第5話 本著は読んでも人気は出ない。

 本著をここまで読んでくださった皆様にひとつ誤解の訂正をさせて頂きたいと思う。ここまでに述べた内容は「私が読まない小説」についてであり、この内容を参考に作品の推敲を行っても「作品の人気」には多分繋がらないということである。


 とはいえ読んでくださった皆様の大きな興味のひとつは「どうやったら作品の人気がでるか?」であると思うので、「私が読まない小説」と「作品の人気」についても、私なりの説明で最後にもう一度持論を熱く語らせて頂きたいと思う。もう少しだけお付き合い頂ければ幸いである。


 まず「私が読まない小説」をどのように捉えるか考えるにあたって、ひとつ例文を見て頂きたい。


 ・砧にある老舗料亭割烹で昼食を頂く

 ・きぬたに昔からある和食店でランチした

 ・おひるごはんは、きぬたのおみせでたべました

 ・I have lunch at a long-established Japanese restaurant in Kinuta


 どの文章が一番読みやすい文章だろうか?

 このような形で提示されると「一番上の文章が読みやすい」と回答しがちになるが、正解は「読み手によって異なる」である。漢字が読めない子供にはひらがなの文章が読みやすいだろうし、難しい漢字が読めれば漢字仮名交じりの端的な文が読みやすい。日本語が読めなければ英文一択である。

 「どの小説が面白いだろうか?」も同じように読者によって異なる。ライトノベルのファンタージ作品が読みたい読者にとって、どれほど文学的に優れていようと純文学の作品は期待外れである。大勢の読者が面白いと感じベストセラーになれば、どれほど専門家の評価が低くても成功した作品である。

 文学的な評価や文章の良し悪しに意味が無いとは言わないが、「誰にとって面白い小説か」によって評価される小説の内容も変わってくる。本著ではその上で「対象とする読者にも面白くないと感じられそうなこと」の良くあるパターンを書いたつもりではあるが、あくまで私という一読者の面白さの感性に基づくものでしかなく、他の読者が同じように感じるとは限らないのである。

 


 また本著を書くにあたって、途中でカクヨムに投稿されている他の創作論も読ませて頂いたのだが、私の意見と真逆の記述のものもあり非常に興味深かった。その一例と合わせて「作品の人気」を得ることについても考えてみたい。

 もし私の理解不足で語弊があったら申し訳ないのだが、私の第一話での意見「タイトルは短く練られたものが良い」というものに対して、他の創作論で見かけたものは「タイトルはあらすじのように長く分かりやすいものが良い」というものである。

 これは正反対の意見となるため「どちらが正しいか?」と考えてしまうが、目的が異なるがゆえの相違であると思う。


 1. 100人に読んでもらいたい

 2. サイトのランキングに入りたい

 3. 書籍化したい

 4. 書籍化した本が売れたい


 Web小説の作者の目標となりそうな事柄をあげてみたものである。これらは同じ線上にある目標のように思えるが、効果的なマーケティング方法はそれぞれで異なる。

「100人に読んでもらう」には、相互のフォロワーや読み合いイベントに参加することが早い。「サイトのランキング」であれば、サイト内の読者の多数派に好まれる内容だとポイントを稼ぎやすい。「書籍化」であれば、ある程度の知名度と出版社の編集者に評価されることが必要となる。多くの読者に自費で書籍を買いたいと思ってもらえるほどのブランド力があり「売れる」作品は本当に一握りである。

 このようにそれぞれの目標に応じて効果的な方法にも違いがある。小説のタイトルの付け方も、「サイトのランキング」を意識した場合「長くわかりやすいものが良い」という意見も納得できる。一方で人気作の書籍化で改題されることがあるが、タイトルが短くなることは多いが長くなることは見たことがない。カクヨムのランキング上位作品と本屋大賞ノミネート作品の小説タイトルを見比べてみると、タイトルに関する意見に違いが出ることも分かりやすい。

 このように場面によって求められる事に違いがある中で、共通して行えることは「作品の質を高める」ことである。本著で触れた事柄は作品の人気向上に即効性のあることではなく、「どんな作品が面白くないか?」「どんな作品が面白いか?」と作品を推敲するために役立てるエッセンスを読者視点で書いたつもりである。

 ちなみにマーケティング的な即効性のある工夫に対しても、私は特に否定的な意見は無く本著では考慮していないだけである。人気の獲得に傾向して描きたい作品テーマや作品の質を疎かにはして欲しくないが、目標に向けた創意工夫はとても大切である。



 ここまでWeb小説の様々な事柄について述べさせて貰った。一読者の拙い文章ではあるが、少しでも読んで頂いた作者の皆様の創作活動の役に立つものとなれば幸いである。その結果より面白い作品が生まれれてそれを読むことができれば、読者として非常に嬉しい限りである。

 また私にとって初めての作品となった本著は、読者として思っていたことを表現できたと同時に、もっと伝えたい内容があるのでは?もっと伝わりやすい表現があるのでは?という後悔も尽きない。私自身が記した「納得のいく文章に書き直す」を実践する決意と共に締めとさせて頂く。


 最後までお読み頂きありがとうございました。

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