I WILL TAKE IT HARD TOMORROW! :(

 多分2040年の春ごろだったと思うのだけれど、

林政新聞のトップニュースを少し飾った出来事があってね。


熱帯雨林産の南洋材丸太を、

東南アジア諸国がマレーシアを皮切りに

数日かけて一斉に輸出禁止にしたんだ。

元から輸出規制はかかっていたが、

まあ東南アジア諸国貿易連合にアメリカの息がかかったのだろうね。

東南アジアに向けたアメリカ資本の輸出は羽振が良かったよ。


そもそも、南洋材丸太は輸出する割に利益がほぼ無かったんだ。東南アジアからしてみればいい機会だったんだろうね。


話を戻そう。

薪木を持った時から雨雲が去っていくように、

僕の中の違和感は日の光を浴びて丸裸になった。


薪木は硬くて重かった。それに年輪が全くと言っていいほど見えない、そんなものだった。

この特徴に当てはまり、

薪木として利用される樹木は、

大きな分類で見れば『寒暖差の小さい場所で育った広葉樹』


先生の家の周りは開発が進んで、ほぼ一帯が針葉樹林となっていた。

先生は業者に頼んでいるとは言ったが、

こんな山奥に木材を運べるような材木業者なら、先生の家の近くにあってもおかしくない。

それにそっちの方が、山の開発が進んでいる理由と合わせて整合性がとれる。


となれば、だ。

本当に材木業者が薪として持ってくるなら、針葉樹を持ってくる確率が蓋然的に高くなる。


猫というのは察しの良い動物ということを、その時になって知ったよ。

目線だけを僕の方に向けた彼は、すぐにサッとどこかへ歩いて行ったのさ。


「先生、この薪木は日本のものじゃない、海外の輸入品でしょう?」

そういうと先生は嬉しそうに笑った。

「さすがは私の愛弟子だ。君は昔から目の付け所が良いと思っていたよ!」


すると先生はおもむろに立ち上がったんだ。

腰に差してある僕の拳銃が威嚇するように黒光りしたよ。


再度見るとね、先生の顔から嬉々としたものは消え失せていて、正直怖かったよ。


「君が次にすることをあてて見せよう。腰にある拳銃で私を脅す。しかもその拳銃は3Dプリンタで作ったものだね?どうだね?」

「探偵になられた方がよろしかったのではないでしょうか?」

右手に拳銃を持ったまま、両手をあげたよ。あれだね、死を悟るってやつだ。それを感じた。


「それにしても薪木だけで私を異物扱いとは、証拠不十分すぎやしないかい。他にも理由があるのだろう?無ければ私は失望してしまうな」

「煙突からの煙の量が異常でした。あの煙の量となると……薪木に水分が多く含まれている。そうつまりそれは数年間ほど薪木を放置していた、と考えるのが妥当です。そこから推測するに、先生はこの家を数年間空けていたと考えました。」

先生は感心していた。


「妥協点だ。まあ君にはいずれバレると思っていたよ。予想以上に早かったがね。」

近くの棚の上に置かれていた拳銃へ先生の手が伸びた。

僕は挙げていた両手を気付かれないように下げていった。そもそも何故僕に拳銃を放るよう言わなかったのか、甚だあの時はわからなかったよ。


「ああ、怖がらなくたって良い。これは自分に対して撃つ用だ。」

最後に見えた先生のご尊顔には笑顔が咲いていた。

瞬間、拳銃を手に先生は先生自身の頭に銃口を当てた。

右前頭部だった。


トリガーが引かれると同時に、

硝煙は血飛沫と一緒に舞ったよ。

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