトケルベロスを倒していたようだった。
(一匹じゃ無かったのか……)
そしてハクは一向に減る様子が無いフレイムドッグを見て、ハッとする。
(まさか!)
ハクが目を凝らすと、木々の中にホワイトケルベロスが何匹もいるのが見えた。
十匹はゆうに超えている。
「ギャー!!」
盗賊の一人が、ホワイトケルベロスの炎に焼かれているのが見えた。
普通のフレイムドッグなら盗賊の下っ端でも倒せているが、炎を吐くホワイトケルベロスはそうもいかないようだ。
(厄介だな)
そんなふうに思っていたハクは、突然得体の知れない気配を感じて、背筋を凍らせた。
強風のような、燃え盛る炎のような、恐ろしい低音が耳に届く。
(あれは、ヤバい……)
ハクは本能でそう感じ取っていた。ハクは音のする方へと顔を向け、その得体の知れない発生源を見つけた。
ハクの視線の先にあったのは白い
次の瞬間には、その靄に向かって辺り一帯のフレイムドッグ達が吸い込まれていき、視界が白で埋め尽くされていく。
そして、全てのホワイトケルベロスとフレイムドッグを取り込んで、それは本来の姿を現した。
その巨体は木を遥かに越えており、怪物という表現が適当に思えた。
体全体に白い炎を纏い、繋がった胴体からは六つの巨大な頭と前半身が出ている。後ろ足がどうなっているかは確認できなかったが、無数の尻尾が大きくうねっているのは見えた。
まるで伝説にでも出てきそうな生き物だ。その上、血走った凶暴そうな赤い瞳が恐怖を煽る。
一つの頭がハクを見た気がして、ハクはゾッした。
「ヴァァン!!」
白い怪物の咆哮が木々を揺らし、耳をつんざいた。それは、肌を物理的に震わせるような迫力があった。
「インフィニティドッグ、初めて見たぜ」
ヴァドは巨大な犬の怪物を見上げながら呟く。
皆が呆然と見上げている中で、怪物の一つの頭が動いた。
大きな口が開き、隙間から白い炎が垣間見えた。
「ヤバい! 来るぞ!!」
ボスが叫んだが、逃げようが無かった。
白い巨大な炎が、周囲を飲み込んだ。
「「グァーー!!」」
そこかしこから盗賊達の叫び声が響き渡ってきていた。
なす
(何これ?)
熱くは無かった。しかし、痛みに似た何かは、体を苦しめていた。
(これは、『滅び』?)
白い炎が何なのかは分からなかったが、再生したハクが立ち上がった時には、盗賊達のほとんどは倒れ込み、苦しそうに呻いていた。
炎の中で立っていたのは、ボスとヴァドの二人だけだった。
「シンタ! しっかりしろ!!」
ヴァドは近くで倒れていたシンタに必死に声をかけていた。
その表情には余裕が無さそうだ。
一方のボスは倒れた盗賊達を見回してから、低い声で言う。
「ヴァド、こいつらを頼む」
ヴァドは驚いたように顔を上げたが、ボスは巨大な怪物を睨んだまま目を逸らさなかった。
「俺は、あいつをどうにかする」
そう言ってインフィニティドッグに向かって歩いて行くボスの背中に、ヴァドは呟くように答えた。
「はい」
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