某日刊新聞55392号(2032/04/13) 『最高裁判所から上がる黒煙・・・』他2つから抜粋

*一部、明示不可能、または明示不必要な箇所が〈〉内で示されています。


以下は、某日刊新聞55932号より、『最高裁判所から上がる黒煙・・・』の記述の抜粋です。



【本文】

『十二日午後一時すぎ、大阪から東京に向かった〈某航空会社〉131便ジャンボ機(実田 侑太朗機長、乗客乗員五一一名)が飛行中に「日の丸人倫派」と名乗る十九、二十人の一団に襲われ、最高裁判所付近の道路に突っ込み、炎上した。

 犯人グループは機内にて、乗員を複数名殺害したのち機長に羽田空港管制塔へ連絡をさせた。機長が事態を連絡中、連続した二発の銃声と思われる音が響き、以降機長に変わって犯人グループの1人が対話に応じ「雨黙華を羽田空港に呼べ」と管制塔へ脅した。』



以下は、某日刊新聞55394号より、『[テロ] 自衛隊、首都最高警戒体制』の記述の抜粋です。



【本文】

『[機長と乗員を殺害、犯人操縦か]

——〈中略〉——時事通信は複数のテロ専門家の話を基に、どのような経緯で今回の事件が起きたかの推測した記事を伝えた。

 それによると、国際線よりも警備の薄い国内線を狙った犯行。金属探知機に引っかからない新型銃、もしくは3Dプリンタガンなどが使われた可能性もある。計画の緻密さから、数年がかりで練られたもよう。

 〈某首相〉は〈某県〉〈某市〉の〈某航空自衛隊基地〉にて記者会見をし、「人事倫理に背く行為である」と強く非難した。』



以下は、某月刊誌 2043年12月12日号掲載 岡本津悟牢しんごろう(2029)『あの日。あの時。』の一節です。



【本文】

『自分はとても惨めでした。

岡本は語った。


「まだたったの30年しか、彼女と一緒の屋根の下で暮らすことができなかった。

家に帰ると誰も居なかった。おかしいと思ってリビングに行くと、飼い猫が前足を横に広げさせられた状態で首を吊らされてた。俺の脳は正常だった。だからこそ、叫べなかった。何も声を発せなかった。


まじまじと死んだうちの飼い猫を見ていると気づいたんだ。

妻がそこに居なかった。


恐怖と絶望からなのか、そん時は怒りや心配よりも吐き気で倒れそうだったよ。フラフラになりながら壁沿いに歩いて家中を探した。でもどこにも居なかった。


一回落ち着いて考えてみようと思って、リビングに戻って深呼吸してみたんだ。スーッと、何回もスーッと肺に入れ込んだ。でも入ってくる空気が……こう、なんだろうな。さっぱりしなかった。エビの腐ったような匂いがしたんだ。

まるで下水溝が近くにあるような、そんな感じさ。そこで気づいたんだ。

俺はまだ便器の中を確認してなかったって。

足取りは遅いながらも急いで向かった。


んで恐る恐る便器の前に立って、恐る恐る空気を大きく吸ってみた。そこでとうとう俺はゲロっちまった。まだ便器も開けてねえのにだ。

もう人生半分嫌になりながら、やっと便器を開けたんだ。


中には何もなかったよ。いつも通りの便所だった。血も死体も糞もねえ、何もねえただの便所だったんだ。クソが、おれは……」


岡本は段々と荒々しくなる語気に気づいて、その口を止めた。


「すまない、それで……どこまで話したか忘れちまった。

だがうちの家はユニットバスで、風呂を使う時はいつも風呂蓋を使用してたんだ。あの日は誰かが使っていたよ。」


岡本は一時退席を要求した』

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